為替レート
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中央銀行以外の介入は当該国の通貨流通量を劇的に変化させないからである[2]。固定相場制において為替介入や固定相場レートの変更などで、為替相場の水準が人為的に変更された場合は、自通貨が増価した場合を切り上げ (revaluation)、減価した場合を切り下げ (devaluation) と呼ぶ。

為替レートのうち、国際的な金融取引や貿易の決済に利用されることが多い米ドルとの為替レートは最も重要視されている。

基準となる通貨とその相手通貨との関係には、変動相場制固定相場制の2通りの方式が存在する。先進国の通貨の多くは主に変動相場制を採用しており、需要と供給の関係で日々異なる比率で取引される。

一方、特定の通貨との間で為替レートを一定に保つことを「ペッグ」と呼び、米ドルとの固定相場制を維持することは「ドルペッグ」と呼ばれる。途上国は米ドルとの間で固定相場制を維持する「ドルペッグ」をする傾向が強かったが、近年、東南アジアなど一部の国においては通貨危機への対応を迫られた結果、相次いで変動相場制へ移行した(アジア通貨危機を参照)。また、貿易による経済規模の拡大や米ドルの下落などを受けて固定相場制の維持が難しくなってきた中国中東諸国などでは通貨バスケットへのペッグに切り替える、または切り替えようとする動きが見られる。

欧州では、諸通貨間のレート変動を次第に抑制するとともに、中央銀行業務を欧州中央銀行 (ECB) に統合する、各国政府が協調して一定の財政規律を確保するといった施策により、紆余曲折を経て[3]域内での為替政策の統一を実現し、共通通貨ユーロを誕生させた。ユーロは国境を越える最も強力な固定相場制を実現したことになるが、これは単なる通貨ペッグではなく、経済政策の統一による単一通貨の制定という背景を伴っている[4][5][6]

同じく欧州のスイスではスイス中央銀行が、世界金融危機 (2007年-)以降で欧州とりわけユーロ圏の経済情勢が悪化しているために比較的安全なスイスフランへ逃避資金が流れ込みスイスフランが急騰している状況に対応するため、1ユーロ=1.2スイスフランという防衛ラインを設定し、その水準以上にスイスフラン高になった場合には無制限に外貨を購入しスイスフラン安誘導する決定を2011年9月に下した[7]。スイス中央銀行は大規模かつ継続的フラン安にするよう取り組んでいくとしている。
為替レートと物価詳細は「購買力平価」を参照

二国間の物価を比較することによって、適正な為替レートとおおよその為替レートのトレンドがつかめる[8]。国際的な一物一価の法則の適用により、為替レートを説明するモデルを「購買力平価説」と呼ぶ[9]

現在の為替レートで各国の賃金水準などを比較した場合に、大きな差が出る場合がある。例えば日本は一人当たりGDPが37,000ドル程度であるが、ベトナムはおよそ500ドルである。これを単純比較すると日本の賃金水準が70倍程度高いことになるが、ベトナムは日本よりも物価が安いため、所得が低いからといって購買できる量に 70倍もの差がつくわけではない。こうした実情を踏まえ、物価を考慮した購買力平価で調整した後の一人当たりGDPは日本が30,000ドル、ベトナムが3,000ドル程度となり、その差は10倍程度になる。為替レートがこのような物価差を反映しないのは、経済構造と貿易に関係している。

A国とB国があったとする。A国は工業化が進展しており輸出工業の生産性が高い。仮にA国の輸出工業がB国の輸出工業の10倍の生産性を持っていたとする。どちらも国際市場に製品を輸出している場合、一物一価の法則により両国の輸出品価格は同一となる。これにより、A国の輸出工業労働者はB国の輸出工業労働者の10倍の所得を得ることになる。一方でA国の国内サービス業がB国の国内サービス業の2倍の生産性を持っていたとする。A国で輸出工業労働者と国内サービス業労働者の賃金に一物一価の法則が働いた場合、A国のサービス業はB国のサービス業の5倍の料金を取らなくては経営が成り立たなくなる。このため、両国では輸出工業品の価格が同一である一方、サービス料はA国のほうが高い状態が生まれ、A国の物価はB国よりも高くなる。

以上のように、輸出競争力に差があり、非貿易財が存在する場合に、実際の為替レートと購買力平価には差が生まれる。

サービスの価値が違うとの見方もある。例えば、懐中電灯はどこの国で買っても価値が等しいが、東京で散髪することと、ホーチミン市で散髪することは、投入財の価格が違うため価値が異なるという見方である。このとき、価値差が物価に織り込まれている場合は、購買力平価での比較が無意味となる。

また、国際市場における購買力比較では実際の為替レートが有効になるため、購買力平価は当てはまらない。
為替レートの影響「円相場#円相場の影響」も参照

自国の通貨高は自国製品の価格が海外で高くなるため輸出に不利となるが、輸入品が安くなる[10]。また、借金(外債)の負担が軽減される[10]

通常為替レートが下落すると、輸入物価が上昇してインフレを引き起こすと同時に、企業が抱える外貨建ての債務の偏差負担が膨らむ[11]

経済学者の飯田泰之は「企業は国際的であり、為替レートによってどの国の人を雇用するかを決める」と指摘している[12]

みずほ総合研究所は「為替レートが自国通貨高の方向へ動くと、輸出相手国通貨ベースの製品価格が上昇圧力を受ける。こうした変動が、生産コストの引き下げ努力を無効化してしまう」と指摘している[13]

2009年度の日本の経済財政白書は、どの国でも自国通貨高は景気にマイナスの効果を与えるとしている[14]
為替レートの変動の要因「金利平価説」も参照

為替は2つの通貨の交換比率であるため、相対的にどちらが多いかで価格(為替レート)が決まる[14]。為替は、その通貨に対する需要供給で価格が決まる[15]。一般に為替レートの変動は、当該国の景気動向、インフレ率の動向、金利動向、財政動向、金融政策の将来動向などの様々な要因がある[16]。また、経済成長率、政治動向などの要因もある[17]。為替レートは多くのマクロ指数とともに、互いに影響しあう内生変数である[18]

為替レート決定のメカニズムは、長期的(2-3年以上)では購買力平価、中期的(1年)ではファンダメンタルズ、短期的(数か月)では金融資産の動向で決まるとされている[19]。為替レートは様々な要因で動くが、そういった要因を無視すれば、長期的には購買力平価の考え方が当てはまる場合が多いが、短期的には金利差(アセットアプローチ)が当てはまる場合が多い[8]。また、中期的には経常収支で決まる可能性が非常に高いとされている[20]

経済学者ローレンス・クラインは為替レート決定のメカニズムを、1)金利差、2)経常収支の対GDP比、3)輸出価格比、に体系化している[21]

ただし、為替レートの動きは、マクロ的な変数の動きだけで説明できる部分は、ごく限られている[22]。日々の値動きという超短期(1秒?数時間)では、取引参加者の予想・思惑という心理によって動く[23]。将来の動向を織り込んだ為替取引を行うディーラーの行動によって、しばしば為替レートは実際のマクロ指数の変化を先取りして動く[22]。為替レートは、自己実現的な「期待」に引きずられて、正常な範囲を超えて均衡レートから大きく乖離することがある[24]。このような場合、通貨当局が介入して「シグナル」を送ることがある(外国為替平衡操作[24]
国力

為替レートに対しては、例えば「為替は国力を表すはずだ。少子高齢化で衰退していく国の通貨が上昇するのはおかしい」というような誤解を持たれることがある。為替レートというのは基本的に2つの通貨の相場に過ぎず、長期的には購買力平価に沿った動きになる[25]。すなわち、インフレ率が高ければ通貨の価値が下がり、インフレ率が低ければ上がると考えることができる。そして、長期的にはそれが為替レートに反映される、とシンプルに考えればよい。

基本的に為替レートは単純にモノとモノとの交換レートに過ぎないため、為替が国力を表したり、成長率が高い国の通貨が買われ続けたりするということではない[26]

2020年7月30日のアメリカのGDPの発表では、-33%の驚異的な数値であったが、ドル相場には影響しなかった。


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