液体
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ここで、n(r) は距離 r における幅 Δr に存在する原子の平均個数、ρ は平均原子密度である[11]

g(r) は、回折実験とコンピュータシミュレーションの比較手段となっている。原子間ペアポテンシャル関数と組み合わせて使い、乱雑系の内部エネルギー、ギブスの自由エネルギー、エントロピー、エンタルピーといったマクロな熱力学的パラメータを計算することもできる。レナード-ジョーンズのモデル流体の動径分布関数

g と r の対応を示した典型的なグラフには次のような重要な特徴がある。
距離が短い部分(r が小さい)では、g(r) = 0 である。つまり原子自体に大きさがあるため、ある程度以上に原子同士が近づくことができないことを示している。

ピークがいくつか現れるが、距離が離れるとピークも小さくなっていく。このピークは原子が互いに近接する原子に取り囲まれていることを示す。距離が離れると1に漸近していくが、これはその液体の平均密度に対応している。

距離が離れるに従ってピークが徐々に小さくなるのは、中心の粒子から見た秩序の減少を示している。これは、液体やガラスに見られる「短距離秩序」を表している。

単純液体の動径分布の実験的検証はX線散乱などの手法を用いる。構造的干渉は半径 r の範囲内のピークに限られる。したがって、X線の干渉の条件が満たされたときだけ振幅の減衰したピークが現れる。結果として結晶面に対応したX線回折パターンに似た明暗の帯が周期的に配された結果が得られる[12]
力学
弾性波

一般に液体と固体の基本的違いとして、固体がせん断応力に対して弾性的抵抗を示すのに対して、液体はそうではないという点が挙げられる。したがって液体の分子運動縦波フォノン)に分解でき、横波は非常に秩序立った結晶質の固体でのみ現れる。すなわち、単純液体はせん断応力という形で加えられた力に耐えることができず、力学的にそれに降伏し巨視的には塑性変形(粘性流)を起こす。さらに言えば、固体せん断応力に対して局所的に変形するだけで全体の形が保たれるのに対して、液体はナビエ-ストークス方程式で表される粘性流となって大きく変形・流動する。この点が固体と液体の力学的な違いとされている[13]

しかし連続性についての観測によれば、横波は必ずしも固体のみで伝わるわけではなく、液体でも伝わると結論付けられる。通常の液体での実験でこの結論が確認できないのは、現代の音響学光学の技法(超音波レーザー)で得られる振動周期に対して液体中での横波の減衰が極めて素早く起きるためである。そのような条件下では、液体での横波は急激に減衰する。

それらの結論の検証には、単原子分子の液体やガラス分子動力学法のコンピュータシミュレーションが使われ、短い波長では液体が横波を伝播できることが確認された。この粘弾性の振る舞いは波数が増加するにつれて液体の剛性が重要な要素になるという事実と結びついている[14][15][16][17][18][19][20]

高周波の横波と縦波の減衰機構は、粘性の液体や重合体やガラスを考慮していた[21]。その後、広範囲の時間的・空間的スケールで観測される構造緩和スペクトルを使って粘性液体のガラス転移を解釈する新たな成果が生まれた。動的光散乱法(または光子相関法)を使った実験では、10?11秒という短い時間における分子の動きを研究できる。これは、周波数の範囲を 109 Hz かそれ以上に拡張したのと等価である[22][23]

したがって、横音響フォノン(横波)と硬化あるいはガラス化の開始には密接な関係があることがわかる。硬化が観測される波長の増大を考慮すると、その現象の周波数への依存性が明らかになる。

液体の熱運動を弾性波重ね合わせで表すという方法は Brillouin が最初に導入した。したがって凝集系の原子の動きは定常波フーリエ級数で表され、それらは物理的には様々な方向や波長の原子の振動(密度のゆらぎ)の縦波や横波の重ね合わせと解釈できる。音波の伝播という意味では、縦波すなわち粗密波の速度は物質の体積弾性係数に制限される。密度ρと体積弾性係数 K の比の平方根、すなわち√(K /ρ)は、縦フォノンの伝播速度と等しい。横波の場合密度は一定なので、伝播速度は剛性率によって制限される[24]

密度と剛性率 G の比の平方根は、横フォノンの速度に等しい。従って、波動の速度は次のようになる[要出典]: V long = K / ρ {\displaystyle V_{\text{long}}={\sqrt {K/\rho }}} V trans = G / ρ {\displaystyle V_{\text{trans}}={\sqrt {G/\rho }}}

ここでρは、粒子密度または比体積の逆数である。
分子振動

E.N. Andrade は、液体における構造変換(無拡散変態)の機構を研究した。彼は固体と液体の分子間力は極めて近いとし、リンデマンの融解則を引用した。それは、単純固体における固有振動の原子振動周波数の正確な値を求めることに成功している。リンデマンは原子の振動の振幅が原子間距離のある割合に達したときに融解が始まるとした[25][26]

したがって液体と固体の基本的な違いは分子間力の大きさではなく、分子の振動の振幅だということになる。液相では分子の振動は極めて大きく、分子同士が衝突することも珍しくない。結果として、固体では固定されていた「平衡位置」が液体ではゆっくりと変化していき一定しない。分子の振動周波数は液体と固体で同じである。

Frenkel はまた、硬い弾性ネットワークにおける原子の静的平衡位置について熱運動の力学を考慮した。結晶の硬さは、原子が不変の平衡位置を占めているために熱運動が小振幅の振動にしかならないことによる。一方、液体では原子が恒久的な平衡位置を占めることはないため流動性が生じる。原子または分子の振動周期が適用された外力の時間的尺度にくらべて大きいとき、弾性変形が起きる。逆に振動周期が小さい場合、不可逆な塑性変形が起きる[27]

融点付近の単純液体および固体の高周波力学の研究において、振動周波数がゼロとなる条件を「熱力学的極限」 (υ → 0) と呼ぶ。融点付近での非弾性光散乱の研究では、十分に高い周波数の振動スペクトルは液体と固体で識別可能な差異が全く見られない。つまり、十分に短くかつ小さい範囲では、融解が起きても物質の力学においては断続的な変化が全く起きない。周波数が低いほど、液体と固体の振る舞いの差異は大きくなる[28]
会合

固体における原子/分子の拡散(または粒子変位)のメカニズムは、液体における粘性流と凝固の機構と密接に関連している。液体中の分子間の「自由空間」を使った粘度の説明は[29]、常温で液相となる分子同士の「会合」が見られる液体を説明するために修正されてきた。様々な分子が集まって分子会合を形成するとき、それまで分子が自由に動き回っていたある範囲の空間を半ば固体のような系で取り囲む。したがって冷却されると分子の多くが「会合」し、粘度が増す[30]

粘度は有限の圧縮率を持つ液体では体積の関数とみなすこともでき、同様の議論は粘度への圧力の効果を説明するのにも使える。したがって、圧力増加に伴って粘度も上昇することが予測される。さらに体積は熱によって膨張するが、同時に圧力を増加して体積を一定に保てば、粘度は一定となる。
構造緩和

原子が平衡状態から非平衡状態に遷移するのにかかる平均時間を緩和時間と呼び、マクスウェルの気体分子運動論で最初に言及された。最も単純化した単原子分子の液体の場合、構造緩和 (structural relaxation) とは、液体に圧力がかかってより高密度でコンパクトな分子配置になる場合、あるいは逆に圧力が弱まって低密度な分子配置に変化する場合といった局所構造の秩序の度合いが変化することを指す。相互配向の転位と再配分に関わるため、体積(あるいは圧力)が変化し始めてから局所構造が変化するまで一般に遅れが存在する。そういったプロセスには一定の賦活エネルギーが必要であり、有限の速度でしか進行しない。過冷却液体がガラス転移点付近で不可逆な塑性変形による粘性の緩和を起こすのもこれが原因である[31][32][33]
天体中の液体

地球太陽系において表面に液体の水を湛えた唯一の惑星であり、これがプレートテクトニクス大気中の二酸化炭素濃度調整、そして生命の存在を許容する特徴づけを行っている[34]。このように、液体の水が惑星表面に存在可能な恒星からの距離領域をハビタブルゾーンと言う[35]


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