イノシシを家畜化したブタと同じ部位を比較すると、水分やミネラル、タンパク質は猪肉の方が豚肉より多い[26]。一方で脂肪やビタミンB1は豚肉の方が多く、特に猪肉の脂肪はばら肉でも約12%と、豚肉の半分以下である[26]。また、体重が30kg未満の個体の肉は、それ以上の体重の個体に比べて加熱後も柔らかく肉汁の量が多いという特徴がある[27]。
屠殺後、猪肉中のタンパク質は酵素などの作用によって代謝される[28]。この際、屠殺後の温度が高いほどグルタミン酸の生成量は多くなり、また冷蔵保管すると時間の経過とともにグルタミン酸が増加する[28]。一方で、イノシン酸は5°C以下で冷蔵すると3 - 4日後まで増加し、その後は減少に転じる[28]。このため、屠殺後に外気温で放置するとグルタミン酸は豊富だがイノシン酸が極度に少なくなり、冷却した方が両者の相乗効果によってうま味が増す[28]。
夏季のイノシシは栄養状態が年間で最低の状態にあり、秋季から堅果類を食べると状態が改善されて、初冬までにかけて脂肪の蓄積量が増える[29]。また、年ごとに異なる堅果類の採取可能量や種類によってもイノシシの栄養状態は影響を受け、クヌギなどのコナラ属より脂肪含有率の低いスダジイなどシイ属の実が主な食料となる場合は、猪肉の脂肪量は低下する[29]。
猪肉に含まれる水分は夏から秋に捕獲されたイノシシの肉が最も少なく、冬に捕獲されたものが最も多い[30]。また、加熱後の肉汁の量も冬季のものが最も多く、一方で硬さを表すせん断力は夏季のものが最も高い[30]。すなわち、冬季に捕獲した猪肉はジューシーで柔らかく、夏季の猪肉は硬くて脂肪含有量も低いという傾向がある[31]。冬季の猪肉は高価格だが夏季は需要が少ない日本の市場の傾向は、肉質の特性を反映していると考えられる[31]。
日本国内の主な猪肉産地
栃木県那珂川町 - 2009年にイノシシ専用の食肉処理施設を建設し、八溝山地などで捕獲されたイノシシを食肉に加工している[32]。八溝ししまるという商標で年間100頭以上を処理して町内外の飲食店などに出荷しており、農業の獣害対策を兼ねている[33]。
群馬県中之条町 - 2007年から、あがしし君処理工房というイノシシ専用の食肉処理施設を運営し、年間100頭以上を処理している[34]。
三重県大台町-2000年ごろから食肉処理施設を持つ業者が、町内で獲れたイノシシを食肉に加工している。みえジビエという特別な処理方法で食肉加工した肉を名産品として売り出しており、町内では食事処「花咲くところ」にて食べることが出来る。
兵庫県丹波篠山市 - 近世以前から付近の里山に生息するイノシシの肉を食べる習慣があり、20世紀前半には篠山連隊の給食にも用いられたという[35]。1970年代頃までは年間数千頭が狩猟され、全国に出荷されていた[36]。しかしグルメブームによるぼたん鍋の人気過熱などから乱獲が進み、篠山地区の里山に生息するイノシシは2000年頃には200 - 300頭まで減少した[37]。
島根県美郷町 - 2004年におおち山くじら生産者組合(2017年 株式会社おおち山くじらへ事業譲渡)が旧・邑智町で設立され、その後は年間300頭以上の捕獲イノシシのうち100頭以上を食肉加工している[38]。精肉だけでなく、焼売や肉団子などの加工食品も町内のグループによって生産され、道の駅などで販売されている[39]。
広島県呉市 - 倉橋島では、旧・倉橋町が2002年に農産物加工センターを増築する形でイノシシの食肉処理施設を設置した[40]。また、旧・川尻町では2004年に野呂山にイノシシの解体処理施設を建設し、猟友会に運営を委託している[41]。年間数十頭が食肉加工され、野呂山の国民宿舎に提供されている[41]。
長崎県佐世保市 - 旧江迎町では2003年から食肉処理施設を運用し、年間数十頭を処理している[42]。