無効
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本人と相手方との間の効力である当事者間効力と当事者と第三者との間の効力である第三者への効力(第三者効)に分けて考えられる。
当事者間効力

まず、第一に発生する予定だった債権債務は不発生となる。したがって、履行請求は棄却される[11]。第二に発生する予定だった債権債務が既に履行されている場合には不当利得として返還請求権が発生する。

当該返還義務の範囲は2017年改正(2020年4月施行予定)で新設の121条の2で定められることとなった(改正前は703条が適用されていた)[12]

無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う(第1項)。

前項の規定にかかわらず、無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、給付を受けた当時その行為が無効であること(給付を受けた後に前条の規定により初めから無効であったものとみなされた行為にあっては、給付を受けた当時その行為が取り消すことができるものであること)を知らなかったときは、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う(第2項)。

第一項の規定にかかわらず、行為の時に意思能力を有しなかった者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。行為の時に制限行為能力者であった者についても、同様とする(第3項)。

無効行為が契約であった場合は当事者間の返還請求権は同時履行の関係にある。

なお、消費者契約法6条の2に特則がある[12]。また、不法原因給付については返還請求は認められない(708条本文)[11]
第三者への効力

原則では無効行為とされた物権変動の後、その外形を基礎とした物権変動がある場合、第三者(転得者)の存在が観念できるが、第三者(転得者)は元の所有者に物権の取得を対抗できないことになる。さらに、無効行為によって発生する予定だった債権の譲渡が行なわれた場合、物権の例と同様、第三者(債権の譲受人)の存在が観念できるが、譲受人は債務者に対し債権の取得及び履行の請求を主張することができない。しかしながら、第三者への効力については、当事者間の無効行為が第三者に影響を及ぼすことを嫌い、第三者の取得時効即時取得を認めるなど、第三者に対する関係では無効の効果が大幅に制限されていることが多い。また、取引安全の立場からも無効の効力に制限が加えられている場合もある。このため、第三者への効力ですべての第三者に対しておしなべて無効とする原則どおりの効果(対世効のある絶対的無効)が認められる場合は多くはない。
一部無効理論

一部無効につき明文で規定されている場合(133条・278条・360条・410条・580条・563条・568条・604条など)にはそれに従うことになるので問題はないが、一部無効理論はこのような明文規定が無い場合にも、一部のみ無効にする事が著しく当事者の意思に反する時に限って法律行為の全体を無効にすべきであり、それ以外は原則として無効原因がある部分のみを無効とすべきであるという考えをいう。
無効行為の転換
無効行為の転換の意義

本来意図した法律行為についての効果が無効でも、その法律行為が他の類型の法律行為の要件を充たしているときに、後者の法律行為として有効と認めることを無効行為の転換という。
無効行為の転換の具体例

秘密証書遺言としての要件を欠いていても、自筆証書遺言としての要件を具備していれば、自筆証書遺言として有効となる(民法第971条
)。

父が非嫡出子を妻の嫡出子として届け出る行為は無効だが、認知の効力が認められる(最判昭53・2・24民集32巻1号110頁)。

なお、他人の子の自己の子として虚偽の出生届をする行為(いわゆる藁の上からの養子)についても養子縁組届への転換を認める学説が有力とされたが、養子縁組の要式性に反するという批判があり、また、出生届における医師の証明が厳格化され、実親子に近い法律関係を認める特別養子制度が昭和62年に新設されたことなどから今日ではこれに否定的な見解が多い[13]。判例も今日に至るまでこれを否定する(大判昭11・11・4民集15巻1946頁)。
無効行為の追認
無効行為の追認の効果

追認もしくは追完とは本人がある法律行為を有効なものとして確定させる意思表示を指すが、取消しの場合とは異なり、無効な法律行為は本来的に法律効果を生じないものであるから原則として無効な法律行為を追認しても有効な法律行為とはならない(民法第119条本文)。

公序良俗違反・強行法規違反の法律行為は当事者間の合意をもってしても有効とはならない[14]。しかし、当事者が当該法律行為につき無効であることを知って追認したときは、法律行為の有効要件に問題がなければ新たな法律行為をしたものと扱っても問題がないため[14]、民法はこのような場合に当事者による新たな法律行為がなされたものとして遡及効はないものの追認時から法律行為の効力を生じるものとする(民法第119条但書)。なお、当事者間の合意により追認に遡及効を認めることも可能であるが第三者には対抗できない[15]
不確定的無効の場合

無権代理他人物売買など不確定的無効とされた行為を追認する場合には遡及効が認められており、この場合には当該法律行為がなされた時点に遡って効力を生じる(無権代理につき116条、他人物売買につき最判昭37・8・10民集16巻8号1700頁参照)[15]
脚注^ a b c 星野英一『民法概論 I 序論・総則 改訂版』良書普及会、1993年、231頁。 
^ 川井健著 『民法概論1 民法総則 第4版』 有斐閣、2008年3月、271頁
^ a b c 星野英一『民法概論 I 序論・総則 改訂版』良書普及会、1993年、232頁。 
^ 平野裕之『民法総則』日本評論社、2017年、186-187頁。 
^ a b c d 平野裕之『民法総則』日本評論社、2017年、187頁。 
^ a b c 内田貴著 『民法T 第4版 総則・物権総論』 東京大学出版会、2008年4月、289頁
^ a b 平野裕之『民法総則』日本評論社、2017年、223頁。 
^ a b c 川井健著 『民法概論1 民法総則 第4版』 有斐閣、2008年3月、272頁
^ 内田貴著 『民法T 第4版 総則・物権総論』 東京大学出版会、2008年4月、292頁
^ 川井健著 『民法概論1 民法総則 第4版』 有斐閣、2008年3月、272-273頁
^ a b 川井健著 『民法概論1 民法総則 第4版』 有斐閣、2008年3月、273頁
^ a b “(消費者契約法)第6条の2(取消権を行使した消費者の返還義務)”. 消費者庁. 2020年3月11日閲覧。
^ 川井健著 『民法概論1 民法総則 第4版』 有斐閣、2008年3月、275頁
^ a b 内田貴著 『民法T 第4版 総則・物権総論』 東京大学出版会、2008年4月、293頁
^ a b 内田貴著 『民法T 第4版 総則・物権総論』 東京大学出版会、2008年4月、294頁

参考文献

コンサイス 判例六法 2006年度版 三省堂

図解による法律用語辞典 自由国民社 

典拠管理データベース: 国立図書館

フランス

BnF data

ドイツ

日本


関連項目

取消し

撤回

解除

婚姻の無効

瑕疵

無効な行政行為

条約の無効


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