為替レート
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経済学者の森川正之は「金融緩和政策は名目での通貨安をもたらす傾向を持つが、実質為替レートを減価させる効果を持つか持たないかは物価と為替レートへの効果の大小関係次第である」と指摘している[37]

黒田東彦は「為替は金融政策だけで決まるものではない」と指摘している[38]
財政政策詳細は「マンデルフレミングモデル」を参照
実質実効為替レート主要通貨の実質実効為替レートの変遷(1964-2007年、2000年 = 100)

日本では日本円と米ドルの相場に注目が集まるが(円相場#日本における外為実務)、国際市場への参加者は他にも数多くあり、それぞれが自国通貨を持って変動相場制の下で貿易が行われているため、特定国間の為替レートだけを見ても国際市場における当該通貨の価値を知ることはできない。

外国為替市場における諸通貨の相対的な実力を測るための指標として実効為替レートがあり、これは中央銀行国際決済銀行などが算定し、適宜公表している。

BIS(国際決済銀行)[39]によると、2024年2月の円の実質実効為替レートは2020年平均を100とした場合、70.79で統計開始以来過去最低水準となっている。実質実効為替レートは、ドルやユーロ、人民元などの主要な通貨について、貿易量や物価水準などを考慮、比較して総合的な通貨の実力を算出する。その数値が低いほど、海外からモノを買う際の割高感が高くなる。原油や穀物材料が高騰しているなかで、円の実力が低下しているということは家計への逆風になる。

また、為替レートの変動を考えるとき、両国で物価上昇率が異なる場合は、実質的なレートが、名目為替レートとずれてくる。このような物価上昇率の効果を考慮した為替レートを「実質為替レート」という。

実効為替レートにおいても物価上昇率調整前後の値をそれぞれ算出するのが一般的であり、物価調整前を「名目実効為替レート」、調整後を「実質実効為替レート」と呼ぶ[40]。実質実効為替レートは、貿易相手国全体との貿易面での有利・不利を示す指標である[41]

日本銀行の解説にもあるように[40]、実質化(どのようなデフレータを使用するか)、実効化(どのような通貨ウェイトで加重するか)の両面において様々な論点がある。分析しようとする目的に合ったデフレータおよび通貨ウェイトであるかを確認する必要があり、たとえば、企業の競争環境を分析しようとする時にデフレータとして消費者物価指数を用いたり、あるいは貿易額を通貨ウェイトとするのは望ましくない[注 1]。これは、賃金などの企業のコストと消費者物価指数は乖離していること、アメリカ市場で第三国と競争している時にはドル円ではなく、その第三国の通貨と円の関係が問題になること、などによる。また、ウェイト替えに伴う遡及改訂をどのように行っているかも注意が必要な点であり[42]、現在のウェイトを元に過去を遡及改訂するような統計の場合、過去の値が持つ意味をよく吟味しなければならない。その他にも過去と比較する際には、実質実効為替レート水準の高低をただ比べるだけではなく、経済情勢や経済構造の変化など、様々な留意点がある。
TTSとTTB

交換方向によって以下の種類がある。

TTS (Telegraphic Transfer Selling Rate) -
円貨を外貨と交換する(金融機関などが外貨を売る)際に適用する為替レート。

TTB (Telegraphic Transfer Buying Rate) - 外貨を円貨と交換する(金融機関などが外貨を買い取る)際に適用する為替レート。

TTSとTTBの差をスプレッドと呼ぶ。

為替レートをひとつの値で示している場合は、一般的にはTTSとTTBの平均値である。この値のことをTTM(Telegraphic Transfer Middle Rate)または仲値(なかね)と呼ぶ。逆に、TTMに為替手数料などを加算(または減算)した値がTTS(またはTTB)とも言える[43]

なお、TTSやTTBは世界共通の用語ではない[注 2]
為替レートの操作

国は、為替レートを操作することにより国際貿易で有利な立場を得ることがある。これは、中央銀行による外国為替市場への介入、オープンマーケット操作、あるいは外国通貨から国内通貨への変換を制限することなどで実現されることがある[44][45][46]。この件に関して、ドナルド・トランプアメリカ合衆国大統領選挙の選挙戦中に、中華人民共和国は、定期的に為替レートを操作していると非難した[47][48]

他の国々もアイスランド日本ブラジルなど、通常は自国の通貨価値を低く保つ政策を採用して輸出コストを削減し、経済を刺激することがある。低い為替レートは、他国の消費者にとって当該国の商品価格を下げる助けとなるが、一方で通貨価値が低い国では輸入される商品サービスの価格が上昇する[49][50][51]

一般的に、商品やサービスの輸出業者は通貨価値が低いことを好むが、輸入業者は通常、通貨価値が高いことを好む傾向にある[52]
脚注[脚注の使い方]
注釈^ たとえばIMFは ⇒2012 ARTICLE IV CONSULTATION (JAPAN)において、ユニット・レイバー・コストをデフレータに用いて実質実効為替レートは過去の平均水準より割高であると指摘している。
^ 英語版ウィキペディアのTelegraphic transfer(電信相場)の記事ではTTSやTTBは「Japan」の項目内で説明されている。

出典^ “クロスレート(くろすれーと)”. 証券用語解説集. 野村証券. 2021年2月12日閲覧。
^ P.R. Krugman, M.Obstfeld クルーグマンの国際経済学 理論と政策 (下)金融編
^ 『欧州の憂鬱?ドキュメント・EC統合』、日本経済新聞社編、日本経済新聞社、1993年、ISBN 4-532-14178-8
^ EUにおける通貨統合(外務省)
^ 『欧州中央銀行の金融政策とユーロ』、田中素香・藤田誠一・春井久志 編、有斐閣、2004年、ISBN 4-641-16206-9
^ 『欧州中央銀行の金融政策?新たな国際通貨ユーロの登場』、羽森直子、中央経済社、2002年、ISBN 4-502-64610-5
^スイス中銀:フラン相場に30年ぶりの上限設定、断固として防衛へ(5)[リンク切れ] Bloomberg 2011年9月6日
^ a b 野口旭 『「経済のしくみ」がすんなりわかる講座』 ナツメ社、2003年、71頁。
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^ a b 伊藤修 『日本の経済-歴史・現状・論点』 中央公論新社〈中公新書〉、2007年、112頁。
^ 三和総合研究所編 『30語でわかる日本経済』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2000年、258頁。
^ 飯田泰之・雨宮処凛 『脱貧困の経済学』 筑摩書房〈ちくま文庫〉、2012年、38-39頁。
^ みずほ総合研究所編 『3時間でわかる日本経済-ポイント解説』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2002年、187頁。
^ a b 高橋洋一「ニュースの深層」 円安効果で「中国から国内回帰」 大手製造業の方針は正しいか?現代ビジネス 2015年1月12日
^ 竹中平蔵 『竹中教授のみんなの経済学』 幻冬舎、2000年、147頁。
^ 野口旭 『グローバル経済を学ぶ』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2007年、294頁。
^ 新井明・柳川範之・新井紀子・e-教室編 『経済の考え方がわかる本』 岩波書店〈岩波ジュニア新書〉、2005年、162頁。
^ a b 日本経済新聞社編 『やさしい経済学』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、125頁。
^ 栗原昇・ダイヤモンド社 『図解 わかる!経済のしくみ[新版]』 ダイヤモンド社、2010年、140-141頁。


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