水泳
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ハーバード大学医学部によると、通常、子どもは4歳まで水泳能力を獲得するための認知能力を持たないので、注意が必要であるとしている[12]
欧州での水泳教育

ドイツオーストリアでは、子どもの約90%に「初歩泳者」(Fruhschwimmer)資格を取らせることを目的とした小学校のカリキュラムがある。教育大臣によって設定された目標は95%であり、実際のパーセンテージは一部の学校で75%と低い。この資格を定めたのは、オーストリアでは民間組織と政府機関の共同委員会であるオーストリア水救助作業委員会(Arbeitsgemeinschaft Osterreichisches Wasserrettungswesen)である。次のレベル1の 「自由泳者」(Freischwimmer)は、15分間の自由形、1mの高さからの飛び込み、および水泳のルール10項の習得を必要とする。レベル3「日常泳者」(Allroundswimmer)は、クロールと背泳ぎ各100メートルのメドレー、100メートル自由形2分30秒未満、水平潜水10メートル、2.5キログラムの重りをつけての垂直潜水2メートル(厚い物体を拾う)、背泳ぎ50メートル、同程度の体重の人との20メートルの救助泳(英語版)、水泳のルール10項の習得を必要とする。ドイツでは「水泳記章」(Schwimmabzeichen)は初歩、銅、銀、金の4つのレベルに分かれる。「初歩泳者」の水泳テストでは、飛込、25メートル自由形、水面下のものの拾得を行う。銀バッジでは、400メートル自由形12分以内、2メートル以上の垂直潜水(物体を拾う)、飛込、10メートルの水平潜水が必要である。ライフガード証明書は、組織ごとに別々に制定されている。初歩レベルは、世界最大の水難救命機関のドイツ救命協会(ドイツ語版)DLRGでは下級救助者(Junior-Retter)、ドイツ赤十字の水難救助分社である水守衛社では下級水救助者(Juniorwasserretter)に相当する。

スイスでは 「水泳試験」(Schwimmtests)は技能横断的な構成になっていない。各能力は単独でテストされ、複数のテスト証明書がグループを成す。基本レベル・グループなら「カニ」(Krebs)、「カワウソ」(Seepferd)、「カエル」(Frosch)、「ペンギン」(Pinguin)、「鳥類」(Tintenfisch)、「ワニ」(Krokodil)、「北極熊」(Eisbar)の7種の試験がある。

スウェーデンデンマークノルウェーフィンランドでは、5年生(11歳)で、すべての子供が泳ぐ方法と水の近くで緊急事態に対処する方法を学ぶべきだと定めている。オランダベルギーでは、水泳の授業を政府が支援している。フランスでは、小学校2-3年生・4-6歳の体育で水泳が行われる。英国には、11歳までに泳げない児童を対象に、集中的な毎日のレッスンを受けるよう求める「トップアップ制度」がある。スコットランドでは、8-9歳の生徒が水泳の授業を受ける。一般に、STA(水泳教師協会)またはASA(アマチュアスイミングアソシエーション)の2方式の制度に従い、優秀カリキュラムには泳げる距離についての定めがない。
日本での水泳教育

日本赤十字社が、安全に水と親しみ、事故を防止しつつ泳ぎの基本や身を守る方法を習得するため、また水の事故に遭った場合の救助法・手当法なども習得するための講習を行っている[13]。救助員Iと救助員IIの講習がある[13]

日本では、9年間の義務教育課程である小学校および中学校で、水泳教育が適切な水泳場を確保できない場合を除き必修化され「体育」の授業で水泳が行われている[14](なお小学校低学年では「水遊び」と呼ばれる)。1960年代から文部省が、プールや体育館などの体育設備の設置に補助金を支出したことにより、プールの設置が進んだ[15]。夏休みにプール指導が行われている学校も多い。なお2012年度以降、学習指導要領は小中学校の授業での飛び込みの指導を禁止している。学校や地域によっては、水難事故に備えた着衣水泳なども行われている。日本泳法古式泳法の伝承、海での遠泳寒中水泳などを教育訓練の一環として行っている学校もある。また、水泳授業以外でも学校主催の旅行や自然学校、林間学校で海や川などでの体験学習として楽しむ水泳なども学校管理下や自治体の主催で幅広く行われている。この他、自衛隊員消防隊員などの特定職では一定上の水泳の能力を得られる教育を行っている[16]

水難から身を守り、総合的な身体能力を養うために、幼少時から水泳を習うことは非常に効果的であり、またスポーツ少年団より手軽で保護者負担がないことから、水泳は習い事としても人気である。2015年の調査では37.9%の子供が学校以外にスイミングスクールなどで習い事として水泳を学んでいる[17]。また成人しても、数多く開設されているスイミングスクールフィットネスクラブ、公営のプールなどで日常的に水泳を行う者も青年・中高年層を問わず多い[18]。スイミングスクールやスポーツクラブでは水泳の習得や身体トレーニングのためだけではなく、水泳(特に競泳)の有力選手を輩出する大きな役割を担っているが、各施設での指導カリキュラム・レベル認定は統一されていない。

学校に設置された25m屋外プールの建設費用は、概算で1億円[19][20][21]。25mプール(422立方メートル)を一回満水にする必要な水道料金は約27万円。学校に於ける屋外プール設置総数は2万8千箇所(2007年時)となっている[22]。プールが無い場合や気象条件により十分な授業時間が確保できない場合は通年で利用可能な専用施設を借りて授業を行うことがある[23]。近年では、学校生徒だけでなく一般市民も利用可能な学校内プールもある。
安全性
詳細は「プール#安全性」を参照
シンガポールでの水泳教育

シンガポールでは、ほとんどの水泳学校が、新加坡体育理事会の支援を得て、2010年7月に新加坡國家水安全理事會によって導入された「游泳安全計劃」を教え、子供たちに泳ぐ方法と水中での安全の保ち方を学ばせる。子供はまた、水の安全性一般、プールの入り方、水中を前後に移動する方法についても学ぶことができる。「游泳安全階段3:個人水生存和中風發展技能」では子供たちは水中で生き残る方法と、さまざまな救助技術の扱い方を学び、100メートル泳ぐ。課程の最後は「游泳安全?金:高級個人水生存和游泳技能熟練」である。
米国での水泳教育

米国の疾病予防管理センターでは、溺死を防ぐための予防措置を講じたうえで、1-4歳の子供たちに水泳を習うことを勧めている[24]ライフガード証明書はアメリカ赤十字が直接主催するコースで取得する。

米国では、ほとんどのスイミングスクールで、アメリカ赤十字社が定義したスイミングレベル「泳ぐことを学ぶ」を使用している。

レベル1:水技の紹介

水慣れ。バタ足、ボビング、水中探検、伏し浮き・背浮き、水中での開眼を行う。ビート板、腕用の浮き輪を補助具として使用する場合が多い。


レベル2:基礎的水泳技能

クロール・背泳ぎで15フィート(4.6m)泳ぎ、潜水して物を取る。


レベル3:泳ぎの基礎

クロール・背泳ぎで15ヤード(14m)泳ぎ、深い水に飛び込む。


レベル4:泳ぎの開発

25ヤード(23m)のクロール・背泳ぎ、15ヤード(14m)のバタフライと平泳ぎを行う。ターンも認められる。


レベル5:泳ぎの洗練

すべての泳ぎで25ヤード(23m)泳ぐ。フリップターンは潜行距離が15ヤード(14m)以下ならば認められる。


レベル6:泳ぎの熟達

クロール・背泳ぎ100ヤード(91.4m)、バタフライ、背泳ぎ、平泳ぎ、横泳ぎ50ヤード(46m)の、計500ヤード(457米)を連続で泳ぐ


カナダでの水泳教育

カナダでは、毎年100万人以上がカナダ赤十字水泳プログラムに参加している。生徒がプログラムを進め、経験を積むにつれて、深い水で泳ぐために学んだテクニックを身に付け、水泳中も安全であるという自信を高めるようになっている。より速いペースで同じ仕組みの追加プログラムが、安全に水泳する方法を学び自信を深めたい10代の人や大人に向け用意されている[25]

以上のような国別の教育のほか、ウォータースポーツ類の多くが水泳を基本的技術として含んでおり、そうしたスポーツのレッスン・講習では泳ぎ方も教えられる。たとえばライフセービングサーフィンスキューバダイビングフィンスイミングは基本技術として水泳を含んでおり、それぞれの泳ぎ方のレッスンが行われる。
泳法犬掻き。原初的な泳法であり、四脚動物の多くがこれを行う。人間でも水泳をまだ習ったことがない人やまだ習いたての段階では、とっさに、自然とこの泳法になることがある。

水泳を効率よく行うために、さまざまな泳法が存在する。競泳において用いられるものは、クロール・平泳ぎ・背泳ぎ・バタフライの4つの泳法であるが、日本泳法のようにこれらに属さない泳法も存在する[26]。日本泳法をはじめ、世界各地に独自の伝統泳法が存在し、南アメリカの伝統泳法から抜き手が、オーストラリアの伝統泳法からバタ足が導入されたように、伝統泳法から近代泳法への技術導入がなされることもある[27]。また、初心者はしばしば犬掻きを行う[28]

4泳法のなかで最も古いものは、紀元前3000年頃の古代エジプトですでに近いものが成立していたクロールであるとされるが[29]、近代西欧世界においては平泳ぎが主流の泳法となっており、やがてその派生として横泳ぎも成立した[30]


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