煙草_(小説)
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三島没後の作品研究としては、「生命力の反逆の兆し」を看取しようとしている田中美代子の評価をはじめ[22]、「学習院を背景とした精神的自伝」だとして、「大人への精神構造の変換と、同性愛が一本の煙草に微妙に象徴されている」と評価する長谷川泉[2]、「戦後耽美派」としての三島の側面から論考している山内由紀人と評価などがある[23][5]

山内由紀人は、三島の本格的な小説の出発点を1940年(昭和15年)11月執筆の『彩絵硝子』だとみて、「『彩絵硝子』の世界が戦後になってさらに洗練され、一つの文学的結実をみせたのが『煙草』」であるとしている[23]。そして、『煙草』には「戦後耽美派」としての三島の側面が「最も理想的なかたちであらわれている」と評価した上で、「デカダンスな雰囲気、淫蕩的な気分と同性愛的な匂い、そして変身願望。ストイックな文体で描かれるその世界」が、のちの中井英夫の作品世界に通底しているとしながら、三島が述べた〈純然たる現代小説は、むしろ『彩絵硝子』から『煙草』への線上にある〉[24]という言葉を補記して解説している[23]

その他の高橋新太郎は、末尾の段落の火事の眺めの描写表現を、「夢か現か定かならぬ境位の表現は、きわめて象徴的でもあり、美しい」と評価し[23]、校内の森を散歩する場面にみられる〈静謐〉の感覚など、この頃の三島の初期作品(『花ざかりの森』など)に共通してみられる「〈静謐〉への志向」に注目している渡部芳紀の解説もある[25][23]

なお、『煙草』には異稿があり、伊村との後日談などが書かれた続きの原稿が存在している[26]。その異稿には、春以後に伊村とすれちがうこともあったが伊村は手を上げ合図する程度の挨拶となり、「私」が4年生になった(伊村は高等科3年)ある初夏の日、森の中で伊村が1人のセーラー服の女学生と一緒にいるところを見てしまい、烈しい嫉妬に苦しめられる心理が描かれている[26]


※上節と同様、三島自身の言葉の引用部は〈 〉にしています(他の作家や評者の論文からの引用部との区別のため)。
おもな収録刊行本
単行本

『夜の仕度』(
鎌倉文庫、1948年12月1日)

B6判。紙装。

収録作品:「夜の仕度」「序章」「春子」「煙草」「ラウドスピーカー」「中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃」「蝶々」「サーカス」「彩絵硝子」


文庫版 『真夏の死――自選短編集』(新潮文庫、1970年7月15日。改版1996年7月15日。2020年11月1日)

自作解説:三島由紀夫

収録作品:「真夏の死」「煙草」「春子」「サーカス」「翼」「離宮の松」「クロスワードパズル」「花火」「貴顕」「葡萄パン」「雨のなかの噴水

※ 2020年11月の新装改版より、津村記久子の解説追加。


英文版『Acts of Worship: Seven Stories』(訳:ジョン・ベスター)(Kodansha International、1989年。HarperCollins Publishers Ltd、1991年6月)

収録作品:雨のなかの噴水(Fountains in the Rain)、葡萄パン(Raisin Bread)、(Sword)、海と夕焼(Sea and Sunset)、煙草(Cigarette)、殉教(Martyrdom)、三熊野詣(Act of Worship)


全集

『三島由紀夫全集1巻(小説I)』(
新潮社、1975年1月25日)

装幀:杉山寧四六判。背革紙継ぎ装。貼函。

月報:清水文雄「『花ざかりの森』をめぐって」。《評伝・三島由紀夫 21》佐伯彰一「伝記と評伝(その12)」。《同時代評から 21》虫明亜呂無「初期作品について(その2)」

収録作品:「酸模」「座禅物語」「鈴鹿鈔」「暁鐘聖歌」「館」「彩絵硝子」「花ざかりの森」「苧菟と瑪耶」「みのもの月」「うたはあまねし」「玉刻春」「世々に残さん」「祈りの日記」「曼荼羅物語」「朝倉」「中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃」「中世」「エスガイの狩」「菖蒲前」「煙草」「贋ドン・ファン記」「岬にての物語」「恋と別離と」「軽王子と衣通姫」「夜の仕度」「鴉」

※ 同一内容で豪華限定版(装幀:杉山寧。総革装。天金。緑革貼函。段ボール夫婦外函。A5変型版。本文2色刷)が1,000部あり。


『三島由紀夫短篇全集』〈上巻〉(新潮社、1987年11月20日)

布装。セット機械函。四六判。2段組。

収録作品:「酸模」から「女流立志伝」までの75篇。


『決定版 三島由紀夫全集16巻・短編2』(新潮社、2002年3月8日)

装幀:新潮社装幀室。装画:柄澤齊。四六判。貼函。布クロス装。丸背。箔押し2色。

月報:高樹のぶ子「幸福な化学反応」。松本道子「思い出の三島歌舞伎」。[小説の創り方16]田中美代子「時の断崖」

収録作品:「世々に残さん」「曼陀羅物語」「檜扇」「朝倉」「中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃」「縄手事件」「中世」「エスガイの狩」「菖蒲前」「黒島の王の物語の一場面」「岬にての物語」「鴉」「贋ドン・ファン記」「煙草」「耀子」「軽王子と衣通姫」「恋と別離と」「夜の仕度」「サーカス」「ラウドスピーカー」「春子」「婦徳」「接吻」「伝説」「白鳥」「哲学」
〔創作ノート〕「『菖蒲前』創作ノート」「『軽王子と衣通姫』創作ノート」「『夜の仕度』創作ノート」「『サーカス』創作ノート」「『ラウドスピーカー』創作ノート」「『春子』創作ノート」「『婦徳』創作ノート」「『接吻』創作ノート」


脚注[脚注の使い方]
注釈^ 未刊短編集はこの時点で未刊行の「煙草」「菖蒲前」「サーカス」「岬にての物語」「贋ドン・ファン記」の収録を見込んだものである[8]。〈佐藤先生〉の序文への御礼が記されており、佐藤春夫が序文を書いていたものと推定されている[7]
^ 同じエッセイ中で、その頃の思春期の時代については以下のように語っている[11]。思春期の恋愛は、たばこや酒と同じやうなもので、自分と同年の友だちにひけをとるまい、軽蔑されるまい、そして、何とか自分も同じ列まで行きたいといふ成長の欲望と、純粋な肉体的欲望とが、いつもまざり合つてゐるものです。われわれの成長するときの盲目的な衝動は、一つ一つ分けて考へられるものではなくて、純粋な肉体的欲望も友だちにひけをとるまいといふ競争意識も、また哲学の本とか、むづかしい本に急に親しみ出すやうな知的欲望も、みな一緒くたに、ごつちやになつてゐるものです。それを総括して言へば、人生への渇望といつていいでせう。 ? 三島由紀夫「わが思春期」[11]

出典^ a b c d e f g 「解説」(真夏・文庫 1996, pp. 289?294)。36巻 2003, pp. 202?207に所収
^ a b c d e 長谷川泉「煙草」(旧事典 1976, p. 250)
^ a b c d e f g私の遍歴時代」(東京新聞夕刊 1963年1月10日-5月23日号)。『私の遍歴時代』(講談社、1964年4月)、遍歴 1995, pp. 90?151、32巻 2003, pp. 271?323に所収
^ a b c 「四つの処女作」(文学の世界 1948年12月号)。


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