潰瘍性大腸炎
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考えられる仮説として、清潔すぎる環境、ストレス、腸内細菌の異常(悪玉菌の増加、善玉菌の減少)、人工甘味料の影響、自己免疫反応の異常(自己免疫疾患[18]、遺伝性(家族性)[19]、食生活の欧米化などが原因ではないか、と指摘されている。また、遺伝的にはクローン病と異なり、関連が薄いことが報告されている[20]
ストレス(心労)と食生活に関与する報告例

強度の
ストレスによる発症が認められたとする報告。近年の報告では、潰瘍性大腸炎ではクローン病とは異なり遺伝性の要因は少なく、ストレスや欧米的な食生活等の環境因子による発症や病態の進展が認められたとする報告。

自己免疫反応の異常とする報告例

胸腺T細胞系異常が認められたとする報告[21]

細菌が関与しているとする報告例

大阪大学大学院歯学研究科の研究によれば、潰瘍性大腸炎患者の唾液中のミュータンス菌は、標準菌と異なる糖鎖を持つグルコースの側鎖を持たない高病原性株TW295 の検出率が高く、高病原性株への感染は潰瘍性大腸炎発症のリスクが高い[22][23]

腸内細菌である硫化水素産生菌(嫌気性 Bacteroides、好気性菌 Enterobacteriaceae[24])が産生する硫化水素が潰瘍性大腸炎の原因ではないかとの指摘がある。大腸の粘膜に硫化水素を代謝する酵素が存在するが、その許容量以上の硫化水素に大腸粘膜がさらされることが潰瘍性大腸炎の原因となるのではないかとの指摘がされている[25]。硫化水素はミトコンドリアに所在するシトクロムcオキシダーゼを阻害することにより毒性を発現する。高濃度の硫化水素に曝露されることでアポトーシス関連蛋白質であるcaspase3の活性化、ミトコンドリアからのシトクロムcの遊離が見られ、ミトコンドリアを介したアポトーシスが誘導される可能性がある[26][信頼性要検証]。大腸粘膜を傷害するおそれのある有害な物質の発生を制御するためシソ科を中心としたいくつかの植物の抽出物を動物にあたえることで硫化水素やメタンチオールの発生を抑制することが報告されている[27]。イギリスで行われた調査では約3分の1のヒトがメタン菌を保有するメタン生産者である。メタンガスを作らないヒトでは、水素を利用するメタン菌の代わりに硫酸還元菌が水素や乳酸を利用して硫酸イオンを還元し、硫化水素をつくる[28]

切除標本からフソバクテリウム属 (Fusobacterium varium) が検出され、いくつかの臨床研究の結果から関与しているとする報告がある[29]

病理

主に直腸から発症し連続して全大腸に広がっていく。腸管粘膜の全層に炎症像が見られるクローン病と異なり、粘膜上皮に限局した炎症像を呈し、固有筋層に炎症が及ぶことは比較的稀である。病変の拡がりにより、全大腸炎、左側大腸炎、直腸炎に分類される。主な所見は以下の通り。

杯細胞の減少

腸陰窩の萎縮・陰窩膿瘍の形成

単核細胞浸潤

臨床検査

細菌性、ウイルス性の感染性腸炎でないことを診断してから、潰瘍性大腸炎を疑い検査が行われる。
内視鏡

今日では最も広く一般的に行われる臨床検査。病変部は主に直腸から発症し連続して全大腸に広がっていく。主な内視鏡所見は以下の通り。

腸管粘膜の血管透見性の消失

発赤調・微細顆粒状の粘膜

腸管粘膜に膿性粘液物の付着

深掘れ潰瘍(サイトメガロウイルス感染合併例)

一般的には下部から上部に向かって悪化し、上部から下部に向かって緩和されると見られているが、まれに、横行結腸→下行結腸→S状結腸の順で緩和が見られても、その奥の上行結腸で密かに悪化が進むことがある。
一般検査
血液
炎症の強さの指標として、
赤沈(赤血球沈降速度)・C反応性蛋白 (CRP) , 出血の指標としてHbなどが用いられるが、赤血球沈降速度・C反応性蛋白は必ずしも腸内の炎症状態を反映していないと指摘されている[30]
便
カルプロテクチン[31]検査キットが保険収載項目として追加された[32]
鑑別が必要な疾患

血便や激しい腹痛を起こす他の疾患例。詳細は「血便」を参照

腸管出血性大腸菌赤痢菌による出血性大腸炎腸結核薬剤性腸炎偽膜性大腸炎虚血性大腸炎上腸間膜動脈血栓症腸重積大腸癌大腸憩室症
重症度

以下が主に用いられている臨床的重症度評価である。

日本旧厚生省特定疾患治療研究班 「臨床的重症度分類」「血便回数」「便回数」「発熱」「腹痛」「頻脈」「貧血」「赤沈」などと「内視鏡所見」で評価されていく。

米国メイヨークリニック 「Mayo Score」

英国 「Sutherland Index」

以下は内視鏡的な重症度評価である。

Matts score

治療

緩解・再燃を繰り返すため、治療は大きく以下の2つが行われる。
緩解維持療法:炎症が治まっている状態を維持する。

緩解導入療法:炎症が強くなり再燃・活動時した状態から炎症を抑えていく。

食事指導

食事指導としては高蛋白を心がけ、脂肪、食物繊維、生ニンニク等を控えることが奨励される。ただし、中等症ないし重症の場合は絶食・腸管安静を計り、点滴による高カロリー輸液を行う。また、特定の食品が症状を抑えるかは明かではない[33]。「ω3脂肪酸、n-3脂肪酸を豊富に含む魚油サプリメントは、炎症を軽減し抗炎症薬を減らす」との報告があるが、データが少なくさらなる研究が必要[34]とされている。また、プロバイオティクスの有効性は統計学上の有意な差はない[35]との報告もなされている。
薬物療法

「緩解維持療法」・「緩解導入療法」共に薬物療法が基本となる。
サリチル酸緩解維持療法・緩解導入療法共に使用される。潰瘍性大腸炎の治療においては最も基本的で重要な治療薬。

サラゾスルファピリジン (Salazosulfapyridine;SASP)
サラゾスルファピリジン (SASP) は、約.mw-parser-output .frac{white-space:nowrap}.mw-parser-output .frac .num,.mw-parser-output .frac .den{font-size:80%;line-height:0;vertical-align:super}.mw-parser-output .frac .den{vertical-align:sub}.mw-parser-output .sr-only{border:0;clip:rect(0,0,0,0);height:1px;margin:-1px;overflow:hidden;padding:0;position:absolute;width:1px}1⁄3が小腸で吸収され、大腸で腸内細菌によってSPと5-ASAに分解されて腸管粘膜に作用する。副作用:男性に可逆性の精子形成阻害が発生する場合もある。可逆性であるので、使用中止により数か月で精子の形成が回復する。

サラゾピリン:坐剤も存在する。クローン病にも適応。


メサラジン (Mesalazine・5-aminosalicylic acid;5-ASA)
メサラジン (5-ASA) はサラゾスルファピリジン (SASP=SP+5-ASA) から「SP」を取り除き、有効成分「5-ASA」のみを取り出した治療薬。そのため副作用はサラゾスルファピリジンより少ないが、メサラジンの方が大腸に届く前に小腸で吸収されてしまうことも多い。販売されているメサラジン製剤は、「小腸で吸収されずに大腸で作用されるように」各社での製薬工夫がされており、日本では以下が認可されている。また後発医薬品も存在する。

ペンタサ:坐剤も存在する。


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