為替レート
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国際的な一物一価の法則の適用により、為替レートを説明するモデルを「購買力平価説」と呼ぶ[9]

現在の為替レートで各国の賃金水準などを比較した場合に、大きな差が出る場合がある。例えば日本は一人当たりGDPが37,000ドル程度であるが、ベトナムはおよそ500ドルである。これを単純比較すると日本の賃金水準が70倍程度高いことになるが、ベトナムは日本よりも物価が安いため、所得が低いからといって購買できる量に 70倍もの差がつくわけではない。こうした実情を踏まえ、物価を考慮した購買力平価で調整した後の一人当たりGDPは日本が30,000ドル、ベトナムが3,000ドル程度となり、その差は10倍程度になる。為替レートがこのような物価差を反映しないのは、経済構造と貿易に関係している。

A国とB国があったとする。A国は工業化が進展しており輸出工業の生産性が高い。仮にA国の輸出工業がB国の輸出工業の10倍の生産性を持っていたとする。どちらも国際市場に製品を輸出している場合、一物一価の法則により両国の輸出品価格は同一となる。これにより、A国の輸出工業労働者はB国の輸出工業労働者の10倍の所得を得ることになる。一方でA国の国内サービス業がB国の国内サービス業の2倍の生産性を持っていたとする。A国で輸出工業労働者と国内サービス業労働者の賃金に一物一価の法則が働いた場合、A国のサービス業はB国のサービス業の5倍の料金を取らなくては経営が成り立たなくなる。このため、両国では輸出工業品の価格が同一である一方、サービス料はA国のほうが高い状態が生まれ、A国の物価はB国よりも高くなる。

以上のように、輸出競争力に差があり、非貿易財が存在する場合に、実際の為替レートと購買力平価には差が生まれる。

サービスの価値が違うとの見方もある。例えば、懐中電灯はどこの国で買っても価値が等しいが、東京で散髪することと、ホーチミン市で散髪することは、投入財の価格が違うため価値が異なるという見方である。このとき、価値差が物価に織り込まれている場合は、購買力平価での比較が無意味となる。

また、国際市場における購買力比較では実際の為替レートが有効になるため、購買力平価は当てはまらない。
為替レートの影響「円相場#円相場の影響」も参照

自国の通貨高は自国製品の価格が海外で高くなるため輸出に不利となるが、輸入品が安くなる[10]。また、借金(外債)の負担が軽減される[10]

通常為替レートが下落すると、輸入物価が上昇してインフレを引き起こすと同時に、企業が抱える外貨建ての債務の偏差負担が膨らむ[11]

経済学者の飯田泰之は「企業は国際的であり、為替レートによってどの国の人を雇用するかを決める」と指摘している[12]

みずほ総合研究所は「為替レートが自国通貨高の方向へ動くと、輸出相手国通貨ベースの製品価格が上昇圧力を受ける。こうした変動が、生産コストの引き下げ努力を無効化してしまう」と指摘している[13]

2009年度の日本の経済財政白書は、どの国でも自国通貨高は景気にマイナスの効果を与えるとしている[14]
為替レートの変動の要因「金利平価説」も参照

為替は2つの通貨の交換比率であるため、相対的にどちらが多いかで価格(為替レート)が決まる[14]。為替は、その通貨に対する需要供給で価格が決まる[15]。一般に為替レートの変動は、当該国の景気動向、インフレ率の動向、金利動向、財政動向、金融政策の将来動向などの様々な要因がある[16]。また、経済成長率、政治動向などの要因もある[17]。為替レートは多くのマクロ指数とともに、互いに影響しあう内生変数である[18]

為替レート決定のメカニズムは、長期的(2-3年以上)では購買力平価、中期的(1年)ではファンダメンタルズ、短期的(数か月)では金融資産の動向で決まるとされている[19]。為替レートは様々な要因で動くが、そういった要因を無視すれば、長期的には購買力平価の考え方が当てはまる場合が多いが、短期的には金利差(アセットアプローチ)が当てはまる場合が多い[8]。また、中期的には経常収支で決まる可能性が非常に高いとされている[20]

経済学者ローレンス・クラインは為替レート決定のメカニズムを、1)金利差、2)経常収支の対GDP比、3)輸出価格比、に体系化している[21]

ただし、為替レートの動きは、マクロ的な変数の動きだけで説明できる部分は、ごく限られている[22]。日々の値動きという超短期(1秒?数時間)では、取引参加者の予想・思惑という心理によって動く[23]。将来の動向を織り込んだ為替取引を行うディーラーの行動によって、しばしば為替レートは実際のマクロ指数の変化を先取りして動く[22]。為替レートは、自己実現的な「期待」に引きずられて、正常な範囲を超えて均衡レートから大きく乖離することがある[24]。このような場合、通貨当局が介入して「シグナル」を送ることがある(外国為替平衡操作[24]
国力

為替レートに対しては、例えば「為替は国力を表すはずだ。少子高齢化で衰退していく国の通貨が上昇するのはおかしい」というような誤解を持たれることがある。為替レートというのは基本的に2つの通貨の相場に過ぎず、長期的には購買力平価に沿った動きになる[25]。すなわち、インフレ率が高ければ通貨の価値が下がり、インフレ率が低ければ上がると考えることができる。そして、長期的にはそれが為替レートに反映される、とシンプルに考えればよい。

基本的に為替レートは単純にモノとモノとの交換レートに過ぎないため、為替が国力を表したり、成長率が高い国の通貨が買われ続けたりするということではない[26]

2020年7月30日のアメリカのGDPの発表では、-33%の驚異的な数値であったが、ドル相場には影響しなかった。このように国力や経済成長が為替相場に影響を与えるとは限らない。
先進国に於ける融資先のグローバル化の遅れ

1)ある国の製造業が盛んに輸出して、マネーを世界から稼ぎ、外貨を売って、自国通貨を買い

2)その国の金融業が、マネーを世界に還流し、自国通貨を売って、外貨を買い、盛んに海外投融資するなら

世界的なマネーの循環はうまく行き、その国は通貨高にはならないのだが、多くの先進国は、製造業が海外市場開拓に熱心な一方、銀行が為替リスクを恐れて海外投融資に慎重なために、自国通貨買いが突出して通貨高になりやすい。

更に、銀行に規模的・文化的なハードルがある場合、海外に資金需要が高い、高金利の金融逼迫国があっても貸出が少なくなる。その結果、国内で滞留するマネーが世界へうまく還流されないために通貨高になっている現象が観察される。
金利差

経済学者の高橋洋一は「名目金利差ではなく、実質金利差とすると、うまく説明できる」と指摘している[27]
国際収支

為替レートと貿易収支には相関関係があるとする説がある[28]。一つは、為替レートが貿易収支に影響を与えているという説[28]。もう一つは、貿易収支が為替レートに影響を与えているとする説[28]

経常収支が黒字だとその国の為替レートは高くなり、資本収支が赤字だと為替レートは低くなる[29][20]。経済学者の伊藤隆敏は「他の条件が一定の場合、輸出が増加すると経常収支が黒字へと向かい為替高要因になる」と指摘している[18]。経済学者の竹中平蔵は「経常収支の赤字は通貨引き下げ圧力となる」と指摘している[30]

エコノミストの川村雄介は「近年(2007年)は、『貿易の額』より『投資の額』のほうが、為替レートを左右する」と指摘している[31]

第一勧銀総合研究所は「資本取引の活性化によって、経常収支の動向が為替相場に与える影響を低下させている面もある」と指摘している[32]

経済学者の野口旭は「貿易収支は一国の国内所得と支出の差によって決まる。つまり、貿易黒字は為替レートの動向とは直接的に関係ない」と指摘している[33]


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