活動電位
[Wikipedia|▼Menu]
(図示したI/Vカーブはチャネルが不活性化していない状態で電圧を加えたときの瞬間的な電流を示している)

図において、着目すべき点は矢印にて示されている。
緑の矢印は静止電位を示す。仮想細胞系においてはK+の平衡電位(Ek)と一致し、K+チャネルが開口しても電位はEkのままである。

黄色の矢印はNa+の平衡電位(ENa)を示す。仮想細胞系においては、ENaはK+チャネルが閉じているときに達しえる最大膜電位である。ENaを越える電圧は人工的に加えて電流を計測している。

青の矢印は活動電位のピークが達しえる最大電位である。この電位が事実上の最大膜電位である。K+電流が存在するためENaにはたどり着けない。

赤の矢印は活動電位の閾値を示す。この電位以下では電流は外向きであり、細胞は静止電位へと戻ってしまう。この電位を少しでも越えると電流は内向きになり、細胞を脱分極させる。緑の線が最も低い値をとるところが、すべてのNa+チャネルが開く電位である。

活動電位の閾値はよくNa+チャネルが開口する「閾値」と混同される。これは正しくなく、Na+チャネルに明確な「閾値」は存在しない。そうではなく、開口は確率的なものであり、過分極のときでさえ、時折、開口するNa+チャネルがありえる。また、活動電位の閾値はNa+電流がK+電流を上回る電位を指し、Na+電流が有意な大きさとなる電位とは異なる。

神経細胞の脱分極は、生物学的には通常シナプスの樹状突起に起因する。しかし、原理的には活動電位は神経線維のどこからでも生じえる。
回路モデルA. 二重膜の図の上に描かれた単純なRC回路は、このイオンチャネルと脂質膜の関係を示している。
B. より入念な回路を描くことによって、Na+チャネル(青)、K+チャネル(緑)を含む膜のモデルを示すこともできる。

生体膜における活動電位の伝達の仕組みは、イオンチャネルを持つ細胞膜をRC回路とみなすことでより深く理解できる。この回路において、イオンチャネルは抵抗、絶縁体である脂質膜はコンデンサーとして表される。電圧によって抵抗が変わる電位依存性イオンチャネルは可変抵抗であり、K+漏洩チャネルは通常の抵抗として表現される。膜間におけるNa+とK+の濃度差は電源(電池)とみなせる。また、軸索方向への神経伝達を妨げる要因も抵抗として表現される。
伝導活動電位の伝達はいくつかのRC回路をつないだものとみなせる。それぞれのRC回路は膜上のある小さい区域を表現している。

まず、無髄線維における活動電位の伝導について説明する。活動電位は脱分極と電位依存性Na+チャネルの開口を繰り返すことで伝導する。ある区域において脱分極により電位依存性Na+チャネルが開くと、Na+は促進拡散により細胞内へ流入する。流入した陽電荷を持つNa+は静電気的反発によって付近の陽イオンを周りへ押しやり、同時に付近の陰イオンをひきつける。その結果、陽電荷の波、すなわち脱分極の波が生じ、イオン自身の移動を経ることなしに遠くまで伝わることとなる。そして近傍の区域において十分脱分極がおこると、その区域にあるチャネルが開く。この過程が繰り返されることで、活動電位が軸索上を伝導する。
速度

活動電位は、太さ以外の条件が同じであるとき、より太い軸索上でより速く伝導する。神経伝達を妨げる主な原因は電位差のために細胞内側の膜上に集まった陰イオンであり、直径が大きいと膜から離れた部分、つまりマイナスに帯電していない領域が増えるため、脱分極の波が速く伝わる。

イカは伝導速度の向上のため、直径を太くした巨大軸索 (Giant axon) を持っている。特にアメリカオオアカイカの巨大軸索は直径が1mm以上もある[1]。だがこれらは無髄線維であるため、細い有髄線維と比べて伝達速度はあまり変わらない。

哺乳類においては、自律神経系の交感神経の節後神経は無髄線維である。直径2μmの無髄線維はおよそ1m/sの伝達速度を示す。これに対し、同じ直径を持つ有髄線維はおよそ18m/sの速度をもつ。
跳躍伝導

有髄線維においては、活動電位が髄鞘 (ミエリン)で絶縁された部分を「飛び越える」、跳躍伝導という現象がある。有髄線維において、髄鞘のまかれていない部分をランヴィエ絞輪と呼ぶ。髄鞘の存在によって、直径を巨大化させずとも伝導速度を速くすることができる。跳躍伝導という名前のためによく誤解されるが、活動電位が「跳躍」すること自体は髄鞘が巻かれていることによる「現象」であり、跳躍伝導が速い原因ではない。

跳躍伝導は、生命が大きく複雑化するという進化の過程において、より遠くにより速く神経伝達を行うために重要な役割を果たした。もし跳躍伝導がなければ、伝導速度を上げるためには軸索の直径を大きくするしかなく、神経系の体の中で占める割合は極めて大きなものとなっていたであろう。

跳躍伝導のメカニズムは、1939年田崎一二博士により発見された。
跳躍伝導のメカニズム
伝導を妨げる主な原因は膜上に存在する電荷である。コンデンサーの蓄える電荷は、二枚の板の間の距離を遠くすると減少する。神経系は、細胞に髄鞘を巻くことによって絶縁部分を太くし、膜上に存在する電荷の減少を図っている。その結果、髄鞘のある部位における伝導速度は格段に向上する。しかし同時にこの部位では、髄鞘があるために電位依存性チャネルが存在できず、活動電位の再生は妨げられる。よって、髄鞘のまかれていないランヴィエ絞輪においてのみ活動電位が再生される。ランヴィエ絞輪では電位依存性Na+チャネルが豊富に存在するので(無髄線維における密度より4桁ほど多い)、効率的に活動電位を再生することが出来るようになっている。
損傷への対応
髄鞘の巻かれている部分の長さは跳躍伝導にとって重要である。速い伝導を行うためには、この長さは長ければ長いほど良いが、長すぎると信号の波が減衰しすぎて次のランヴィエ絞輪のチャネルの閾値を越えることが出来なくなる。現実には、髄鞘の巻かれている部分の長さは、信号が最低でも二つ先のランヴィエ絞輪までたどり着けるのに十分な長さをもつ。そのようにして、あるランヴィエ絞輪の部分が損傷などの原因により活動電位が起こせなくなっていたとしても、そのひとつ先のランヴィエ絞輪まで信号を伝えることが出来る。
疾患との関わり
いくつかの病気は跳躍伝導を妨げ、伝導速度を低下させる。これらの病気のうち最もよく知られたものとして、脱髄疾患の一種である多発性硬化症がある。
不応期

不応期はNa+チャネルが不活性化状態となっているために生じ、便宜上、絶対不応期と相対不応期にわけられる。

絶対不応期はいかに電位が変化しようとも活動電位が発生しない期間をいう。これはほとんどすべてのNa+チャネルが不活性化状態となっているためである。

相対不応期(絶対不応期の次にくる)は、強い刺激を与えれば活動電位の発生がおこる期間をいう。活動電位が発生しづらくなっている原因は二つである。一つ目の原因として、細胞がまだわずかに過分極の状態にあることがあげられる。これは、K+の透過性が静止状態のときと比べ大きなままであるためである。このため、閾値に達するためにより大きな電位変化が必要となる。もう一つの原因は閾値自体の上昇にある。これは、いくつかのNa+チャネルがいまだに不活性であるためである。

よく誤解されるが、Na+/K+ポンプは電位の変化には寄与しない。Na+/K+ポンプは濃度勾配を維持することにより静止電位の維持に寄与する、ということはできるのだが、チャネルと比べるとタイムスケールが長く、電位変化に関わる透過性への影響はチャネルと比べると無視できる程度に小さい。
電位依存性Na+チャネル
電位依存性Na+チャネルは2つのゲートを持つ。Na+はこの2つのゲートが共に開いて初めて細胞内への流入が可能となる。ゲートの一つは細胞膜の電位に反応して開く細胞質外ゲート(電位依存性ゲート)で、膜が脱分極している間は開き続ける。もう一つの細胞質内ゲート(不活性化ゲート)は通常開いているが、電位依存性ゲートが開くとすぐに閉じてしまう。不活性化ゲートが再び開くのは時間依存的であり、確率的なものである。不活性化ゲートが閉じている間はチャネルが不活性化していると呼ばれ、不応期を生じる主な原因となっている。
進化的意図

この節の加筆が望まれています。

植物の活動電位

この節の加筆が望まれています。

脚注[脚注の使い方]^ Squid As Experimental Animals, p. 102, - Google ブックス

参考文献

この節の加筆が望まれています。

関連項目.mw-parser-output .side-box{margin:4px 0;box-sizing:border-box;border:1px solid #aaa;font-size:88%;line-height:1.25em;background-color:#f9f9f9;display:flow-root}.mw-parser-output .side-box-abovebelow,.mw-parser-output .side-box-text{padding:0.25em 0.9em}.mw-parser-output .side-box-image{padding:2px 0 2px 0.9em;text-align:center}.mw-parser-output .side-box-imageright{padding:2px 0.9em 2px 0;text-align:center}@media(min-width:500px){.mw-parser-output .side-box-flex{display:flex;align-items:center}.mw-parser-output .side-box-text{flex:1}}@media(min-width:720px){.mw-parser-output .side-box{width:238px}.mw-parser-output .side-box-right{clear:right;float:right;margin-left:1em}.mw-parser-output .side-box-left{margin-right:1em}}ウィキメディア・コモンズには、活動電位に関連するカテゴリがあります。

脳波 - 心電図 - 筋電図

神経細胞 - イオンチャネル - パッチクランプ法

膜電位

外部リンク

神経細胞とシグナル伝達
(ビジュアル生理学 内の項目)

Action potential propagation Animation

Electrochemistry of plant life, from Case Western Reserve University

Demonstration of ion flow during action potential

Open-source software to simulate neuronal and cardiac action potentials

Nernst/Goldman Equation Simulator

The Nernst Equation and Action Potentials in the Nervous System from ⇒www.medicalcomputing.net

Electrophysiology and The Molecular Basis of Excitability










電気生理学
計測対象

膜電位

活動電位

計測手法

(古典的)電気生理学

パッチクランプ法

ボルテージ・クランプ法

光学的 電気生理学

光遺伝学

膜電位イメージング

膜電位感受性色素


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:32 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef