現代の宇宙論は大まかに言って宇宙に存在する最も大きな天体(銀河、銀河団、超銀河団)を扱い、また宇宙の最も初期に形成された独特の天体(クエーサー)や、ほぼ一様だった最初期の宇宙自身を研究対象とする。
素粒子物理学の実験結果に強く影響されること、研究内容が天体物理学や一般相対性理論、プラズマ物理学から現象学や超弦理論(M理論)、量子力学などに及ぶといった点で、物理学の中では異質の学問分野である。 以下に現代宇宙論での最も活動的な研究分野のいくつかを大まかな時系列順に挙げる。このリストはビッグバン宇宙論の全てを網羅するものではない。 初期の高温の宇宙については、宇宙創生から約10-33秒後から始まったビッグバンによってうまく説明されるが、いくつかの問題もある。その一つは、現在の素粒子物理学の理論からは、宇宙が平坦で一様・等方になる必然的理由が存在しない、というものである。しかも、素粒子物理学の大統一理論では宇宙にモノポールが存在するはずだが、実際には全く見つかっていない。これらの問題は、宇宙初期にインフレーションと呼ばれる時期が存在したと仮定することで解決される。このインフレーションによって我々の宇宙は平坦になり、非等方性や非一様性も観測可能なレベル以下に均され、モノポールも指数関数的膨張によって薄められる。インフレーション宇宙の背後にある物理モデルは非常に単純だが、これはまだ素粒子物理学の側面からは検証されておらず、インフレーションと量子場理論の両立には困難な問題が存在している。宇宙論研究者の中には、ひも理論やブレイン宇宙論がインフレーションに代わる解決策を提供すると考えている人々もいる。 宇宙論におけるもう一つの大きな問題に、我々の宇宙には物質が反物質よりも多く含まれているという問題がある。宇宙論研究者は宇宙のX線観測によって、我々の宇宙は物質と反物質が占める領域に分かれているのではなく、圧倒的大部分が物質でできている、と推定している。この問題はバリオンの非対称性と呼ばれ、このような非対称性が生まれた過程をバリオン数生成と呼ぶ。バリオン数生成の理論は1967年にアンドレイ・サハロフによって作られ、バリオンと反バリオンの非対称性が生み出されるためにはCP対称性と呼ばれる素粒子物理学の対称性が物質と反物質について破れていることが必要とされている。しかし現在の加速器実験では、CP対称性の破れの測定値はバリオンの非対称を説明するには小さ過ぎることが分かっている。宇宙論研究者と素粒子物理学者は初期宇宙に存在した別のCP対称性の破れがバリオン非対称を説明するかもしれないと考えている。 バリオン数生成の問題とインフレーション宇宙の問題は共に素粒子物理学と深く関係しており、その解決は宇宙の観測よりも高エネルギー物理学の理論や実験からもたらされるかもしれない。 ビッグバン元素合成は初期宇宙での元素の生成理論である。初期宇宙での元素合成は宇宙創生から約3分が経過し、宇宙の温度が核融合反応が止まるほどに下がった時点で終了した。ビッグバン元素合成が起こった時間はこのように短いため、この過程で作られた元素は恒星内部での元素合成と異なり最も軽い元素のみだった。元素合成は水素イオン(陽子)から始まり、主として重水素とヘリウム4、リチウムが作られた。これ以外の元素はごく微量しか作られなかった。元素合成の基礎理論は1948年にジョージ・ガモフ、ラルフ・アルファー、ロバート・ハーマン 宇宙マイクロ波背景放射は、原子が最初に形成され、ビッグバンによって生み出された放射が荷電イオンによるトムソン散乱を受けなくなった再結合期(宇宙の晴れ上がり)以来残っている放射である。この背景放射は1965年にアーノ・ペンジアスとロバート・ウィルソンによって最初に観測され、完全な黒体放射のスペクトルを持っている。放射の温度は今日では2.7Kで、105 分の1の精度で等方的である。初期宇宙のわずかな非一様性の進化を記述する宇宙論的ゆらぎの理論によって、研究者は背景放射の角パワースペクトルを正確に計算することができ、同時に最近の衛星観測実験(COBE や WMAP)や多くの地上観測・気球観測実験(Degree Angular Scale Interferometer, Cosmic Background Imager, MAXIMA, BOOMERanG)によって測定が行なわれている。これらの研究の目標の一つは、Λ-CDMモデルの基本パラメータを高い精度で測定することであり、またビッグバンモデルの予言をテストし、新たな物理学を探求することである。例として、最近行なわれた WMAP による観測結果はニュートリノの質量に制限を与えている。 また、宇宙マイクロ波背景放射の偏光を測定するという新たな実験も試みられている。これによって理論がさらに確認され、また宇宙のインフレーションや、銀河や銀河団と宇宙マイクロ波背景放射との相互作用によって起こるスニヤエフ・ゼルドビッチ効果やザックス・ヴォルフェ効果といったいわゆる第二の非等方性に関する情報が得られるものと考えられている。 宇宙で最も大きな、また最も初期に存在した構造(クエーサー、銀河、銀河団、超銀河団)の形成と進化について理解する研究は、宇宙論の主要な目的の一つである。現在、宇宙論に関わる研究者は階層的構造形成モデルを標準モデルと考え研究を行なっている。これは宇宙に存在する構造はより小さな天体から作られ、そこから小質量の構造が衝突・合体を繰り返すことで、銀河団・超銀河団のような大質量の構造が形成されたとするモデルである。この様に小質量の構造から構造形成が進むシナリオはボトムアップ・シナリオと呼ばれている。超銀河団のような最も大きな構造は、ビリアル平衡
歴史「宇宙論#現代」を参照
研究分野
最初期の宇宙
ビッグバン元素合成詳細は「宇宙の元素合成」を参照
宇宙マイクロ波背景放射詳細は「宇宙背景放射」を参照
大規模構造の形成・進化詳細は「宇宙の大規模構造」を参照
このような構造形成を理解するための重要な道具として計算機によるシミュレーション(N体シミュレーション)がある。宇宙論研究者は数値シミュレーションを用いて、宇宙で物質が重力で凝集し、フィラメントや超銀河団、ボイドといった構造を作る過程を研究している。ほとんどのシミュレーションではバリオンでない冷たいダークマター
のみを用いている。この仮定は宇宙の最も大きなスケールでの振る舞いを理解するためには十分なものである。なぜなら我々の宇宙には目に見えるバリオン物質よりもはるかに多くのダークマターが存在するためである。現在ではバリオンも計算に含み、個々の銀河の形成を研究するより高度なシミュレーションも始まっている。宇宙論研究者はこのようなシミュレーションによって、計算結果が銀河のサーベイ観測と一致するか、また不一致がある場合にはその原因を理解できるかどうかを調べている。またこれ以外にも、遠方の宇宙の物質分布を測定したり宇宙の再電離の時期を検出するための補完的手法がある。例として以下のようなものがある。
ライマンαの森と呼ばれる、遠方のクエーサーの光に含まれる銀河間ガス雲の吸収線を測定することで、初期宇宙の中性水素原子の分布を測定することができる。
中性水素原子の21cm線の吸収線の測定も宇宙論の高精度のテストとして用いることができる。
ダークマターの重力レンズ効果によって遠方天体の画像が歪む弱い重力レンズ (weak lensing) も研究に用いることができる。
このような手法は、最初のクエーサーがいつ生まれたかといった問題を解く手掛かりとなる可能性がある。
ダークマター詳細は「暗黒物質」を参照
ビッグバン元素合成や宇宙マイクロ波背景放射、構造形成の研究によって得られる証拠から、我々の宇宙の質量の約25%は非バリオンのダークマターで、目に見えるバリオン物質は約4%に過ぎないことが分かっている。ダークマターの重力効果はよく理解されており、ダークマターは銀河を取り巻くハロー状に存在し、低温(相対論的速度を持たない)で、放射を出さない物質のように振舞う。