淫行条例
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児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(児童買春法)施行(1999年)以前には児童買春もこの淫行条例違反として検挙されていた。

売春防止法第3条で単純売春(例:愛人や妾などが複数の者と同様の関係を結び対価を受け取る)や買春自体を禁止してはいるが罰則は規定されておらず、また同法第5条規定の罰則では出会い系テレクラ・街頭での勧誘等公衆の目に触れる形での勧誘などが処罰対象である。

すなわち、この児童買春法施行以前、唯一の売買春関連法令てある売春防止法には買春する側の男性に対する罰則がなかった。当時、児童福祉法においての「児童をして自分自身と淫行をさせる行為」は広く曖昧で運用上基本的に適用された例があまりなく、淫行条例のない自治体で児童買春をしても罰するのが難しい状況であった。そのため児童買春法以前の淫行条例に関する議論や、援助交際(買春)に対する罰則をより明確に規定した法律の導入を求める署名活動・陳情などは児童買春の問題が中心になりやすかった。


淫行処罰規定は和歌山県1951年に青少年条例に導入したものが最初であるとされる[3]

東京都(東京都青少年の健全な育成に関する条例)では、諮問機関である青少年問題協議会において淫行条例の導入が1988年と1997年の2度にわたり否定されており、また東京都の担当部局も1985年当時、朝日新聞の取材に対して「合意の上の性行為は処罰にはなじまず、取り締まりは現行の法規で十分である」としていた。そのため自発的な性行為や売買春ではない性行為を規制する条項がなかったが、2005年2月、「何人も、青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行ってはならない」とする改正案が都議会に提案され、自民・公明などの賛成多数で可決・成立した。

千葉県(千葉県青少年健全育成条例)では、「売買春、威迫・欺き・困惑による性行為、周旋を受けての性行為」のみが規制されており、自発的な性行為を規制する条項がなかったが、2005年、「何人も、青少年に対し、威迫し、欺き、又は困惑させる等青少年の心身の未成熟に乗じた不当な手段によるほか単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められない性行為又はわいせつな行為をしてはならない」とする改正が行われた。

東京都渋谷区は、当時児童買春禁止法がなく東京都青少年条例にも児童買春処罰規定がなかった1996年2月、淫行処罰規定を含む独自の青少年保護条例を導入する必要があるとしたが、結局導入されなかった[要出典]。

反対意見[ソースを編集]

福岡県青少年保護育成条例事件の最高裁判決においては、3名の裁判官(伊藤正己判事・谷口正孝判事・島谷六郎判事)が「福岡県の淫行処罰規定は違憲であり、被告人は無罪である」という趣旨の反対意見(少数意見)を述べている。

たとえば谷口正孝判事(当時)は、「青少年の中でもたとえば16歳以上である年長者(民法で女子は16歳以上で婚姻が認められている)について両者の自由意思に基づく性的行為の一切を罰則を以て禁止することは、公権力を以てこれらの者の性的自由に対し不当な干渉を加えるものであって、とうてい適正な規定とはいえない」としている。また女子の場合、婚姻可能年齢との矛盾も抱えている(ただし、2022年(令和4年)4月1日以降は、男女とも18歳以上で婚姻適齢となる(改正民法)。

学説上は、個人のプライバシーを侵害しかねず恣意的に解釈される、罪刑法定主義に反するなどの批判的な意見や、政府・国会が立法を懈怠して、その責任を地方自治体に丸投げし、条例制定権に委ねた結果、法定刑や構成要件に不均衡が生じていることや、地方自治法第14条第2項の罰則が限定的であり、厳罰化に対応できない点などの制度的欠陥から、国(政府)による法規制を求める意見もある[要出典]。

なお、日本弁護士連合会は「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律案」及び「刑法の一部を改定する法律案に対する意見書」(1998年5月1日)において、「親・教師などによる対償を伴わない性的虐待」を処罰するための法整備をすみやかに行い、淫行処罰規定は全面的に廃止する必要があるとしている[4]

2006年3月24日に18歳未満の少年の健全な育成に障害を及ぼすおそれのある性行為を補導の対象とする、「奈良県少年補導に関する条例(平成18年奈良県条例57号)」が奈良県議会で自民・公明などの賛成多数で可決・成立した。本条例には、性的自由を著しく制限するものであるとの意見もあり、日本弁護士連合会にも反対の立場をとっている。

諸外国との比較[ソースを編集]

マサチューセッツ州では16歳未満との性行為を制限するものが存在する。もちろん、性行為に関する年齢制限すなわち性交同意年齢(=性的同意年齢=合意年齢=承諾年齢)は存在する。この性交同意年齢が、性行為に関する実質的理解が可能か否かを基準の中心にして設定されているのに対し、淫行条例の多くは性行為に関する実質的理解ができても「みだらな」ものは違法であるという基準に基づいて設置されていると考えられる。この条例に違反した者が16歳未満だった場合は対象か、または違反した者が16歳以上だった場合に処罰されているかは定かではない。

これらは全て国家法(政府による法規制)であり、条例という形で地方自治体に立法責任を押し付けていない点で、日本と異なる。
関連する判例[ソースを編集]

福岡県青少年保護育成条例事件成人男性が交際中の当時16歳の女性と性的関係を持ったことが、「淫行」にあたるとされた。また「淫行」の定義について、上述の限定的解釈を行って無罪となった[5]。(1985年10月23日、最高裁)

長野県児童福祉法違反事件中学校教師が自ら勤務する学校の女子中学生に対し、1995年3月25日被告の自宅において、同年4月30日飯田市内のモーテル(ちなみに当不動産物件は風適法に基づいて届け出た正規のモーテルではなく、営業禁止区域に立地する偽装モーテルである。)において、被告自らが予め購入しておいたバイブレーターを示し、操作方法を教示した上で、自慰行為をさせたことが、児童福祉法の「児童に淫行をさせる行為」にあたるとされた。(1998年11月2日、最高裁)

愛知県青少年保護育成条例違反に問われた事例2007年5月23日、名古屋簡裁で飲食店副店長で妻子を持つ既婚男性が、アルバイト店員の女子高校生(当時17歳)と性的関係を持ったことで条例違反を問われたが、互いに恋愛感情を抱いていたことから「『淫行』に相当するというには相当な疑問が残る」として無罪判決が言い渡された。検察が控訴しなかったため確定。その後男性は賠償訴訟を国と愛知県相手に起こし、2010年2月5日に名古屋地裁は「2人は真剣に交際しており、被害届は男性側から金をもらえなかった親が主導して出していた。逮捕、起訴するだけの理由はなかった」として、被告双方に計200万円の支払いを命じた[6]。被告は控訴し、2011年4月14日に名古屋高裁は「真剣度の乏しい交際だった」「無罪判決が確定しただけでは違法にならない」と指摘し、原告の請求を棄却した[7]。原告の男性は上告したが、2012年3月28日に最高裁判所第2小法廷は2審判決を支持し、男性の敗訴が確定した[8]

各都道府県の淫行処罰規定[ソースを編集]

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この節には古い情報が掲載されています。編集の際に新しい情報を記事に反映させてください。反映後、このタグは除去してください。(2012年11月)

各条例の名称や制定年月日は青少年保護育成条例参照。

各都道府県の淫行処罰規定都道府県児童淫行に対する罰則児童に淫行を教示し、
またはそれを見せることに対する罰則
01/北海道2年以下の懲役または100万円以下の罰金1年以下の懲役または50万円以下の罰金
02/青森県2年以下の懲役または100万円以下の罰金6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金
03/岩手県1年以下の懲役または50万円以下の罰金30万円以下の罰金
04/宮城県2年以下の懲役または50万円以下の罰金30万円以下の罰金
05/秋田県1年以下の懲役または50万円以下の罰金20万円以下の罰金
06/山形県1年以下の懲役または50万円以下の罰金30万円以下の罰金
07/福島県6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金30万円以下の罰金
08/茨城県1年以下の懲役または50万円以下の罰金30万円以下の罰金または科料
09/栃木県1年以下の懲役または50万円以下の罰金同左
10/群馬県2年以下の懲役または100万円以下の罰金同左
11/埼玉県1年以下の懲役または50万円以下の罰金30万円以下の罰金
12/千葉県2年以下の懲役または100万円以下の罰金規定なし
13/東京都2年以下の懲役または100万円以下の罰金規定なし
14/神奈川県2年以下の懲役または100万円以下の罰金1年以下の懲役または50万円以下の罰金
15/新潟県2年以下の懲役または100万円以下の罰金6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金
16/富山県2年以下の懲役または100万円以下の罰金1年以下の懲役または50万円以下の罰金
17/石川県1年以下の懲役または50万円以下の罰金30万円以下の罰金
18/福井県2年以下の懲役または100万円以下の罰金1年以下の懲役または50万円以下の罰金
19/山梨県2年以下の懲役または100万円以下の罰金50万円以下の罰金
20/長野県2年以下の懲役または100万円以下の罰金規定あり・罰則なし
21/岐阜県2年以下の懲役または100万円以下の罰金同左
22/静岡県2年以下の懲役または50万円以下の罰金30万円以下の罰金
23/愛知県1年以下の懲役または50万円以下の罰金30万円以下の罰金
24/三重県2年以下の懲役または100万円以下の罰金10万円以下の罰金または科料
25/滋賀県6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金同左
26/京都府1年以下の懲役または50万円以下の罰金同左
27/大阪府6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金規定なし
28/兵庫県1年以下の懲役または50万円以下の罰金30万円以下の罰金または科料
29/奈良県2年以下の懲役または100万円以下の罰金30万円以下の罰金
30/和歌山県2年以下の懲役または100万円以下の罰金6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金


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