熱力学(ねつりきがく、英: thermodynamics)は、物理学の一分野で、熱や物質の輸送現象やそれに伴う力学的な仕事についてを、系の巨視的性質から扱う学問。アボガドロ定数個程度の分子から成る物質の巨視的な性質を巨視的な物理量(エネルギー、温度、エントロピー、圧力、体積、物質量または分子数、化学ポテンシャルなど)を用いて記述する。 熱力学には大きく分けて「平衡系の熱力学」と「非平衡系の熱力学」がある。「非平衡系の熱力学」はまだ、限られた状況でしか成り立たないような理論しかできていないので、単に「熱力学」と言えば、普通は「平衡系の熱力学」のことを指す[1]。両者を区別する場合、平衡系の熱力学を平衡熱力学 (equilibrium thermodynamics[2][3])、非平衡系の熱力学を非平衡熱力学 (non-equilibrium thermodynamics[4][5][6]) と呼ぶ。 ここでいう平衡 (equilibrium) とは熱力学的平衡、つまり熱平衡、力学的平衡、化学平衡の三者を意味し、系の熱力学的(巨視的)状態量が変化しない状態を意味する。 平衡熱力学は(すなわち通常の熱力学は)、系の平衡状態とそれぞれの平衡状態を結ぶ過程とによって特徴付ける。平衡熱力学において扱う過程は、その始状態と終状態が平衡状態であるということを除いて、系の状態に制限を与えない。 熱力学と関係の深い物理学の分野として統計力学がある[7][8][9]。統計力学は熱力学を古典力学や量子力学の立場から説明する試みであり、熱力学と統計力学は体系としては独立している。しかしながら、系の平衡状態を統計力学的に記述し、系の状態の遷移については熱力学によって記述するといったように、一つの現象や定理に対して両者の結果を援用している[10] 18世紀後半にイギリスのジョゼフ・ブラックが熱容量と潜熱の概念を発見し、温度と熱の概念を分離したことで熱に関する本格的な研究が始まり[11]、これを受けて18世紀末には熱学が生まれた[12]。 一方18世紀後半から19世紀にかけてイギリスで蒸気機関が発明・改良されたが、ジェームズ・ワットがブラックの影響を受けて復水器を独立させるなどの影響はあったものの[13]、基本的には学問的成果を応用したものでなく専ら経験的に進められたものであった[14]。またこの頃気体の性質が研究され、1662年にロバート・ボイルによってボイルの法則が発表され[15]、1787年にジャック・シャルルによって発見されたシャルルの法則が[16]1802年にジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサックによって発表されて、ゲイ=リュサックの法則が成立し、これらの法則がボイル=シャルルの法則(理想気体の性質)としてまとめられた[17]。
概要
歴史詳細は「熱力学・統計力学の年表」を参照
前史1824年のオリジナルのカルノー熱機関図に着色し注釈を加えたもの。高温体 (ボイラー)、作業体 (蒸気)、および低温体 (水) を示し、文字はカルノーサイクルの停止点に従っている。