生態学
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また、景観保護[13]動物愛護[14]などの考え方とも結びついて、19世紀にはヨーロッパやアメリカにおいて自然保護の考え方が広まり始めた[15]。生態学者という用語は、19世紀の終わりから使われはじめた。
生態系の概念とタンズレイ

19世紀を越え、生物地理学の基礎となるべく、植物地理学動物地理学が結びついた。種の生息地・生育地を扱う生物地理学は、しばしば生態学と混同される。生物地理学は、ある種が特定の生息地・生育地になぜ存在するか、その理由を説明する試みである。

1935年、イギリスの生態学者アーサー・タンズリーは、生物群集生息空間 (biotope) との間に成り立つ相互作用の系を生態系 (ecosystem) と名付けた[16](実際はアーサー・クラファム(Arthur Roy Clapham)という説もある)。こうして生態学は、"生態系の科学"になったのである。
ラブロックのガイア仮説

第二次世界大戦後、地球上での人間の役割と立場に関する人間生態学の一分野では、核エネルギー工業化人口の社会的意義、工業国による天然資源の濫用、第三世界の国々で起こっている指数関数的な人口増加などの新しい課題に取り組んでいる。

ジェイムズ・ラブロックが彼の著作『The Earth is Alive』の中で提唱した「ガイア」(Γα?α) という世界観は、地球をひとつの巨大な生物に喩えている[17]。議論になるところではあるが、このガイア仮説は一般人の生態学への興味を増加させた。"母なる大地"であるガイアが「人間と人間の活動のせいで病気になりつつある」ととらえる者もいた。科学的視点では、この仮説は生物圏と多様性を世界規模の観点からとらえる新しい生態学とつじつまがあっている。
人類生態学

人類生態学(英語版)はシカゴにおける植生遷移変化の研究を通して1920年代に始まり、1970年代にひとつの研究分野として確立した。人類生態学では「地球上に広く生息する人間も主要な生態学的な要因(ecological factor)である」という認識に注目した。生息地の開発(特に都市計画)、集約的な漁業、あるいは農業工業活動を通じて人類は大きく環境に手を加えるからである。

人類生態学は、人類学者、建築家、生物学者、人口統計学者、生態学者、人間工学研究者、民族学者、都市計画研究者、医師といった研究者が参画する分野として始まった。

人類生態学は生態学の支流であり、人間、その組織的な活動、人間をとりまく環境についての研究を行う。これを human ecology や ecological anthropology 等と言う。

学問的研究と環境保護運動の過程における相互関係や、新宗教的なエゾテリック派によって思想/宗教/世界観に環境保全的な価値観が存在し、自然と人間との関係が深く影響されていると仮定する環境保全主義的イデオロギー(environmentalism)が近年の一般的な議論で目立ち始めている。この派閥は特に欧米の文化人類学者によって批判されてきたが、その理由として、仏教徒が元々自然保護派であり、キリスト教は単に世界征服を目指したモノテイズムである等と言った単純な理論立てが「環境」から「価値」へ議論テーマをそらしてしまう様であり、民族主義的な対立を引き起こす可能性が含まれているからである。仮に environmentalism の提言する宗教基盤の価値観が人間と自然の関係を左右するとしたら、日本特有である自然界を対象とする「神道」は環境保全に効果があるはずであるが、現実は違う。環境保全主義的イデオロギーの「パラダイム」(environmentalist paradigm)と呼ばれている派閥には多数の流れがあり、中には環境保全的アジアニズムといったナショナリストや欧米人であり、欧米社会環境で社会化した人が「反欧米的価値観」を主張するといった複雑な面もあり、environmentalism 研究と言う新たな分野が注目されている(Berkes 2001, Ingold 1993, Kalland 2003, 2005, Pedersen 1995)。生態学における知見は上記の「内心面的」なものに限らず、個人や集団の諸外部への関係へも発展した。その中で、例えば政策や都市経営に適用しようとする政治生態学(political ecology)が1920年代から研究されたが、この場合の「政治」は社会と経済も含まれている意味合いがある。なお、Roy Rappaport(1984)をはじめとする人間と生態系の関わりに見られる細かな関数的な相互影響のシステム論(サイバネティックス)と解釈する学派も存在する。後者は自然科学と文化研究の結合として発展していったが、メカニックな生態系解釈は批判の対象にもなっている。
生態学の基本法則
生態学の研究分野

生態学は生物学の一分野である。生態学で扱う対象は生物体、個体群、群集、生態系生物圏などである。生態学では、生物とそれをとりまく環境間の相互の関係に焦点を当てた研究を行う。そのため、地質学生化学地理学土壌学物理学気象学などの他の学問分野とも関連をもち、総合的な(=非還元主義的な)学問とされる。

以下に、生態学における諸分野を、スケールの小さな物から大きい物の順に列挙する。[18]
個体生態学 (organismal ecology)
環境による生物個体への影響を研究する。生理学(生態生理学)、進化生態学、行動生態学を含む。
個体群生態学 (population ecology)
個体数に影響する要因や個体数の変化を研究する。
群集生態学 (community ecology)
捕食や競争のような種と種の相互作用を研究する。
生態系生態学 (ecosystem ecology)
生態系と環境の関係を研究する。エネルギーの流れや化学的循環に着目する。
景観生態学 (landscape ecology)
生態系を横断したエネルギーや物質の循環、生物の移動に関して研究する。
地球生態学 (global ecology)
エネルギーや物質の循環が、生態圏・生物圏を横断した生物の機能や分布に与える影響について研究する。
生物圏と生物多様性

現代の生態学者にとっては、

個体レベル

個体群レベル

生物群集レベル

生態系レベル

生物圏レベル

といった幾つかのレベルで研究がなされ得る。

個体レベルで生態学的な視点と言えば、古くは生理生態学的なアプローチ、と言うことになろう。たとえばある種の海岸生物の分布域を、個体の耐塩性と関連づける、といったものである。近年では、行動生態学の進歩によって、行動や生活史の上での特徴までもが個体を単位に考える必要が示されている。

個体群レベルでは、対象は個々の生物の種、あるいはその一部である。ただしその個体を取り上げ、研究室内でその機能と構造を調べるのではなく、その生物が生存している場に於いて、さまざまな特性について考える。当然ながら対象とする地域は狭く、その生物の活動圏がひとつのまとまりである。

生物圏レベルの視点に立った場合、地球水圏岩石圏大気圏といった構成要素から成っている。大気圏の外側に磁気圏を置き、水圏と大気圏を流体圏として統合することもある[19]。ときに第四の要素として扱われる生物圏は、惑星上で生命が発展できる部分である。生物圏から人間活動部分を分け、人間圏とすることもある[19]

生物の大多数は-100?+100mの間に位置する区間に生息しているが、生物圏は深さ11,000m、海抜15,000mまでの非常に薄い表層である。

生命の起源はおよそ40億年前であると考えられている[20]。生命は当初、深海の熱水噴出孔や海水内など嫌気的な環境で発生し繁栄したが、27億年前に光合成能力を持つシアノバクテリアが誕生し、繁栄していくことで地球環境が大きく変化した。シアノバクテリアが放出する酸素の増大に従い、まず大気圏内の二酸化炭素やメタンが消費され、温室効果が消失して24億年前にはヒューロニアン氷期とよばれる最初の全球凍結期に突入した。22億年前にこの氷期は終結するが、この時期には海中でも鉄の酸化が活発となり、縞状鉄鉱床がさかんに生成された。19億年前にこの酸化も終わると大気中の酸素分圧が目立って増加し、窒素と酸素からなる現在の地球の大気となっていった。生物圏の活動が大気圏や水圏におよぼした、最も大きな影響のうちの一つである。この変化は生物圏内にも巨大な影響を与え、それまでの嫌気性生物は海中深くなど特殊な環境を除いて大量に絶滅し、かわって酸素を必要とする生物が主流となった。この変化は生物の複雑化につながり、19億年前には真核生物が登場し[21]、やがて多細胞生物が現われた。


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