熱素
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このことは一見理解しがたいが、気体に熱を加えると膨張して密度が下がるという事実を踏まえれば、当時は納得できるものでもあった[57]

ラプラス流でもこの現象は潜熱の概念で説明できる。膨張すると、容器内の熱(カロリック)は潜熱となり、知覚されなくなるのである。

断熱変化の現象自体はボイルによって1662年に発見されたが、その後の研究はクレグホン(ブラックの教え子)、ドルトン、ラプラスなど、カロリック説の支持者によって行われた。そして1820年代までは、現在とは逆に、断熱変化はカロリック説の強力な証拠だと考えられていた[58]。しかし、当時の説明は定量的ではなかった。
盛衰

カロリック説はそれ以前からの熱物質説の流れをくむものであり、それに対する説としては熱の運動説があった。そして現在では熱は運動であるとされており、カロリック説は否定されている。にもかかわらずカロリック説が18世紀に広く受け入れられた理由には、それが実験的なデータをもとに理論的に構築されていたことにある。また、カロリック説は当時さまざまな熱現象を説明できていた[59][60]。そのため、ランフォードらの実験でカロリック説に不利な結論が出ても、今までの説を即座に捨て去ることは出来なかった[61]

一方その当時の熱の運動説は、定量的な理論を作り上げることが出来ていなかった[53]。また熱の運動説は、摩擦による発熱は良く説明できたが、それ以外の熱現象については、カロリック説と比べると説明に難があった[59]。現在のように熱の運動説が広まるためには、熱の運動説による定量的な理論、すなわちエネルギー保存則の誕生を待たなければならなかったのである[62]
脚注[脚注の使い方]
注釈^ もともとはフランス語で「calorique」。英語へ翻訳する時にcaloricとされた。
^ なお、カロリックはラヴォアジエの造語であるとされる見方が一般的だが、杉山は、形容詞「calorifique」を元にギトン・ドゥ・モルヴォが「calorique(カロリック)」という語を作り、ラヴォアジエがそれを採用したと推測している。
^ ただし現在の観点からみれば、この実験では気体の比熱を求めることはできない(山本(2009) 2巻p.92)
^ ゲイ=リュサックはこの実験での温度の変化が比熱に比例するという前提で議論を進めたが、実際はこの仮定には根拠がない(山本(2009) 2巻p.94)。
^ ただし懸賞論文とはいうものの実際に応募されたのは2通のみで、しかも実験内容はどちらもほぼ同じであった。にもかかわらずドラローシュとベラールのほうが採用されたのは、もう一方の論文(クレマンとデゾルムの共同論文)は結論がアーヴィン流を支持するものであったのに対し、ドラローシュとベラールの論文はラプラス流を支持していたからである。実は当時のフランス学士院はゲイ=リュサックをはじめとしてラプラス流の支持者で占められていて、懸賞論文自体もラプラス流の優位性を確固たるものにするために企画されたのである(山本(2009) 2巻p.100、杉山(村上編(1988)) p.xxxiなど)。

参照元^ 高林(1999) p.26
^ a b 高林(1999) p.27
^ 山本(2008) 1巻pp.45-49
^ 高林(1999) p.28
^ 山本(2008) 1巻p.156
^ 大野(1992) p.660
^ 高林(1999) p.40
^ 山本(2008) 1巻p.216
^ 山本(2008) 1巻pp.209-212
^ 広重(1968) pp.187-188
^ 山本(2008) 1巻pp.306-312
^ 杉山(村上編(1988)) p.xix
^ 青木(1975) p.59
^ 杉山(村上編(1988)) pp.xx-xxi
^ 杉山(村上編(1988)) pp.xxi,xxiv
^ 山本(2009) 2巻pp.90-92
^ 山本(2009) 2巻pp.94-95
^ a b 山本(2009) 2巻p.96
^ 山本(2009) 2巻pp.97-99
^ 広重(1968) p.202
^ 山本(2009) 2巻p.133
^ 山本(2009) 2巻p.135
^ a b 広重(1968) p.203
^ 高林(1999) p.84
^ 高林(1999) p.83
^ 山本(2009) 2巻pp.140-141
^ 高林(1999) p.102
^ 山本(2009) 2巻p.60
^ 山本(2009) 2巻pp.62-63,65
^ 山本(2009) 2巻p.72
^ 山本(2009) 2巻pp.73-77
^ 高林(1999) pp.108-109
^ 山本(2009) 2巻p.108
^ 杉山(村上編(1988)) p.xxxiii
^ 杉山(村上編(1988)) pp.xxxiii-xxxiv
^ カルノー(1973) p.54
^ 杉山(村上編(1988)) pp.xlv-xlvi
^ 杉山(村上編(1988)) pp.xliv-xlvi
^ 杉山(村上編(1988)) p.xlvi
^ 山本(2009) 2巻p.281
^ 渡辺(1963) pp.175-176
^ 山本(2009) 2巻p.278
^ 山本(2009) 2巻p.286
^ a b 山本(2009) 2巻p.287
^ 杉山(村上編(1988)) pp.xlvii-xlviii
^ 山本(2009) 2巻p.288
^ 杉山(村上編(1988)) p.l
^ 広重(1968) p.189
^ 杉山(村上編(1988)) p.xlviii
^ 杉山(村上編(1988)) p.xlix
^ 杉山(村上編(1988)) p.li
^ 青木(1975) pp.58-59
^ a b 高林(1999) p.69


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