無形文化遺産
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無形文化遺産の保護に関する条約の発効以前は、法的に無形文化遺産として登録できないので、ユネスコとして、たぐいない価値を有する世界各地の口承伝統や無形遺産を讃えるとともに、政府NGO地方公共団体に対して口承及び無形遺産の継承と発展を図ることを奨励し、独自の文化的特性を保持することを目的として、基準を満たすものを、「人類の口承及び無形遺産の傑作の宣言」(傑作宣言)として公表した。第1回の宣言は2001年5月18日に、第2回の宣言は2003年11月7日に、第3回の宣言は2005年11月25日に行なわれ、それぞれ19件、28件、43件が傑作宣言されている。2006年に無形文化遺産条約が発効し、これらのものについては2009年に代表一覧表に正式登録され、統合された。

傑作宣言では、「選考基準」のいずれかの条件を満たすものについて、「考慮基準」を考慮のうえ選考された。
選考基準


たぐいない価値を有する無形文化遺産が集約されていること

歴史芸術民族学社会学人類学言語学または文学の観点から、たぐいない価値を有する民衆の伝統的な文化の表現形式であること

考慮基準


人類の創造的才能の傑作としての卓越した価値

共同体の伝統的・歴史的ツール

民族・共同体を体現する役割

技巧の卓越性

生活文化の伝統の独特の証明としての価値

消滅の危険性

登録されている無形文化遺産の一覧詳細は「無形文化遺産の一覧」を参照

2006年に無形文化遺産条約が発効した。これにより、条約発効前にユネスコにより実施していた「人類の口承及び無形遺産に関する傑作の宣言」に登録されていたものは、2008年11月に本条約の代表一覧表に統合された[6]
日本国内の動向12 能楽

2010年代より急激に申請・登録数が増えたことでユネスコは登録件数が多い国からの申請受理を保留するようになり、2011年に秩父祭の屋台行事と神楽と高山祭の屋台行事を提案したが、2009年登録の京都祇園祭の山鉾行事に類似しているとして登録が見送られた。その後、2014年に2009年登録の石州半紙に本美濃紙と細川紙を加えて「和紙」として拡張登録に成功したことをうけ、2016年に京都祇園祭の山鉾行事と日立風流物に前述の秩父祭の屋台行事と神楽と高山祭の屋台行事や他の類似した物件を加えて「山・鉾・屋台行事」として拡張登録し、登録数を抑制したいユネスコもこの手法を評価したこともあり[7]、2018年には2009年登録の甑島のトシドンに類似した物件を加えて「来訪神:仮面・仮装の神々の儀式的訪問」として拡張登録した。しかしながら引き続き登録数が多い日本は一年おきの提案を余儀なくされている。

2020年の第15回政府間委員会では、「伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術」(建造物修理、建造物木工檜皮葺?葺茅葺、檜皮採取、屋根板製作、茅採取、建造物装飾、建造物彩色、建造物漆塗屋根瓦葺(本瓦葺)、左官(日本壁)、建具製作、製作、装?修理技術、日本産生産・精製、縁付金箔製造)が登録された[8]。この登録に関しては、ユネスコが世界遺産における今後の登録指標の一つとして、「候補対象の保護に無形文化遺産が必要不可分に関わっているもの(文化資材と技術の保護・継承)」を挙げていることから、2021年1月21日に開催した文化審議会世界文化遺産部会では新たに推薦されるべき世界遺産候補には伝統建築工匠の技が受け継がれているものを優先することを確認[9]

次いで、兵庫県の「阿万の風流大踊小踊」、香川県の「綾子踊」、鹿児島県奄美地方の「諸鈍芝居」、沖縄県の「多良間の豊年祭」といった雨乞い・豊作祈願や盆踊りのような先祖供養の舞楽祭事を、2009年に登録された「チャッキラコ」の拡張登録として提案することを検討[10]。 2020年2月19日に開催された文化審議会で民俗芸能の「風流踊」として一括申請することを決定した(「諸鈍芝居」や「多良間の豊年祭」は選定除外)[11]。さらに2021年1月15日に岐阜県郡上市の「寒水の掛踊」、長崎県対馬市の「対馬の盆踊」、熊本県荒尾市の「野原八幡宮風流」を重要無形民俗文化財に指定するよう答申があり、これに加え長野県の「新野の盆踊」も取り込み24都府県41件で臨むこととした[12]。2022年11月30日に登録決定。

さらに2013年に「和食」が登録されて以降、海外で和食への関心が高まり、訪日外国人旅行者による和食消費も増えていることと、政府による日本産食品・食材の輸出促進やブランド化とその権利保護政策もあり、日本酒の申請・登録の検討を始めた。申請に際しては法的保護根拠が必要で、文化財保護法による重要無形文化財等の指定が前提となるため、杜氏人間国宝認定なども視野にいれている[13]。これに関しては2021年1月18日に行われた菅義偉首相施政方針演説で意思表明が行われ2024年の登録を目指すとし[14]、2022年2月25日に文化審議会無形文化遺産部会が「穀物を原料としを用いる発酵技法」の焼酎泡盛も含めた「伝統的酒造り」として提案候補とし[15]、2023年3月8日に文化審議会が正式な提案候補に選定、3月14日に無形文化遺産条約関係省庁連絡会議が承認、3月28日付(日本時間)でユネスコへ提案書を提出して受理され、2024年の第19回政府間委員会で登録審査を受ける。

地方自治体や在野の民間団体から候補としての積極的な提案もなされるようになったことをうけ、文化庁は茶道華道和装盆栽温泉俳句といった日本の伝統的な生活文化について対象として検討することも決めており[16]、2021年4月16日に改正された文化財保護法では国による「指定」ではなく所有者側から建造物を提案して「登録」する登録有形文化財制度を無形文化財にも拡大し、無形文化遺産推薦時の法的保護根拠とする体制を整えた[17]。こうした体制整備を経て、2023年12月18日に化審議会無形文化遺産部会が「(仮名交じり文を含む日本独自の)書道」を提案することを決め、2026年の登録審査を目指す(2009年に中国の書道が登録されている)。また、2025年の政府間委員会での審査に、既存登録の「和紙」に福井県の「越前鳥の子紙」を、「山・鉾・屋台行事」に茨城県の「常陸大津の御船祭」、新潟県の「村上祭の屋台行事」、富山県の「放生津八幡宮祭の曳山・築山行事」、滋賀県の「大津祭の曳山行事」を、「伝統建築工匠の技」に「手織中継表(畳表)製作」を追加登録することも決めた[18]

日本ではまだトランスバウンダリー(国境をまたぐ物件/複数国との共同所有)の登録はないが、京都市の錦市場が「アーケードがある歴史的な商店街」として無形文化遺産の登録を目指し、同様の施設がある諸外国に呼びかけ10ヶ国13ヶ所が賛同しており、さらに参加を表明する意思がある場所もあり、2024年5月に連絡協議会を発足させるなど、民間主導で進められるプロジェクトも現れた。商店街という構造自体は有形の不動産構築物だが、「市場という空間での買物」という昔ながらの生活習慣を残すことを目的としつつ、観光地にある商店街での観光公害対策を世界視線で共同で解決する方策も模索する[19]
積極的活用

ユネスコは新型コロナウイルス感染症の流行で混乱した社会の立て直しに、地域毎の伝統や受け継がれてきた知恵といった無形財文化的財)やリビングヘリテージにヒントがあるとし[20]、無形文化遺産の積極的活用やコロナ終息後に無形文化遺産を体感しにゆく“Dive into Intangible Cultural Heritage(無形遺産に飛び込もう)”プロジェクトを立ち上げ、レジリエント・ツーリズムとして推奨する[21]
特例措置

2022年の第17回政府間委員会は11月28日?12月3日を予定していたが、そこへ申請していたウクライナ郷土料理であるボルシチを、ロシアのウクライナ侵攻をうけ、第5回臨時政府間委員会をユネスコがオンライン会議形式で招集して7月1日に急遽登録を決定した[22]
脚注[脚注の使い方]


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