漢語
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これら漢字の字音音読みと総称され、これらを複合派生させることによって、あるいは単独で用いることによって、漢語は構成される。複数の漢字が一つの語を形成するものを特に熟語と称する場合もある[6]。なお、漢語が日本に定着する過程で、発音に連声音便あるいは慣用音などの形で変化が起こったため、日本語における漢語の発音はかなり変則的である。

ところで、中国由来の語彙が日本に流入したのは、上代より過去の時代まで遡ると考えられ、例えば、「うま」(馬)、「うめ」(梅)、「たけ」(竹)、「むぎ」(麦)などの語は、同時代における中国の古い字音との関連が指摘されているが、仮にこれらが借用された語だったとしても、これらは訓読みに準じた扱いを受け、通常は漢語の範疇に含めない[7]。同様に「ぜに」(銭)のように字音が変化して国訓化した語も存在する[8]。さらに「おに」(鬼)、「ひどい」(酷い)のように元の用字が忘れられ、本来とは異なる表記をする例もある(それぞれ「隠」、「非道」の字音に由来する)。

また、現代中国語の発音を模した「メンツ」(面子、北京語由来)や、「ワンタン」(雲呑、広東語由来)などの語は、借用の歴史が浅いため、洋語とまとめて外来語とするのが妥当である[9]
梵語、西域諸言語由来

漢訳仏教圏に属する日本においては、古いインドの言語である梵語(サンスクリット)を漢字で音写した語も観察される。例えば「南無(なむ)」、「刹那(せつな)」といった語は、それぞれ梵語の“???”(nam?)、“????”(k?a?a)の音写であり、それぞれ「帰命」、「念」と意訳されている[10]。なお中国語では梵語に存在する二重子音を表現することが難しいため、音写の際は単純な子音に省略される傾向にあるという[1]

また、シルクロードを介して西域と呼ばれる地方から伝えられたと考えられる語も存在する。例えば、顔料の一種である「蜜陀僧(みっだそう)」(litharge)は、ペルシア語の“murd?sang”に由来するという[10][11]

これらは本来の漢語とは厳密には異なる出自をもつが、その源流が明確なものはむしろ少数であり[1]、広い意味での漢語とみなして差し支えない[10]。本項でも特にことわりのない限り漢語として扱う。
当て字詳細は「当て字」を参照

「寿司(すし)」などの語は、全て漢字の字音を用いた表記がなされるが、これはいわゆる当て字に類するものであり、和語の範疇である[12]ポルトガル語の“gibao”に由来する「襦袢(じゅばん)」のように、外来語に対する漢字表記ももちろん漢語とはいえない[12]

当て字は、万葉仮名のように機能的には漢字の表意性を考慮する必要はない。一方で意味上の連想がはたらくという点は無視し得ない。例えば「かぶく」(傾く)という純然たる和語に由来する「歌舞伎(かぶき)」という語には字義との関連が認められる[12]。なお「歌舞伎」という語は、『新唐書』(欧陽脩ら、1060年)という漢籍にも用例があり、日本における当て字との関連を指摘する説もある[13]
造語詳細は「和製漢語」を参照

時代の変容とともに新たな概念を表現するため、語彙は自然に発生したり、あるいは人為的に造語されたりする。漢語もこの例外ではないが、近代に至るまで漢字圏では尚古思想が強く、造語の際はなるべく典拠に基づくよう努力が行われた[14]

日本においても複数の字音を組み合わせて既存の漢語を模倣することは古来行われており、いわゆる和製漢語として日本語の語彙体系の一群を形成する[15]。これに類する語は、「政治」「文化」「科学」「社会」など19世紀から20世紀初頭にかけて発生した新漢語が多くを占めるという[8]。一方で、前近代においても「悪霊」(『源氏物語夕霧)、「臆病」(『大鏡』時平)、「辛抱」(『日葡辞書』)、「不埒」(『好色五人女』)など、旧来から存在すると考えられる和製漢語は、枚挙に暇がない[16]

ただ、これらの漢語が確かに日本で造語されたものであり、それ以前の時代の漢籍には一切の用例が無かったということを立証するのも厳密には非常に困難である[14]。また、漢籍にも同様の用字が見出せるものの、日本における意味・用法が異なる熟語も少なくなく、一律な分類は難しい。高島俊男は、日本語と漢籍で意味がかけはなれた「成敗」「中間」などの語を挙げ、「これらが『和製』の漢語ではないのなら「日本漢語」であると考えればよい」としている[17]

なお、日本で独自に作られた「働」、「畠」などの国字は、一般に音読みをもつことはないが、文字の構成要素から類推して「労働(ろうどう)」、「田畠(でんばく)」のような字音語を形成することもある[14][18]
混種語詳細は「混種語」を参照

「雑木」を「ぞうき」と読むような重箱読みや、「夕刊」を「ゆうかん」と読むような湯桶読みは、和語と漢語を複合させた混種語(和漢混淆語)であり、漢語の範疇ではない[19]
漢語の発音
字音の種類詳細は「音読み」を参照
概要

日本語には、漢字一字に対して、呉音漢音、および唐宋音という三種類の発音が存在する。これら三種の読み方が全て「サン」で一致する「三」のような漢字も存在するが、ほとんどの漢字は「行」(呉音:ギョウ、漢音:コウ、唐宋音:アン)のようにそれぞれに異なった読み方を有する。

漢字の歴史的な発音は、反切と呼ばれる特有の表記法によって伝えられている。例えば、先に挙げた「行」という字の場合、反切によって中古音(5世紀ごろの中国の発音)では“gang”[???i?][20]のような音で発音されていたことが推定される。この頃の中国江南地方における発音を写したとされる呉音では、これを「グヰヤウ」とした。一方、8世紀ごろの長安における発音を模した漢音では、漢字の清音濁音の区別が失われつつあったため、これを「クヮウ」と書いた。“ng”の音が「ウ」と書かれたのは、当時の日本語において「ン」の音(撥音)が未発達だったからである。その後、日本語における音韻の変化により、それぞれ、「グヰヤウ」→「ギヤウ」→「ギャウ」→「ギョウ」、「クヮウ」→「カウ」→「コウ」のように変化したと考えられる[21]

なお、漢字の種類は膨大であり、現在に残る漢字の読み全てが中国から直接伝えられたものではないと考えられている。呉音や漢音の多くは、後世の音韻学者によって反切をもとに理論的に体系化されたものとされている[22]

中国語の比較的新しい発音を反映した唐宋音は、中古音よりむしろ現代北京音に近い。かつて“gang”と発音された「行」の字は、現代北京音では“hang”と変化しており、これは「行」の唐宋音「アン」によく似ている[23]。唐宋音は、日本において字音の体系が完成された後の発音であるため、呉音や漢音ほど一般的は使用されない。
呉音と漢音の比較

呉音は上代以前から広い期間にわたって仏典などとともに流入、土着した発音であり、漢音は主に平安時代初期の留学生により持ち帰られた発音とされる。そのため一般に後者の方がより正統に近い発音とみなされている[24]

現在まで使用されている呉音を用いた漢語は、「経文(キョウモン)」、「世間(セケン)」、「成就(ジョウジュ)」、「殺生(セッショウ)」、「末期(マツゴ)」のように仏教用語あるいは、仏教思想に関連した生活用語が目立つ。一方で漢音の場合は、「経書(ケイショ)」、「中間(チュウカン)」、「成功(セイコウ)」、「生殺(セイサツ)」、「期間(キカン)」のように漢文調で、ある程度の「堅い」語感と伴う語彙が多い[25]
慣用音詳細は「慣用音」を参照

呉音、漢音、唐宋音以外にも日本語において字音として慣用されるものがある。例えば、比較的新しい時代から現れた「茶」の字がある。この字は唐音で「サ」 だが、一般には「チャ」で慣用する。この字は漢音と唐音の移行期に流入したと考えられ、呉音と漢音は辞典にも掲載されていないことが多い(資料によって は、中古音を元に「ジャ」「ダ」「タ」などとすることもある)。
字音の展開
多音字

多くの漢字は複数の意味をもつが、中には字音によって意味を弁別できる漢字もある。例えば「率」の字音には、摩擦音中古音:swit[?w?t][20]、呉音:ソチ、漢音:シュツ、慣用音:ソツ、.mw-parser-output .pinyin{font-family:system-ui,"Helvetica Neue","Helvetica","Arial","Arial Unicode MS",sans-serif}.mw-parser-output .jyutping{font-family:"Helvetica Neue","Helvetica","Arial","Arial Unicode MS",sans-serif}?音: shuai)と流音(中古音:lwit[lwit][20]、呉音:リチ、漢音:リツ、?音: l?)の2種類の系統ある。


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