漫画
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英語でコマ割り漫画を意味するcomics(コミック)は、ギリシャ語で「喜劇」を意味するΚωμικ??(コーミコス)から派生した、「滑稽な」を意味する形容詞comicに由来する言葉である(現代のギリシャ語でも、同じ語源を持ち、おそらくは英語の影響をも受けた用語Κ?μικ?(コーミクス)が、漫画の意味で使われている)。初期の漫画の多くはほぼ同じサイズのコマを一列に並べたものであり、また、ほとんどは滑稽な内容を扱っていたために、これらのジャンルにはcomic strip(コミック・ストリップ、滑稽な端切れ)という呼び名が与えられた。それらを一冊の冊子にまとめたものはcomic book(コミック・ブック、滑稽な本)と呼ばれ、それが短縮されてcomicとなった。しかしながら、漫画が深刻なテーマを取り扱うようになると、それらに冠されたcomicという名は混乱をもたらし、 これを嫌ったアメリカ合衆国の漫画家ウィル・アイズナーはsequential art(シーケンシャル・アート、「連続された絵画」の意味)という呼び名を導入した。なお、英語のcomicはアイズナーが代替語としてsequential artという用語を提案したことからも分かる通り、原則的には複数のコマで構成される漫画のみを指す用語である。英語では一コマ漫画はcartoon(カートゥーン)あるいはpanel(パネル)と呼ばれる。現代の英語のcartoonという用語が、もっぱらanimated cartoon(アニメーション作品)を指す言葉として使われるようになったため、印刷媒体の上での一コマ漫画であることを強調したいときは、printed cartoonと表記される。

英語のcomicという言葉はヨーロッパ諸国へも輸出され、ドイツ語のComic(コミーク)やロシア語のКомиксなどの呼び名は、英語のcomicに由来する。オランダ語ではおもにstripが漫画の呼び名として使われている。ただし、ドイツ語でも漫画に対して自国語由来のBildergeschichte(ビルダーゲシヒテ、絵の物語)という言葉が使われることがある。

一方、漫画に対して英語のcomicとは異なる呼び名を持つ言語圏も多数あり、フランスベルギーといったフランス語圏ではbande dessinee(バンド・デシネ)が使われている。これは「絵の描かれた帯」という意味で[7]、英語のcomic stripと同様に、漫画のコマの配列について言及した言葉である。

フィンランド語のsarjakuva(サルヤクヴァ、「連結した(sarja)」+「画像(kuva)」)も、やはり同様の意味の言葉である。

スペイン語では、アメリカンコミックのようなストーリー性のあるものはそのままcomic(コミック) 、もっと軽い、どちらかといえば子供向けのものはtebeo(テベオ、単語の由来は後述**) 、風刺画、戯画のようなものはhistorieta (イストリエタ)[8]、vineta(ビニェータ)、caricatura(カリカトゥーラ)などと呼ばれる。近年スペインでは絵やストーリーのスタイルが日本の漫画から大きな影響を受けている作品群はそのままmanga(マンガ) と呼ばれ、2012年には王立スペイン語アカデミー編纂のスペイン語辞書第23版にも外来語として記載されるようになった。 

tebeo(テベオ)は1917年にバルセロナで創刊された長寿漫画雑誌TBOに由来する。TBOはスペイン語のte veo(私は君を見る)からつけられたタイトルである。

イタリア語では漫画はfumetto(フメット)と呼ばれる。これはイタリア語で「煙」を表すfumo(フーモ)に由来する言葉で、漫画のフキダシの形からこの呼び名が生まれた。fumettoの複数形はfumetti(フメッティ)であるが、この言葉はアメリカではイタリアの漫画よりも、むしろ写真を用いた漫画を表す言葉として使われている。

中国語圏や韓国語圏では、日本から輸出された「漫画」の表記のそれぞれの現地発音による「漫画」(台湾と香港では「漫畫」)(マンホア)や??(マンファ)という呼び名を使う。

エスペラント語では漫画一般を指す言葉として、bildo(画像)とliteraturo(文学)を組み合わせた言葉bildliteraturo(ビルドリテラツロ)が作られたが、日本風の漫画に関してはmangao(マンガーオ)と表記することもある。

日本では、一般に「漫画」「マンガ」「まんが」「コミック」などと呼称されている。古い呼び方としては、日本初の漫画雑誌ジャパン・パンチに由来する「ポンチ」という名が明治から大正年間にかけて使用されていた[9]。その名残で、出版業などビジネス界では、漫画絵のことを「ポンチ絵」とも呼称している(製造業ではポンチ絵はラフ(簡単な絵の概略構想図)の類似表現である)。詳細は「日本の漫画」項を参照。
歴史

漫画発祥の時期と場所については、おもに漫画の定義に依存する多数の異なった説が存在する。
古代と中世

戯画的漫画・落書きは、その大衆的性格から(また時に体制批判的な内容から)、美術が権力者や宗教に従事していた古代や中世には、積極的に残される努力はされなかった。それゆえに作例がかなり限られてくる。日本の現存する最古の漫画の作例では、法隆寺に残された漫画が挙げられる。古代エジプトの漫画としては、権力者を動物化して表現した漫画が存在している。これは壁画や壷絵などが複数残されている。古代ギリシアでも、壷絵には多くの戯画的表現を見出すことができるが、古代世界で多くの漫画が残されているのはポンペイである。この古代ローマ時代の地方都市は、ある日突然に火山の噴火によって町が灰に埋もれたことから、普通では残ることのないようなごくごく日常的な絵画や漫画の類まで残されている。これらは偶然に残されたこと、庶民的性格、おおらかな性の表現といった点で似ている。

また、宗教において写本画のごくごく目立たない部分に落書きがあったり、後期中世を通じて大量に流布していた木版画には、民衆的ユーモアを確認することができる。日本の仏典の端には、写学生の気晴らしと思われる漫画などがみられる。ゴシック末期の、たとえばショーンガウアーやボッスの作品には、さまざまな戯画的世界が見られる。宗教関連では、仏教では釈迦一代記曼荼羅が描かれた。これは、釈迦の両親から、象の夢による妊娠に始まって、出家、涅槃までを、中央の釈迦を中心に、左下から反時計回りに展開したものである。一方、キリスト教では、イエスの物語を語り継ぐことが信仰の中心となったこともあり、十字架の道(Via Crucis)が多くの教会の内部(巡礼に倣うために、各柱の下)に描かれた。これは、イエスの死刑宣告から復活まで、14コマ+1コマで描くものであり、イエスやピラト、マリア、シモン、ベロニカなどのキャラクターが定型的に描かれる。これらを原点として、仏教でも、キリスト教でも、さまざまな時間的な物語が、絵や彫刻、ステンドグラスのコマ、ないし連続的展開によって説明される形式が確立されていた。ただし、当時の民衆は文字が読めない場合が多かったために、説明は宗教家の活弁によって補われる必要があった。
近世

ルネサンス美術は、きわめて多様な作例を残している。特に16世紀以降は、美術に従事するものは個性的であることが優れていると考えられ、そのために表現の幅が広げられた。レオナルド・ダ・ヴィンチは奇妙・奇怪なものに非常に関心を示し、彼の手稿には多くの戯画が残されている。レオナルドの興味はマニエリスムを予感させる。そしてまた、民衆的な笑いのセンスが、芸術的な形に現れた時代でもあった。後期ルネサンスやマニエリスムには、下卑た笑い、エロティックなもの、世相批判的なもの、そういったまるでフランソワ・ラブレーの世界が、美術に展開し、枚挙に暇がない。それは漫画と密に通じている。代表的な美術家としては、ピーテル・ブリューゲル(父)、ジャック・カロジュリオ・ロマーノルーカス・クラーナハ(父)などがいる。カロや、クラーナハの場合、当時飛躍的に発展しつつあった印刷技術との関連においても重要である。ウィリアム・ホガースによる連作『The Rake's Progress(道楽者のなりゆき)』(1733年)の最後の一枚

「コミック・アートの歴史」を著したR.セービンは、漫画は本質的に印刷媒体と関連づけられているという主張の下に、印刷術の発明により漫画の形式が具体化されたとの見解に立っている。したがって、印刷術に先立つすべての漫画のバリエーションは、あくまで漫画の先行形式であり、漫画の系譜に属するものとはみなせないとするのが、セービンの見解であった。

漫画の形式を備えているとみなせる、現在残されている初期の作品はフランシス・バーローによる『A True Narrative of the Horrid Hellish Popish Plot(恐るべき地獄のようなカトリック陰謀事件についての真実の物語)』(1682年)である。これは、コマ絵の連続で経緯が描かれ、セリフはフキダシによって表現されている。その後、同様の形式を持つものはいくつも発表されているが、エディ・キャンベルは「それらの作品は漫画というよりも、風刺画の連作ではないか」と反論している。この時期の特筆すべき制作者としては、トマス・ローランドソン、ジャン・ヴァンデルフフト、ジェームズ・ギルレイジョージ・クルックシャンクがいる。ローランドソンとギルレイの作品の中には、フキダシを導入しているものも見られる。

それらの中でも、当時の政治を風刺したローランドソンの1784年の作品『The loves of the fox and the badger, or the coalition wedding』は、キャプション、フキダシ、きちんと展開するコマ形式を備えたうえに、思考表現のフキダシも持ち、コマ漫画のプロトタイプであるとみなされ、このローランドソンの作品は、絵物語の連続表現としてのコマ漫画形式の普及を促進したといえる[10]
19世紀ロドルフ・テプフェールによる絵物語『Histoire de monsieur Jabot(ジャボ氏物語)』(1833年

スイスロドルフ・テプフェールは、19世紀前半の漫画史における重要人物である。コマ絵とその下に添えられた文からなるテプフェールによる一連の作品は、ヨーロッパとアメリカのさまざまな地域で出版された(ただし、この作品にはフキダシは用いられていない)。当時の著作権法の不在により海賊出版されたこれらの翻訳版は、両大陸で漫画という形式を持つ作品のための市場を整えた[11]

1845年に、テプフェールは著書『Essai de Physiognomonie(人相学エッセイ)』の中で、彼の考えを形式づけている。「絵物語を構築し、しばしば澱となって沈んでいる素材から可能性を余さず引き出してやるのに、名匠の業を身につける必要はない。絵物語の構築は、単に鉛筆画で軽佻浮薄なカリカチュアを描き出すことではない。また、単に世間の噂話を物語にすることでも、駄洒落を絵画化することでもない。あなたは実際にある種の演劇を発明し、企画に沿った形で部品を配置し、全体を満足な形に整えねばならない。


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