液体
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リンデマンは原子の振動の振幅が原子間距離のある割合に達したときに融解が始まるとした[25][26]

したがって液体と固体の基本的な違いは分子間力の大きさではなく、分子の振動の振幅だということになる。液相では分子の振動は極めて大きく、分子同士が衝突することも珍しくない。結果として、固体では固定されていた「平衡位置」が液体ではゆっくりと変化していき一定しない。分子の振動周波数は液体と固体で同じである。

Frenkel はまた、硬い弾性ネットワークにおける原子の静的平衡位置について熱運動の力学を考慮した。結晶の硬さは、原子が不変の平衡位置を占めているために熱運動が小振幅の振動にしかならないことによる。一方、液体では原子が恒久的な平衡位置を占めることはないため流動性が生じる。原子または分子の振動周期が適用された外力の時間的尺度にくらべて大きいとき、弾性変形が起きる。逆に振動周期が小さい場合、不可逆な塑性変形が起きる[27]

融点付近の単純液体および固体の高周波力学の研究において、振動周波数がゼロとなる条件を「熱力学的極限」 (υ → 0) と呼ぶ。融点付近での非弾性光散乱の研究では、十分に高い周波数の振動スペクトルは液体と固体で識別可能な差異が全く見られない。つまり、十分に短くかつ小さい範囲では、融解が起きても物質の力学においては断続的な変化が全く起きない。周波数が低いほど、液体と固体の振る舞いの差異は大きくなる[28]
会合

固体における原子/分子の拡散(または粒子変位)のメカニズムは、液体における粘性流と凝固の機構と密接に関連している。液体中の分子間の「自由空間」を使った粘度の説明は[29]、常温で液相となる分子同士の「会合」が見られる液体を説明するために修正されてきた。様々な分子が集まって分子会合を形成するとき、それまで分子が自由に動き回っていたある範囲の空間を半ば固体のような系で取り囲む。したがって冷却されると分子の多くが「会合」し、粘度が増す[30]

粘度は有限の圧縮率を持つ液体では体積の関数とみなすこともでき、同様の議論は粘度への圧力の効果を説明するのにも使える。したがって、圧力増加に伴って粘度も上昇することが予測される。さらに体積は熱によって膨張するが、同時に圧力を増加して体積を一定に保てば、粘度は一定となる。
構造緩和

原子が平衡状態から非平衡状態に遷移するのにかかる平均時間を緩和時間と呼び、マクスウェルの気体分子運動論で最初に言及された。最も単純化した単原子分子の液体の場合、構造緩和 (structural relaxation) とは、液体に圧力がかかってより高密度でコンパクトな分子配置になる場合、あるいは逆に圧力が弱まって低密度な分子配置に変化する場合といった局所構造の秩序の度合いが変化することを指す。相互配向の転位と再配分に関わるため、体積(あるいは圧力)が変化し始めてから局所構造が変化するまで一般に遅れが存在する。そういったプロセスには一定の賦活エネルギーが必要であり、有限の速度でしか進行しない。過冷却液体がガラス転移点付近で不可逆な塑性変形による粘性の緩和を起こすのもこれが原因である[31][32][33]
天体中の液体

地球太陽系において表面に液体の水を湛えた唯一の惑星であり、これがプレートテクトニクス大気中の二酸化炭素濃度調整、そして生命の存在を許容する特徴づけを行っている[34]。このように、液体の水が惑星表面に存在可能な恒星からの距離領域をハビタブルゾーンと言う[35]

火星の北半球にかつて液体の水が大量に存在したか否か、そしてどのような理由で現在の姿になったのは議論が分かれるところである。マーズ・エクスプロレーション・ローバーによる探査で見つかった扇状地状地形などから、火星には少なくとも地殻上に広く水が溜まった箇所が1つは存在することを突き止めたが、この規模については未だ分かっていない[36]金星表面からは河川跡のようなチャネル地形が発見されているが、これは粘度が低い液体の溶岩流が流れた跡である[37]木星中心にある岩石質の中心部にはまわりに広大な液体の大洋がある可能性を、ハーバード大学教授のカール・セーガンが示唆した。その体積は地球の海の620倍と試算した[38]

マントルと分離している充分な量の水やメタンなどの液体は、衛星であるタイタンエウロパカリストガニメデ等にも地下に存在すると考えられる[39]。同様に、イオにはマグマの海があると考えられる。液体の水が存在する決め手にはなっていないが、土星の衛星エンケラドゥスには間欠泉が見つかっている。その他の氷状衛星や太陽系外縁天体も内部に液体か、現在は氷結しているが過去には液体であった水を持っていた可能性がある[39]

太陽系外惑星では、グリーゼ581cがハビタブルゾーンにあると判明した。しかしながら、もし温室効果が過剰ならば、表面に液体の水を維持する以上の気温にある可能性は捨てられない。逆にグリーゼ581dは温室効果によって表面が液体の水を持ちうる温度まで引き上げられている可能性もある[40]。系外惑星オリシスも、その大気が水蒸気を含んでいるかが議論となっている。グリーゼ436bは、「高温の氷」が存在すると考えられている[41]。これらの惑星は液体の水を保持するには高温過ぎるが、そこに水の分子が存在するとすれば、他に適当な温度の惑星が発見される可能性がある[42]

惑星内部にも液体状の構造が存在する可能性が示唆される。地震波による測定から、地球半径の約半分程度の大きさを持つは、外側に液体の外核を持つことが分かった。これは溶融したニッケル硫黄が混ざり合った高密度流体であり、地磁気を発生させる原動力(ダイナモ効果)となっている[43]。同じ地球型惑星の中では、水星からも磁場が観測されており、これは逆に水星内部にも液体の核が存在する可能性が指摘されている[44]木星型惑星惑星の内部では、高い圧力によって金属水素が液体状になっていると考えられる[45]。天王星型惑星も内部にアンモニアやメタンが高温・高圧の環境下で凝縮液体となっており、これらの対流が惑星磁場を発生させる元となっている[46]
脚注[脚注の使い方]
注釈^ アイザック・アシモフ 著、小尾信彌、山高昭 訳「第一部 生物学 4.われわれの知らないようなやつ」『空想自然科学入門』(18刷)ハヤカワ文庫、1995年(原著1978年)、69-87頁。.mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}ISBN 4-15-050021-5。  ただしアシモフは、この定義は「われわれの知っている生命」すなわち地球の生命体が対象であるという。同項でアシモフは異なる温度や圧力下での生命に関する思考実験を行い、高温から低温にわたりフッ化珪素硫黄アンモニアメタン水素という物質がそれぞれ生命活動の環境になりうると言うが、それらは各温度域で液体であることを前提に置いている。


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