潜入捜査官
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更にVEは、いわゆるそれ自体の記述が刑事訴訟法上に存在しない「非公式捜査任務付警察官」(nichtoffentlich ermittelnder Polizeibeamter, noeP, NOEP)及び「非公式捜査員」(nicht offen ermittelnde Beamte, noeB)との相違を成す[17]。VEとは対照的にNOEPは被疑者に対しての権利の告知要件を課せられるため、とりわけ「証拠使用」(Verwertbarkeit von Beweisen)という観点でVEは有用である。
捜査員の個人情報保護

刑事訴訟法110b条3項3文及び同96条(§110b Abs. 3 Satz 3, §96 StPO)に基づき、身分を偽装した上での更なる職務遂行及び職員の(真の身分における生活下の)身体と生命の保護が権利として認められているため、公訴手続きにおいて捜査員の個人情報は通常秘匿されたままである。VEが行う秘密捜査の結果生じる証拠を有効とするため、同法は「伝聞に基づく人証」(Zeuge vom Horensagen)の証拠能力を原則として肯定し、このような人証への証拠調べを有効とするのは確かであり、この点に関して証拠調べ禁止(Beweiserhebungsverbot)の例外となる。だが実際には前記原則を考慮し、裁判にてVEの代理として「伝聞に基づく証人」へ更なる尋問が行われる。そして申出があるならば出廷が免除されているVEもまた法廷で尋問を受けることになる。ただしその場合、映像撮影機器を用いて声や表情が分からないよう技術的処理を施した上で視聴覚機器を用いて音声と画像のみ法廷内へ映像中継する形の尋問が許可される(audiovisuelle Vernehmung, §247a StPO)[注釈 4]
事例

シュレーダー政権下では極右主義政党ドイツ国家民主党違憲性調査のため、情報機関である憲法擁護庁の秘密捜査員が投入されたが、2003年に秘密捜査員の過剰投入が発覚しスキャンダルとなった(V-Mann Skandal, ファウマン・スカンダール)。このため憲法裁判所による同党の結社禁止手続が中止に追い込まれた[18]。詳しくは記事"ドイツ国家民主党の結社禁止措置(ドイツ語版)"を参照。
オランダ

オランダでは刑事訴訟法(オランダ語版)(Wetboek van Strafvordering)[19] において、「合理的な嫌疑(英語版)」がある場合、潜入捜査、情報提供者の運用、秘密捜査等の「特別な捜査の権限」(: Bijzondere bevoegdheden tot opsporing)を捜査員に与えると規定している[20]
リスク

秘密任務に携わるエージェントにとって大きな影響を与える可能性のある問題が主に2つ存在する。1つは、親しい者や捜査関係者との人間関係の維持("maintenance of identity")について、もう一つは通常任務に戻る際に関する問題である。
人間関係

捜査員が全く別の環境で二重生活を続けることは多くの問題を惹起する。隠密捜査は特殊な任務を請け負う捜査官といえども非常にストレスの多い捜査の一つである[21]

このうち判明しているストレスの最大の原因は、捜査員が友人や家族、そして通常の環境から離れて任務を行うことにある。このような些細な離別であっても抑うつや不安を招き得る。捜査員の離婚率に関するデータは存在しないが、人間関係についての大きな障害となっているのは事実である[22]。業務の秘匿性が必要とされること、そして仕事上の問題を同居者に打ち明けることができない結果このようなことが起きる可能性がある。なおかつ予定を立てることが出来ないほどの突発的な仕事のスケジュール、個人の性格や生活様式を無理やり変更するよう迫られること、長期間の別居の状態に置かれることは人間関係に全くもって悪影響を及ぼす結果となる[22]

捜査員のストレスは、捜査の方向性の明確な欠如、言い換えればいつ終わるか分らない捜査活動が原因で生じることもある。入念な計画立案、リスク、少なからぬ自己犠牲などは捜査を成功させようとする捜査員の重圧となり、のちに相当のストレスを招く可能性がある[22]。秘密捜査員が直面するこのようなストレスは、彼らとは対照的に通常任務に携わる捜査員とは決定的に違う。と言うのも通常の任務に携わる捜査員のストレスの主たる原因となるものは、管理部門と官僚機構だからである[23]。秘密捜査員は通常官僚機構から遠ざけられているため、場合によってはそれ以外の捜査員とは全く別の問題を生じる。彼らは制服、記章、決まった一定の上司などによる定常的な監督下にはないが故に、逆に固定された職場が与えられたり、もしくは(頻繁に)決まりきった仕事に携わる場合では、組織犯罪との恒常的な関わりも相まって、汚職の可能性が高まるとの説もある[24]

一部の捜査員はこのようなストレスが引き金となって薬物乱用アルコール乱用を引き起こす可能性がある。彼らはその他警察官と比べ夥しいストレスにさらされ、自身は孤立しており、加えてドラッグなどを容易に手に入れられる環境にあるために、ともすれば彼らが薬物依存症に陥ってしまうのである[25]。その他多くの職業に比べ、一般に警察官の多くはアルコール依存症を患うものが多いとされ、おおよそその原因はストレスであると言及される[25][26]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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