決定論
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古典力学は決定論的な理論であり、初期状態が決まれば、その後の物質の運動は物理法則に従って計算できる。もし世の中の全ての物質の位置や力を知ることができ、その全ての時間発展を計算することのできる知性があれば、未来の全ての状態を知ることができる(ラプラスの悪魔)。古典物理学が正しければ、未来ははるか昔からただ1通りに決まっている。
量子論と多世界解釈

量子力学の標準的なコペンハーゲン解釈では、観測により複数の状態のどれかが確率的に選ばれ、その他の可能性は実現しない。そのため量子論は因果決定論ではなく確率的な非決定論である。しかし多世界解釈をとることで量子論は決定論となる。多世界解釈ではシュレディンガー方程式の時間発展で予測される世界の状態は全て実現し、実在すると考える。多粒子のマクロな相互作用により各状態は干渉性を喪失し、互いに関わり合わない別の世界として分岐するが、どれか1つの状態だけが実現するのではなく、全ての状態が平行して存続する。シュレディンガー方程式で分岐する各世界の全てが決定されるので、多世界解釈は決定論となる。

その場合、心身二元論をとらずに量子論で閉じた理論とするならば、人間の意識は物質の相互作用によって生じ(随伴現象としての意識)、さらに物質(脳)の状態に応じて分岐した各世界で異なる意識をもち、人間の脳を含めた各世界の全ての状態はシュレディンガー方程式によって初期条件から決定される。

量子力学を拡張した場の量子論においても多世界解釈は同様に成立し[6]、まだ未完成であるが量子重力理論でも成立する[7][8]
生まれと育ちの決定論

遺伝決定論(または生物学的決定論)は、人間の能力や性格は遺伝によって決定されていると考え、逆に環境決定論では遺伝以外の環境によって決定されると考える。遺伝決定論は遺伝学が未発達だった20世紀初頭に支持を集めた[9]。科学的理解が深まるにつれ、遺伝と環境のどちらもが人間の発達に影響すると考えられるようになった[注 2]遺伝率の概念が、遺伝と環境の影響の大きさを見積もるのに使われる。

環境決定論の下位分類に以下のものがある。

行動主義は、条件付けなど環境要因を重視する。行動主義心理学者のスキナーは環境重視の立場から自由意志否定論をとった。

文化決定論は、個人の思考や行動様式が所属する文化によって決定されるとする考え。

無意識と脳による決定論

脳科学の発展により、脳には専門化した複数のモジュールがあり、脳内で意識を担当するモジュールと、判断や行動を担当するモジュールは異なっていると考えられるようになった[10]マイケル・ガザニガは、意識を司るモジュールは他のモジュールが無意識下で行った判断を、後付けの理由をつけて、辻褄合わせをしていると考えた[11]。人間の判断や行動は、意識とは関わりの少ないモジュールにより決定される。その傍証として、脳内の無意識の活動が、意識的な活動よりも先に生じるというベンジャミン・リベットの実験がある。また理由づけの極端な例として、分離脳患者や脳に障害を負った人による作話(でっち上げの理由による辻褄合わせ)がある。

意識を司るモジュールに対して、ガザニガはインタープリター(解釈者)・モジュールと名づけ、ダニエル・デネットやロバート・クルツバンは報道官モジュールと呼んだ。これは脳のなかで重要な決定をするのが大統領だとすれば、意識の役割というのは、大統領にほとんど接することがない報道官が、大統領の決定を説明するようなものである、との例えである[11]。この考えによれば、意識は脳の活動に伴う随伴現象であり、自由意志は存在しないか、その役割はかなり限定され、意識的な行動で外部に影響を与えているという感覚は(少なくとも大部分は)錯覚にすぎない。

人間の思考や行動が無意識により支配されているという考えは、これとは別に19世紀末からフロイトによって広められ、一時は大きな影響力をもったが、フロイトの説明は科学的には認められていない。
ヘーゲル・マルクスの歴史決定論「マルクス主義批判」も参照

哲学者のカール・ポパーは、ヘーゲルカール・マルクスなどの思想を、歴史に単一の一元的な計画があり、歴史に必然性があるとする歴史決定論(Historicism)、「歴史法則主義」であると批判する[12][13]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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