為替レート
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為替レートの変動の要因「金利平価説」も参照

為替は2つの通貨の交換比率であるため、相対的にどちらが多いかで価格(為替レート)が決まる[14]。為替は、その通貨に対する需要供給で価格が決まる[15]。一般に為替レートの変動は、当該国の景気動向、インフレ率の動向、金利動向、財政動向、金融政策の将来動向などの様々な要因がある[16]。また、経済成長率、政治動向などの要因もある[17]。為替レートは多くのマクロ指数とともに、互いに影響しあう内生変数である[18]

為替レート決定のメカニズムは、長期的(2-3年以上)では購買力平価、中期的(1年)ではファンダメンタルズ、短期的(数か月)では金融資産の動向で決まるとされている[19]。為替レートは様々な要因で動くが、そういった要因を無視すれば、長期的には購買力平価の考え方が当てはまる場合が多いが、短期的には金利差(アセットアプローチ)が当てはまる場合が多い[8]。また、中期的には経常収支で決まる可能性が非常に高いとされている[20]

経済学者ローレンス・クラインは為替レート決定のメカニズムを、1)金利差、2)経常収支の対GDP比、3)輸出価格比、に体系化している[21]

ただし、為替レートの動きは、マクロ的な変数の動きだけで説明できる部分は、ごく限られている[22]。日々の値動きという超短期(1秒?数時間)では、取引参加者の予想・思惑という心理によって動く[23]。将来の動向を織り込んだ為替取引を行うディーラーの行動によって、しばしば為替レートは実際のマクロ指数の変化を先取りして動く[22]。為替レートは、自己実現的な「期待」に引きずられて、正常な範囲を超えて均衡レートから大きく乖離することがある[24]。このような場合、通貨当局が介入して「シグナル」を送ることがある(外国為替平衡操作[24]
国力

為替レートに対しては、例えば「為替は国力を表すはずだ。少子高齢化で衰退していく国の通貨が上昇するのはおかしい」というような誤解を持たれることがある。為替レートというのは基本的に2つの通貨の相場に過ぎず、長期的には購買力平価に沿った動きになる[25]。すなわち、インフレ率が高ければ通貨の価値が下がり、インフレ率が低ければ上がると考えることができる。そして、長期的にはそれが為替レートに反映される、とシンプルに考えればよい。

基本的に為替レートは単純にモノとモノとの交換レートに過ぎないため、為替が国力を表したり、成長率が高い国の通貨が買われ続けたりするということではない[26]

2020年7月30日のアメリカのGDPの発表では、-33%の驚異的な数値であったが、ドル相場には影響しなかった。このように国力や経済成長が為替相場に影響を与えるとは限らない。
先進国に於ける融資先のグローバル化の遅れ

1)ある国の製造業が盛んに輸出して、マネーを世界から稼ぎ、外貨を売って、自国通貨を買い

2)その国の金融業が、マネーを世界に還流し、自国通貨を売って、外貨を買い、盛んに海外投融資するなら

世界的なマネーの循環はうまく行き、その国は通貨高にはならないのだが、多くの先進国は、製造業が海外市場開拓に熱心な一方、銀行が為替リスクを恐れて海外投融資に慎重なために、自国通貨買いが突出して通貨高になりやすい。

更に、銀行に規模的・文化的なハードルがある場合、海外に資金需要が高い、高金利の金融逼迫国があっても貸出が少なくなる。その結果、国内で滞留するマネーが世界へうまく還流されないために通貨高になっている現象が観察される。
金利差

経済学者の高橋洋一は「名目金利差ではなく、実質金利差とすると、うまく説明できる」と指摘している[27]
国際収支

為替レートと貿易収支には相関関係があるとする説がある[28]。一つは、為替レートが貿易収支に影響を与えているという説[28]。もう一つは、貿易収支が為替レートに影響を与えているとする説[28]

経常収支が黒字だとその国の為替レートは高くなり、資本収支が赤字だと為替レートは低くなる[29][20]。経済学者の伊藤隆敏は「他の条件が一定の場合、輸出が増加すると経常収支が黒字へと向かい為替高要因になる」と指摘している[18]。経済学者の竹中平蔵は「経常収支の赤字は通貨引き下げ圧力となる」と指摘している[30]

エコノミストの川村雄介は「近年(2007年)は、『貿易の額』より『投資の額』のほうが、為替レートを左右する」と指摘している[31]

第一勧銀総合研究所は「資本取引の活性化によって、経常収支の動向が為替相場に与える影響を低下させている面もある」と指摘している[32]

経済学者の野口旭は「貿易収支は一国の国内所得と支出の差によって決まる。つまり、貿易黒字は為替レートの動向とは直接的に関係ない」と指摘している[33]
金融政策

エコノミストの安達誠司は「為替レートは、金利差で決まるものではなく、通貨供給量の差、つまり中央銀行によるマネタリーベース供給スタンスの差で決まる」と指摘している[34]

高橋洋一は「為替レートは各国のマネーの量で決まるというのは世界の常識である[35]」「通貨供給量・金利差を重視する『マネタリーアプローチ』の説明力が高い。これを実務の世界で応用しているのが、ジョージ・ソロスであり、『ソロスチャート』と呼ばれる各国のマネタリーベースの比に為替は落ち着くというのは、マネタリーアプローチと本質的に同じである。長期・中期的にもマネタリーベースでかなりの部分を説明することができる[27]」と指摘している。

高橋洋一は「『為替は金融政策で決まらずにフローの経常収支で決まる』と言う人もいるが、為替は2国間の通貨量の比で7割方決まるのがこれまでのデータである。経常収支もストックで見ると、日本の金融資産のリスクプレミアムを代理しているので、為替に影響を与えるという見方もできるが、毎月のフローの数字ではない。むしろ、為替が1年後のフローの経常収支に影響する[36]」と述べている。

経済学者の森川正之は「金融緩和政策は名目での通貨安をもたらす傾向を持つが、実質為替レートを減価させる効果を持つか持たないかは物価と為替レートへの効果の大小関係次第である」と指摘している[37]

黒田東彦は「為替は金融政策だけで決まるものではない」と指摘している[38]
財政政策詳細は「マンデルフレミングモデル」を参照
実質実効為替レート主要通貨の実質実効為替レートの変遷(1964-2007年、2000年 = 100)

日本では日本円と米ドルの相場に注目が集まるが(円相場#日本における外為実務)、国際市場への参加者は他にも数多くあり、それぞれが自国通貨を持って変動相場制の下で貿易が行われているため、特定国間の為替レートだけを見ても国際市場における当該通貨の価値を知ることはできない。

外国為替市場における諸通貨の相対的な実力を測るための指標として実効為替レートがあり、これは中央銀行国際決済銀行などが算定し、適宜公表している。

BIS(国際決済銀行)[39]によると、2024年2月の円の実質実効為替レートは2020年平均を100とした場合、70.79で統計開始以来過去最低水準となっている。実質実効為替レートは、ドルやユーロ、人民元などの主要な通貨について、貿易量や物価水準などを考慮、比較して総合的な通貨の実力を算出する。その数値が低いほど、海外からモノを買う際の割高感が高くなる。原油や穀物材料が高騰しているなかで、円の実力が低下しているということは家計への逆風になる。

また、為替レートの変動を考えるとき、両国で物価上昇率が異なる場合は、実質的なレートが、名目為替レートとずれてくる。このような物価上昇率の効果を考慮した為替レートを「実質為替レート」という。

実効為替レートにおいても物価上昇率調整前後の値をそれぞれ算出するのが一般的であり、物価調整前を「名目実効為替レート」、調整後を「実質実効為替レート」と呼ぶ[40]


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