メスは牙が短い為、牙を直接用いた攻撃をする事は少ないが、代わりに大きな顎で噛み付く場合がある。メスであっても小動物の四肢の骨程度であれば噛み砕く程の力があり、遭遇した観光客に噛みついて重軽傷を追わせた事例がある[12]。 生息域は低山帯から平地にかけての雑草が繁茂する森林から草原であり、特に身を隠せる藪[5]や水場が近い場所を好む。 食性は基本的に山林に生えている植物の根や地下茎(芋など[13]。冬場は葛根も食べる)、果実(ドングリなど)、タケノコ、キノコなどを食べる、草食に非常に偏った雑食性(植物質:動物質≒9:1)である。芋類は嗅覚で嗅ぎ付け、吻と牙で掘り起こして食べる。動物質は季節の変化に応じて昆虫類、ミミズ、サワガニ、ヘビなどを食べる。食味が良く簡単に手に入れられる農作物を求めて人家近辺にも出没することがある。穀物も採餌対象であり、田畑で実った稲[14]やトウモロコシも食害に遭う。鳥類やアカシカなど小型哺乳類なども採餌し、死骸が落ちていた時に食餌する。 野生下での寿命は長くて10年であり、一年半で性成熟に達する。幼少期には縞模様の体毛が体に沿って縦に生えており、成体よりも薄く黄褐色をしている。イノシシの幼少期は天敵が多く、この縞模様は春の木漏れ日の下では保護色を成す[15]。その姿かたちがマクワウリの一種に似ていることからウリ坊(ウリン坊とも言う)、うりんこ、うりっことも呼ばれ、この縞模様は授乳期を過ぎた生後約4か月程度で消える(なお、マンガリッツァ等ブタの一部の品種にはこの形質が残っているものもある)。 繁殖期
生息域と食性
寿命および生育ウリ坊イノシシの授乳
巣は窪地に落ち葉などを敷いて作り、出産前や冬期には枯枝などで屋根のある巣を作る。通常4月から5月頃に年1回、平均4.5頭ほどの子を出産する。秋にも出産することがあるが、春の繁殖に失敗した個体によるものが多い。妊娠期間は約4か月。雄は単独で行動するが雌はひと腹の子と共に暮らし、定住性が高い。子を持たない数頭の雌がグループを形成することもある。
身体能力イノシシの骨格
視力は0.1以下で100m程度が視認範囲とされる[16]。また眼球が顔の側面にあるため立体視は不得意とされる[16]。嗅覚は鋭く土中の根菜の位置を詳細に把握することが確認されている。多くの野生動物と同じく山火事と関連がある焦げた匂いを嫌う[17][18]。聴覚も良く超音波も聞き取ることが出来るが忌避反応は示さない。麻布大学獣医学部講師の実験により200?500Hzの音に逃避反応を示すことが報告されている[19]。
短い脚と寸胴に似た体形に見合わない優れた運動能力を持ち、最高ではヒトの短距離走世界記録保持者(100mを約9秒台後半から10秒、時速36km強)をも凌ぐ約45km/hの速さで走ることが可能で、5m程の距離であれば人間が反応できない速度で詰め寄ることができる[7]。
跳躍力も高く農研機構近畿中国四国農業研究センターの実験では、70kgの成獣が121cmの高さのバーを助走もなしに跳び越えたことが確認されている。また吻と牙で土を掘り起こせるため、飛び越えられない高さの柵でも支柱の下の土を掘る、背の力を使って下から押し上げる、突進して破壊するなどの行動により柵で囲われた農地にも容易に侵入できる。ただし立体視が不得意なため94cmの柵でも忍び返しを設置するとより高い柵だと錯覚し、踏切位置を下げすぎて飛び越せなくなる[16][20]。扁平になった鼻の力(実際には首?上肢の力)はかなり強く、雄で70kg以上、雌でも50?60kgもある石を動かすことができる。これを利用して倒木などの障害物により直接口を付けられない餌も採餌できる[21]。
積極的に水へ入ることはないが、餌を探す際には水路に沿って移動するため[22]、追い立てられるなどしてやむを得ず泳ぐことから川辺や海辺で遭遇する事例もある[7]。犬かきで時速4km程度を出せ、30kmの距離を泳ぐことも不可能ではないという[23]。瀬戸内海では島の間を渡るイノシシが度々目撃されている[24]。欧米でも「グッド・スイマー」と呼ばれているという[25]。兵庫県立大学准教授の栗山武夫によると、イノシシが生息する日本の離島は1978年時点の約30から2013年には約220へ増え[26]、海外でも湖や海を泳いで渡るイノシシが観察されている[27]。
積極的に前進することや向こう見ずに進むことを「猪突猛進」といい、これはイノシシが真っすぐにしか進めないところからきていると言われている。実際には他の動物と同様、目の前に危険が迫った時や危険物を発見した時は急停止するなどして方向転換することができ、真っすぐにしか進めないという認識は誤りである。 大型肉食動物(トラ、ライオン、ヒョウ、オオカミ、クマ、ワニ、コモドオオトカゲ、大蛇など)とイノシシの生息地が被る際には、主にイノシシの幼獣を含む中小の個体が他の有蹄類と同様に捕食対象となるが、普段から藪に隠れて行動し、危険を察知すると即座に逃走するため容易には捕食されない。逆に、オスの大型個体であれば、牙と突進により返り討ちにするケースも見られる。 それらが生息していない地域や、過去には生息していたが現在では絶滅している地域では、成獣を殺害・捕食する大型動物は人間以外にはほぼ存在しない。そうした地域では野犬やカラス、キツネや大型の猛禽類等が、イノシシの幼獣を捕食する程度である。 以上のように、イノシシにとって「人間こそが最大の天敵」と言える。生きたまま網で捕獲された事例では、鉄製の「箱罠」「囲い罠」や、地中に罠を作っておく「くくり罠」などを利用することが多いほか、男性の警察官が十数名で囲み取り押さえている[22]。 Mammal Species of the World, 3rd edition によれば、イノシシには16の亜種が確認されている[28]。ただしこの資料はブタを扱っていない。 日本列島には、イノシシの亜種であるニホンイノシシとリュウキュウイノシシの2亜種が分布している。ニホンイノシシは本州、四国、淡路島、九州等に生息する。リュウキュウイノシシは南西諸島の奄美大島、琉球諸島の一部(沖縄島、石垣島、西表島等)に分布している[29]。北海道は現代のイノブタを除き野生のイノシシが自然分布していない[30]。
天敵
分類
亜種
Sus scrofa algira
Sus scrofa attila
Sus scrofa cristatus
Sus scrofa davidi
Sus scrofa leucomystax - ニホンイノシシ
Sus scrofa libycus
Sus scrofa majori
Sus scrofa meridionalis
Sus scrofa moupinensis
Sus scrofa nigripes
Sus scrofa riukiuanus - リュウキュウイノシシ
Sus scrofa scrofa
Sus scrofa sibiricus
Sus scrofa taivanus
Sus scrofa ussuricus
Sus scrofa vittatus
日本のイノシシ六甲山(兵庫県)の看板
ニホンイノシシニホンイノシシ(日本猪、Sus scrofa leucomystax)ニホンイノシシの脚