深海生物
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物質生産

深海では生物群集における生産者を欠くため、浅海での物質生産に大きく依存する。直接的利用と、間接的利用の2通りの方法がある。

直接的利用は深海生物が浅海に浮上して採餌を行うことで、ハダカイワシなど中深層に生息する多くの深海魚は、夜間により浅い水域に移動して採餌を行う。

間接的利用とは、浅海の生物の遺骸や排泄物がデトリタスなどの状態になって沈んでいき、深海生物の餌として利用されるものである。深海では水中に雪のように漂うマリンスノーが見られるが、これもその例である。また、まれにクジラの死体が深海底に沈み、多くの動物の餌となっていることも知られている(鯨骨生物群集)。
浅海との繋がり

前述のように、深海では基本的には生産者が欠如し、消費者と分解者のみからなる生態系が作られている。それを支えるエネルギーは、浅海での生産に依存している。

他方、浅海では光合成が行われるが、同時に無機窒素などの肥料分の消費も激しい。それらは消費者や分解者の活動で作られるが、その量が光合成量を規定する制限要因ともなっている。つまり慢性的に不足気味である。他方、深海では生産者が存在しないため、消費者・分解者ともに密度が低いとはいえ、肥料分は作られる一方である。ほとんどの場所で、これらの海水の間での大きな流れは存在しないが、一定の場所ではそのような海水が浅海に吹き上がるような流れを生じる。そのことを湧昇というが、そのような流れを生じる場所は、肥料分の多い海水が供給される場所となり、ほかの場所よりはるかに豊かな生物相を支えることができる。
化学合成生態系

深海での食物連鎖は、海の表層から降下してくる有機物のみに依存すると思われていたが、1970年代から各国で進められている深海探査により、浅海の生産物に頼らない独立した生態系が存在することが明らかになった。この生態系を化学合成生態系という。

海嶺海底火山の周囲にある熱水噴出孔では、300℃以上もの熱水が噴き出している。その周囲には熱水中に含まれる硫化水素や水素をエネルギー源にして生存する化学合成細菌古細菌が繁殖している。これらを体内に共生させるチューブワームハオリムシ)やシロウリガイ、細菌を餌にするカイレイツノナシオハラエビ、さらにそれらの生物を餌にするイソギンチャク、シンカイコシオリエビ、ユノハナガニ、ゲンゲなどが世界各地の熱水噴出孔で次々と発見されている。

生物の生息密度は、ふつう沿岸から離れた深海ほど低くなるが、熱水噴出孔の周囲は高密度で生物が生息している。
深海探査

新たな水産資源や鉱物資源を深海に求める機運もあり、1970年ごろから各国が深海探査に乗り出すようになった。これまでに新種の生物やメタンハイドレートマンガン団塊コバルトクラスト熱水鉱床などが次々と見つかっているが、まだまだ深海は未知の世界といえる。
深海探査船詳細は「深海探査艇」を参照

各国の所有する主な深海探査船には次のようなものがある。
しんかい 6500
詳細は「しんかい6500」を参照日本の所有する有人深海探査船は「しんかい2000」と「しんかい6500」である。「しんかい2000」は 2003年に引退し、現在は「しんかい6500」だけが稼動している。「しんかい6500」はその名のとおり、水深6,500メートルまでの潜航が可能である。3名搭乗できるが、うち2名はパイロットで、オブザーバーと呼ばれる深海調査を行う学者は1名だけ搭乗できる。およそ秒速0.7メートルで潜水し、水深6,500メートルまで2時間ほどで到達する。一度の潜航時間は9時間程度である。
かいこう
詳細は「かいこう」を参照日本の所有する、直接の搭乗員はおらず母船とはケーブルでつながった状態で深海探査を行う無人深海探査機としては「かいこう」「UROV7K」「ディープ・トウ」「ハイパードルフィン」などがあり、もっとも深く潜航できるのが「かいこう」である。「かいこう」はもともと、「ランチャー」という親機と「ビークル」という子機からなっていた。これら2つがつながった状態で水深7,000メートルまで潜航し、さらにビークルを分離することで、世界のどの探査機より深い水深11,000メートルまで潜航することができた。しかし2003年にケーブルが切れ、ビークルを失う事故が発生した。このため現在は別の無人探査機「UROV7K」を改造してビークルの代用に充てている。なお「UROV7K」の潜航深度が7,000メートルであるため、現在は「かいこう7000」として運用中である。7,000メートルであっても潜航深度としては現存する世界のどの探査機よりも深い。「かいこう」ランチャー自体は現在も11,000メートルまで潜航可能であるが、ランチャーには探査機能がない。
ゆめいるか
詳細は「ゆめいるか」を参照日本の所有する、自立型無線探査機である[10]。ケーブル接続による操作を必要とせず、長時間航行し続けることができる。同じく自立型の「うらしま」は317キロの連続航行に成功した。「ゆめいるか」はおもに海底資源調査を行い、「じんべい」「おとひめ」はおもに地球環境の調査を行う。
アルビン
詳細は「アルビン号」を参照アメリカ合衆国が所有するアルビン号は、水深 4,500メートルまで潜航できる有人深海探査船である。パイロットは1名のみでオブザーバーが2名の計3名が搭乗できる。1964年完成の古い探査船だが、耐久性に優れいまだに現役であり、これまでに数々の発見をしてきた。世界中の深海探査船の潜水時間をすべて合計してもアルビンの潜水時間に及ばない。
ミール
詳細は「ミール (深海探査艇)」を参照ミールといえばロシアがかつて所有していた宇宙ステーションが有名だが、ここで挙げるのは同名の有人深海探査船である。6,000メートルまで潜航でき、深海に沈むタイタニック号を撮影したことでも知られる。
バチスカーフ・トリエステ
詳細は「トリエステ (潜水艇)」を参照スイスで設計され、1953年に進水したバチスカーフ・トリエステは深度約10,900メートルまで潜った有人潜水艇として知られている。しかし「安全に深く潜ること」に重点をおいた潜水艇だったため、のちに開発された潜水艇に比べると、持続性と汎用性の面では劣っていた。
ディープシーチャレンジャー
詳細は「ディープシーチャレンジャー」を参照ディープシーチャレンジャー(英語:Deepsea Challenger、DCV 1) は、世界で最も深い海の底として知られるマリアナ海溝チャレンジャー海淵に到達するために設計された有人深海探査艇である。2012年3月26日、カナダ人の映画監督であるジェームズ・キャメロンの操縦により最深点に到達した。
脚注[脚注の使い方]^ 日本大百科事典(ニッポニカ)
^ 秦田勇二, 能木 裕一 ほか「深海バイオリソース応用研究 -深海微生物からの新規有用酵素探索-」『極限環境微生物学会誌』第8巻第2号、極限環境生物学会、2009年、85-91頁、doi:10.3118/jjse.8.85、2019年4月27日閲覧。 
^ 世界大百科事典 第2版
^ 国際海洋環境情報センター. “ ⇒深海とは”. 2016年7月18日閲覧。
^ a b c d e f g 瀧澤美奈子著 『深海の不思議』 日本実業出版社 2008 年 3 月 20 日初版発行 ISBN 9784534043542
^ ここまで龍澤(2008),p.20
^ 深海と地球の辞典編集委員会編(2014),p.3
^ 『深海生物図鑑』 p. 221
^ Karner MB, DeLong EF, Karl DM (2001). “Archaeal dominance in the mesopelagic zone of the Pacific Ocean”. Nature 409 (6819): 507–10. PMID 11206545. 
^無人でスイスイ、海底3千メートル…海洋機構の新探査機 朝日新聞 2012年4月6日[リンク切れ]

参考文献

長沼毅 『深海生物学への招待』 NHKブックス 1996年 ISBN 4-14-001775-9

北村雄一 『深海生物図鑑』 同文書院 1998年 ISBN 4-8103-7503-X

北村雄一 『深海生物ファイル』 ネコ・パブリッシング 2005年 ISBN 978-4-7770-5125-0

ピーター・ヘリング著・沖山宗雄訳 『深海の生物学』 東海大学出版 2006年 ISBN 4-486-01675-0


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