消化性潰瘍
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痛みは通常は潰瘍によって引き起こされるが、胃酸が潰瘍領域に接触すると、それにより悪化する可能性がある。消化性潰瘍によって引き起こされる痛みは、臍から胸骨までどこでも感じることができ、数分から数時間続く可能性があり、胃が空のときに悪化しうる。また夜間に痛みが燃え上がることもあるし、胃酸を緩衝する食品を食べたり、抗酸薬を服用したりすることで一時的に緩和できることもある[16]。しかし消化性潰瘍疾患の症状は、すべての患者に異なりうる[17]
要因

リスクファクターは主に胃粘膜保護の減少である防御因子の低下を助長するものであり、以下が知られている。
ヘリコバクター・ピロリ

ヘリコバクター・ピロリ(H. Pylori)保菌者が多く、比較的若年者に多い。H. Pyloriが胃前庭部に潜伏し始め、持続的にガストリン分泌刺激が促され胃酸分泌過多を生じることによって生じるとされている。十二指腸潰瘍は食前・空腹時に痛みが増悪することが知られているが、摂食刺激によってセクレチンが分泌されガストリン分泌が抑制され胃酸分泌が少なくなるためと考えられている。
NSAID詳細は「NSAID潰瘍」を参照

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs、non steroidal anti-inflammatory drugs)は鎮痛薬抗血小板剤として広く用いられCOX(シクロオキシゲナーゼ)という酵素を阻害する作用を有し、このうちCOX-1が阻害されることで胃粘膜防御因子のPGE2(プロスタグランジン)産生低下が生じ、潰瘍を生じやすい。COX-2のみを選択的に阻害するNSAIDsでは比較的生じにくい。
ストレス

ストレスはストレス潰瘍として、集中治療室での治療を必要とするなどの深刻な健康問題となりえており、消化性潰瘍の原因として認知されている[5]

かつては慢性的な生活上のストレスが潰瘍の主な原因であると考えられていたが、これはもはや事実ではない[18]。しかしいまだに、それは原因となっていると信じられている[18]。これはストレスは、胃の生理機能に影響をおよぼし、さらにH. pyloriやNSAIDの使用など、他のリスクファクターを高めることが十分に実証されているためであろう[19]
食生活

スパイスなどの食事要因は、20世紀後半まで潰瘍を引き起こすと仮定されていたが、現在は重要性が比較的低いことが示されている[20]カフェインコーヒーは、一般に潰瘍を引き起こすまたは悪化させると考えられているが、ほとんど効果がないと考えられている[21][22]。同様にアルコール摂取は、H. pylori感染者についてはリスクを増加させることが研究により判明しているが、単体でリスクを増加させるとは考えられていない。H. pylori感染と組み合わされた場合でも、その増加は主要な危険因子と比較してわずかであった[23][24]
その他

ステロイド
旧来よりステロイド(一般に糖質コルチコイド製剤)使用にて消化性潰瘍発症が高くなると言われていたが、近年のメタアナリシス報告で潰瘍発症の有意差は無いことが指摘され、ステロイドは消化性潰瘍のリスクファクターではないことが証明されてきた。
診断
鑑別疾患

胃炎

胃がん

胃食道逆流症

膵炎

ニクズク肝

胆嚢炎

胆石発作

心筋梗塞

関連痛 (胸膜炎心膜炎)

上腸間膜動脈症候群

血液検査

出血があれば貧血(Hb・RBC低下)が認められ、持続消耗性出血による小球性低色素性貧血(MCV低下)を呈してくる場合が多い。大量出血である場合には貧血があっても、MCV低下がみられないこともある。また活動期の出血の場合、胃内に蛋白成分が漏出し蛋白異化による尿素窒素(BUN)が高くなることでBUN/Cr比の上昇が認められ臨床的に出血兆候の指標として用いられる。
内視鏡検査胃前庭部の多発胃潰瘍。潰瘍表面を覆うのは「白苔」と呼ばれる壊死物質。

胃潰瘍・十二指腸潰瘍の診断・治療において上部消化管内視鏡が基本となってくる。他の消化管病変の精査・鑑別も含めて、一般的に広く行われる。同時に治療も行える利点がある。
消化管造影検査

いわゆる「胃透視(MDL)」は旧来より広く行われている。所見から消化性単純潰瘍が疑わしい場合に、精査として行われることはほとんどなく、上記の内視鏡検査が行われる。悪性腫瘍に付随する潰瘍病変である場合には、病変の位置や大きさが、上部消化管内視鏡検査よりも客観的に描出できるため、内視鏡検査の後であっても行われることが多い。
分類

胃潰瘍・十二指腸潰瘍ともに内視鏡所見から以下の分類を用いて評価することが多い。
崎田分類

潰瘍の治癒状態を分類したもの。1961年国立がんセンターア田隆夫(後に筑波大学教授)・大森皓次・三輪剛(後に東海大学教授)等が作成したもの。元々は内視鏡観察ではなく当時の主流である「胃透視画像(バリウム造影)」から提唱されたものであるが、内視鏡観察が広く行われるようになってきた現在でも広く用いられている。

活動期(active stage):潰瘍辺縁の浮腫像・厚い潰瘍白苔がある時期

A1:出血や血液の付着した潰瘍底はやや汚い白苔の状態 

A2:潰瘍底はきれいな厚い白苔の状態 潰瘍辺縁の浮腫像は改善してくる時期


治癒過程期(healing stage):潰瘍辺縁の浮腫像の消失・壁集中像・再生上皮の出現が見られてくる時期

H1:再生上皮が少し出現している(潰瘍の50%以下)

H2:再生上皮に多く覆われてきている(潰瘍の50%以上)


瘢痕期(scar stage):潰瘍白苔が消失した時期

S1:赤色瘢痕

S2:白色瘢痕


Forrest分類

潰瘍の出血状態を分類したもの。1974年にJohn Forrestが『ランセット』に発表したもの。現在は、Walter Heldweinによる下記改変版が広く用いられている。

Active bleeding(活動性出血)

Ia:Spurting bleed(噴出性出血)

Ib:Oozing bleed(漏出性出血)


Recent bleeding(最近の出血)

IIa:Non-bleeding visible vessel(出血の無い露出血管)

IIb:Adherent blood clot・Black base(凝血塊の付着・黒色潰瘍底)


No bleeding(出血無し)

III:Lesion without stigmata of recent bleeding(最近の出血所見の無い病変)


予防

NSAIDsを服用している(かつ心血管リスクが低い人)の消化性潰瘍疾患は、プロトンポンプ阻害薬(PPI)、H2ブロッカーミソプロストールの服用で予防できる[14]。COX-2阻害型のNSAIDにすることは、非選択性NSAIDと比較して潰瘍発生率を下げうる[14]。 PPIは消化性潰瘍予防において最もよく使用されている薬剤である[14]。H2ブロッカーはNSAIDs服用者の胃出血を予防できるという根拠はない[14]。ミソプロストールは消化性潰瘍予防に有効だが、一方で流産を促進し胃腸障害を引き起こすという特性から、その使用は限定されている[14]。心血管リスクが高い人には、ナプロキセンとPPIが有用である[14]。その他、低量のアスピリンセレコキシブ、PPIも使用可能である[14]
治療
緊急治療

出血病変・穿孔病変に対しては以下の緊急処置が行われる。

出血性胃潰瘍・十二指腸潰瘍
潰瘍からの出血兆候を認める場合、以下の
上部消化管内視鏡による内視鏡的止血術が行われる。

clip止血

局注止血

エピネフリン添加高張食塩水(HSE:hypertonic saline-epinephrine)

純エタノール


高周波凝固止血

APC(argon plasma coagulation)止血
稀に内視鏡的な止血困難な症例は腹部血管カテーテル検査によって出血血管の塞栓術(IVR)が施行されたり、または手術(胃切開+出血血管縫合止血術+潰瘍縫縮術)が施行される場合もある。


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