ここでいう物語(narrative)とは、古典文学や口承文芸における物語のことではなく、ある「筋」によってまとめられるような、統一性のある表現一般を指す(トドロフ)[3]。典型的には虚構の文学作品に見られるものを指すが、広義には映画などの映像作品や、日常会話なども視野に入れることができる。 物語には少なくとも一人の語り手(narrator)が想定される。語り手は人格等が明瞭な場合もあれば、そうでない場合もある。語り手がいれば、語りを聞く相手としての聞き手(narratee)が想定される[4]。 語り手は、物語られる状況・事象から距離を置いて物語る[4]が、自ら登場人物の一員として振る舞っている場合もある。 語り手は、作者とは区別される。現実世界に肉体を持って存在する作者(作家)とも異なるし、表現から再構成される作者(内包された作者 implied author・暗黙の作者)とも区別される[4]。語り手は言葉によって状況・事象を物語るが、内包された作者はそうではなく、語り手によって物語られた言葉の選択や配列の責任を持つのみである[4][5]。人格を顕さずに淡々と物語る語り手の場合、語り手と内包された作者の区別は曖昧になるとされる[6]が、概念上は上記のように明確に区別される[5]。また一人称私小説の場合も両者は混同して受け取られることが少なくない。 聞き手もまた現実世界に肉体を持って存在する読者(英: reader)とは区別される。語り手はある程度特定された聞き手に向かって語ると想定されるが、それは無数に存在しうる読者のことではない。また内包された読者(英: implied reader)・暗黙の読者とも異なる。内包された読者とは表現から推定される読者像のことである。これらは「素養のある読者」[7]とも異なる概念である。 ジュネットの用語によると、仏: histoireと仏: recitとは区別される。前者は「物語内容」と訳され、語られる話の内容のことである。後者は「物語言説」と訳され、テクストそれ自体、つまり言語で表現された結果物のことである。これらは、フェルディナン・ド・ソシュールの言語理論にある「シニフィエ」「シニフィアン」からの類推による。そして物語を語るという行為のことを"narration"「物語行為」という。 ジュネットは"temps"「時制」・"mode"「法」・"voix"「態」という文法用語を参考に理論を整理した。 物語内容の出来事が生起する時間的順序と物語言説の提示される順序との関係を扱う領域である。しばしばこの順序は食い違うことがあり、「錯時法 物語内容の時間的長さと物語言説の長さ(つまり行数・ページ数など)との関係を扱う領域である。言い換えれば物語言説の「速度」のことである。これには4つの種類がある。 物語内容における出来事の生起の回数と物語言説における叙述の回数との関係を扱う領域である。3つの種類がある。 物語世界を構成する情報を全て提示することは不可能なので、情報を選別・加工して制御し、物語内容の「再現」("representation")の諸様態を扱う領域である。これは「態」の領域で扱う事柄とは明確に区別されるべきことをジュネットは強調する。
語り手と聞き手
語り手と作者、聞き手と読者
物語内容と物語言説
ジュネットの理論
時間
順序
後説法 - 昔の事柄を後から語る場合。
先説法 - これから起こる事柄を先取りして語る場合。
持続
休止法 - 物語内容=0、即ち物語内容 <∞ 物語言説。つまり静止した情景を描写する場合。
情景法 - 物語内容 = 物語言説。例えば会話の場面など、両者のスピードが一致している場合。
要約法 - 物語内容 > 物語言説。物語言説を圧縮して語る、基本的な叙述。
省略法 - 物語言説=0、即ち物語内容 ∞> 物語言説。つまりあったはずの出来事を記さず、話が飛んでいる部分。
頻度
単起法 - 1対1。起こった回数と同じだけ叙述する、一般的な方法。
反復法 - 1対n。同じ事柄を何度も語る場合。
括復法 - n対1。何度も起こった出来事を1回で語る場合。
叙法
距離
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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