独立命令
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独立命令(どくりつめいれい)は、行政府が法律を根拠とせずに独立に定める命令。行政立法の一種であるが、執行命令(法律を執行するための命令)および委任命令(法律の委任に基づく命令)とは区別される。歴史的には、議会に対して行政府の力が強い立憲君主主義の下で認められていた例が多く見られるが、現代においてもこれを認める例がある。
フランス

復古王政期のフランスにおいては、1814年憲章(fr:Charte de 1814)第14条が明示的に国王の独立命令権を定めていた。また、現代においては、第五共和国憲法が、従前は(運用上はともかく建前としては)否定されていた独立命令を正面から認めている。すなわち、同憲法第34条に限定列挙された法律事項(domaine du la loi)以外の事項については第37条第1項により命令事項(domaine du reglement)とされており、これについては独立命令(fr:reglement autonome)が許容されている。命令 (フランス法)を参照。
ドイツ

ドイツ帝国においては皇帝の独立命令権が事実上認められていたが、議会の力の強大化に伴い19世紀末に否定された。
日本
旧憲法

大日本帝国憲法下において、独立命令は、法律とは独立に天皇の大権によって発する命令を指し、法律を執行するためにする命令(執行命令)や、委任に基づく命令(委任命令)とは区別される[1]。これを「独立命令」というのは、法律に対して独立であるという意味であって、法律に従属するものではないことをいう[1]

独立命令は、法規命令行政命令の両者を包含する。諸国の憲法では、おおむね、独立命令で規定することができる範囲を行政命令のみに限定し、法規命令は独立には発することができないとするのを普通としているが、大日本帝国憲法は、行政命令だけではなく、ある範囲においては法規命令をも独立に発することができるものとした[2]

大日本帝国憲法が定める独立命令は、9条後段に定める命令と、天皇大権事項を定める命令とに大別される[3]
9条後段に定める命令

9条後段は、「公共ノ安寧?秩序ヲ保持シ及臣民ノ幸福?ヲ攝i?スル爲ニ必要ナル命令」と規定しているが、「公共ノ安寧?秩序ヲ保持シ」というのは消極的に社会に対する障害を防止し、除去することを意味し、「臣民ノ幸福?ヲ攝i?スル」というのは、積極的に社会の福利を増進し、開発することを意味する[4]。前者による独立命令は警察命令といい、後者による独立命令は行政命令の性質を有する[5]
警察命令

警察命令をもって定めることができる範囲は、公共の安寧秩序を保持するために必要な限度にとどまる[5]。「秩序ヲ保持」するとは、社会生活の健全な状態を保持するという意味であって、社会の健全な状態を妨げるべき障害が起きようとするのを防ぎ、すでに起きた障害を除くことを意味する[5]。警察命令は、このような目的に必要な限度においてのみ発することができるが、この目的に必要であるか否かは、政府が認定するよりほかないため、全くこのような目的のためにするものではないと認めるべき場合を除くほかは、必要の程度を超えたことを理由として命令を無効とすることはできない[5]

また、警察命令は、人民に国家に対する義務を命じ、又は行政機関に対して人民にその義務を命ずる権能を授与することしかできない[5]。警察命令の目的は、社会の秩序を保持することにあって、私法関係の秩序を保持することではないから、私人相互の関係において、法を作り、法を維持するようなことは、警察命令をもって行うことはできない[6]。警察命令で定めることができるのは、ただ、社会の秩序を維持するために必要な限度において、人民に社会上有害な行為を禁止し、有害なるべきおそれがある行為について許可を受けさせ、社会上必要な行為を命じ、又は行政庁の強制を受忍してこれに抵抗すべからざる義務を負わせることだけである[6]。これらの義務を、「警察義務」という[6]。警察命令は、自ら警察義務を定め、あるいは、行政機関にその義務を課しうべき権能を授与する[6]。後者の場合、警察義務は、行政行為によって初めて成立するものであって、命令は、ただその根拠を与えるだけである[6]

警察命令は、法律の制限内において、罰則を定めることができる[6]。命令ノ条項違犯ニ関スル罰則ノ件(明治23年法律第84号)[7]は、200円の罰金、1年の懲役を最高限度として、これ以下の罰則を命令に付することを可能としている[6]

警察命令は、法律のもとにその効力を有するものであるから、法律に抵触する規定を設けることはできない[6]。また、法律に直接抵触しないとしても、すでに法律が規定している事項について命令が定めることはできない[6][注釈 1]
行政命令

「臣民ノ幸福?ヲ攝i?スル爲ニ必要ナル命令」は、警察命令とは異なり、人民に義務を命ずることを内容とすることができない[8]。「幸福?ヲ攝i?スル」とは、利益を供給することを意味し、負担を課すことを意味しない[8]。国家は、社会の福利を増進するために諸種の公益事業を経営し、公益上必要な物的施設を維持し、また、民間の事業を保護奨励するものであるが、この命令は、人民がこれらの事業又は施設を利用する条件を定め、又は民間の事業を保護奨励するための準則を定める命令をいう[8]。いずれも、人民の自由を制限し、又は権利を拘束するものではなく、人民に提供すべき利益の内容を定め、人民にその定める条件で任意にその利益を享受することができるようにするものであるから、この命令は、法規としての性質を有するものではなく、行政命令に属するものである[8]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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