燃料噴射装置
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基本的な噴射時間はエアフロメーターで計測された吸入空気量により決定されるが、そのままではラフなアクセル操作などにより急激に燃調が濃くなった際にエンジンが不調となったり、排気ガスの濃度が増すため、排気管内に設けられたO2センサーで空燃比を計測し、その計測結果に応じて開弁時間の補正を行うことで高性能と排出ガスの低エミッション化を両立している。

初期のインジェクターは水鉄砲様の単孔式プレーンノズルであったが、近年[いつ?]のインジェクターはスプレーノズル(en:Spray_nozzle)の概念を取り入れ、ノズルの内部構造を複雑なものとしたり、スプレーチップ先端に複数の穴が開けられた樹脂カバーを装備することで燃料の霧化をより促進してさらなる燃焼効率の向上を図っているものもある。
制御方式

2013年現在、ほぼすべての燃料噴射装置が電子制御になった。

コモンレール方式は、燃料を、噴出装置までレール(高圧パイプ)を使って送り、電子制御で噴射する。

ユニットインジェクターは、シリンダー上部に注射器のように取り付け、カムによって噴射する。電子制御は、噴射量を減らす操作を行う。インジェクターまでは低圧のパイプでつながっている。カムによる圧縮で2,000気圧の高圧噴射を可能にしている。

機械式

電子制御式が普及する以前の機械式による燃料噴射の技術。クーゲルフィッシャーのプランジャ式燃料噴射ポンプ

燃料噴射量の決定に電子式の演算装置を用いないもの全般を指す。
クーゲルフィッシャー
ドイツのFAG(ドイツ語版)が製造していた機械式の燃料ポンプで、基本構造とシステムとしてはディーゼルエンジンの燃料噴射方式と同様で、気筒数分のカムプランジャーを内蔵させたインジェクションポンプをエンジンの動力によって作動させ、各気筒の吸気ポートに噴射させる方式(筒内噴射ではない)。噴射量制御もディーゼル同様アクセル開度に連動した遠心ガバナーラック・アンド・ピニオンによるプランジャーの圧縮ストローク制御となる。1960年代から1970年代前半のポルシェメルセデス・ベンツBMWプジョーランチアなどに使用例がある。
三菱重工業によるクーゲルフィッシャーのデッドコピー
大日本帝国海軍第二次世界大戦中、同盟国のドイツからの技術導入でインジェクターの国産化を狙ったが、技術機密の流出を危惧したドイツ側に拒否されてしまった。そこでライセンス生産を目的として輸入したダイムラー・ベンツDB601エンジンに装着されていたインジェクターを三菱重工にリバースエンジニアリングさせ、デッドコピー(無許可複製)で生産させていた。三菱重工業が手がけた理由は、同社が戦前期すでに直噴式ディーゼルエンジンを実用化していたことによる。同社の航空機用空冷星型エンジンの他、DB601を国産化した愛知航空機製のアツタ川崎飛行機製のハ40も、クーゲルフィッシャーの製造ライセンスが得られなかったため、三菱のデッドコピー品を使用していた。しかし、初期は工作の不慣れから、後に工業技術力の低下により、インジェクターとしての完成品のうち検査合格品は2割程度だったとされる。一方、B-29迎撃に活躍した局地戦闘機『雷電』五式戦闘機など、三菱製インジェクターエンジン搭載機はそれなりの実績を上げている。
ボッシュ・Kジェトロニック (K-Jetronic) (1973?1994年)
ディーゼルエンジン用の燃料噴射装置の流用では機構構造が複雑で、重量や価格の面でも一般的な量産車には向かないため、コスト低減のために開発されたのがKジェトロニックである。フラップ式のエアフローメータが噴射量を制御するプランジャーに機械的に直結している。燃圧は、フューエルポンプで圧送された燃料をレギュレーターで制御するのみで、カムとプランジャーによる加圧は行わない。また、燃圧も上記ディーゼル流用タイプに比べ、低い(おおむね5bar程度と、後年の電子制御式燃料噴射に比べればやや高いが)ことが特徴で、全気筒に対し連続的に燃料噴射を行なう。こちらはフォルクスワーゲンアウディ、BMW、メルセデス・ベンツ、ロールス・ロイスベントレーロータスフェラーリ、プジョー、ルノーボルボデロリアンフォードヨーロッパなど18社の自動車メーカーが採用した。名称の「K」は、ドイツ語で「連続的な、持続的な」を意味する「Kontinuierlich」に由来する。
ボッシュ・KAジェトロニック
三元触媒装着車に対応するため、排出ガス中の酸素濃度に応じた噴射量の制御機能を追加したタイプ。酸素濃度を測定するO2センサー信号を、簡単なコンピュータにより処理し、燃料噴射量を制御するという意味では「電子制御式」であるが、主要な燃料噴射の制御はKジェトロニック同様のフラップ式エアフローメータが制御プランジャーと構造的に直結しているもの。

この時期の機械式インジェクションは主にエンジンの出力アップを目的としていたため、その後の排出ガス規制には適応できず、電子制御式に取って代わられた。
電子制御式

燃料の噴射に電子的な演算を行なうタイプを広く指す。2013年現在「燃料噴射装置」や「インジェクション」というと大抵こちらの電子制御式である。
ボッシュ・
Dジェトロニック(D-Jetronic)(1967?1976年)
吸入された空気量を直接計測するシステムではなく、圧力センサーで計測したスロットルボディ付近の吸入空気圧を基本データとし、吸気温センサーで計測した吸入空気温度とスロットル開度センサーからのスロットルバルブ開度の情報を補足データとして、吸入された空気量を予測する。これも初期タイプは出力アップのみを目的としていたが、O2センサーと三元触媒を装着することによって排気ガス浄化システムとして継続している。コストが抑えられるため日本では気筒数の少ない軽自動車や小型自動車用のインジェクションシステムとして使用されている。'D'は ドイツ語の"Druck"(圧力)を意味しており、エンジン温度、エンジン回転数と並んで、吸入エア量をインテークマニホールドに設置された負圧センサで測定したインテークマニホールド圧を元に計算が行われ、インジェクタ内のシステム圧を一定に保つ電動フューエルポンプと組み合わせた。
VW 1600 LE/TLEに搭載され、量産型乗用車世界初の電子制御式ガソリン燃料噴射システムとして1967年に登場した。
ボッシュ・Lジェトロニック(L-Jetronic)(1974?1989年)
吸入された空気量をエアクリーナーとスロットルボディの間に装着したエアフローセンサーで直接計測することで、吸入空気量を基本データとして燃料噴射量を決定する。エアフローセンサーは、初期タイプではフラップ式のものが使われていたが、これだと吸気管内での
抵抗になるため、ホットワイヤー式やカルマン渦式のエアフローセンサーが採用されるようになった。吸入空気の脈動による計測誤差が少ないので、気筒数の多いエンジンに採用されることが多い。また、吸入空気を過給するターボチャージャースーパーチャージャーを装着させたエンジンにも向いている。三元触媒が排出ガス浄化に用いられるようになり、O2センサーを用いたフィードバック制御が必要になった時期から急速に発達した。名称の "L" は、エアフローセンサーをドイツ語で "Luftmengenmesser" と呼ぶことから来ている。
ボッシュ・KEジェトロニック(KE-Jetronic)(1985?1993年)
吸入された空気量をフラップ式のエアフロセンサーで計測するシステムで、その他は機械式のインジェクションシステムと変わりが無かった。排気ガス浄化としてO2センサーと三元触媒を装着して対応するようになった。

なお二輪車等で排出ガス規制の対象外の車種においては、電子制御式ながら主としてアクセル開度とエンジン回転数から噴射量を決定しており、実際の吸入空気量(質量)を計測していないものがある。
利用方式
シングルポイントインジェクション

シリンダーごとではなく、全シリンダーに対して一括して一箇所(1個ないし2個)のインジェクターで燃料を供給する方式。SiやSPIなどと省略される。低圧燃料噴射装置とも呼ばれる。

燃料を噴射するインジェクターと、撹拌し均一性の高い混合気にするミキサー、それらを収めるハウジングからなる。

キャブレター方式のエンジンにも最小限の設計変更で搭載が可能で[注 1]、吸気抵抗の低減、古い設計のエンジンの電子制御化などが比較的ローコストで実現できる。インジェクター総数が1本ないし2本程度で済むため、MPI形式に比べてインジェクター不良によるエンジン始動不能の確率が相対的に低くなることや、インジェクター不良による各気筒への噴射量のバラツキに起因するエンジントラブルが起こらないというメリットがある。しかし相対的な性能ではMPIのポート噴射式インジェクターには及ばない。

航空機用としては日本では中島飛行機が「」や「」の末期型用に開発した。しかし、空冷星型エンジンの各シリンダーに均一な混合気を均一な圧力で供給することが難しく、改良も進められたが、実用化とほぼ同時に終戦を迎え、実績はほとんど挙げていない。

自動車用では、日本車での採用例はトヨタのCi(採用エンジン例:1S-iLU・4S-Fi)、日産のEi(採用エンジン例:CA18iGA16iSR18DiVG30i)、また中島飛行機の後身である富士重工が1,800ccエンジンのレオーネEA82系アルシオーネEJ18系レガシィの初期にSPFIと称して採用したほか、軽自動車用のスバル・EN型エンジンで採用した。


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