気管支喘息
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小児喘息は成長とともに寛解する場合が多いが、成人喘息に移行する場合もある。小児期に喘鳴が認められる場合はウイルス感染、アレルギー、異物の可能性がある。重要な鑑別疾患としてはRSウイルスによる細気管支炎があるが、細気管支炎では一日中喘鳴が聴取されるが、気管支喘息はヒューヒュー、あるいはゼイゼイとした喘鳴が夜間に多い。小児喘息の診断には、他疾患の除外が必要である。2歳から3歳のころ頻繁に喘鳴を繰り返す幼児は小児喘息に移行するリスクが高いと考えられている。
major criteria

医師によって診断された両親いずれかの喘息の既往。

医師によって診断されたアトピー性皮膚炎

minor criteria

医師によって診断されたアレルギー性鼻炎。

上気道感染と関連しない喘鳴。

4%以上の好酸球の増加

major criteriaひとつまたはminor criteria2つで小児喘息の確率は76%である。逆に満たさなければ5%の確率となる。

小児喘息のガイドラインとしてはJPGL2005が知られている。春先や秋口などが発作の好発時期である。3歳から5歳の発症が多い。β2刺激薬の吸入とステロイドの全身投与が基本となる。アミノフィリンは嘔吐といった副作用をはじめ、血中濃度の調整が難しく、安全性、簡便性を考慮すると消極的になる。吸入は吸入器(定量噴露吸入器とドライパウダー吸入器)とネブライザーによる吸入が知られている。吸入薬の量は小児であろうが成人であろうが変化がないのが一般的である。これは成長するほど上手に吸入できる傾向があるため、末梢気道に達する薬物量が増えるためである。ネブライザー治療に影響を与える因子としては呼吸パターン、口呼吸か鼻呼吸か、気道狭窄病変の程度、人工気道の存在などがあげられている。

小児喘息の治療の目標とは軽いスポーツを含め、日常生活を普通に行うこと、昼夜を通じて症状がないこと、β2刺激薬の頓用の減少、学校の欠席の防止、肺機能障害の予防、PEFの安定化とされている。

小児分野では年齢により薬剤の選択も異なり専門性の高い分野であるがJPGLにてかつてよりは簡略化されている。大まかに述べると2歳未満の乳児喘息、2歳から5歳、6歳から15歳という区分で分けられている。アトピー性が多いためDSCGを積極的に使うこと、吸入技術の問題で吸入ステロイドの適応が若干異なる。ラーメンやうどんが食べられるようならば、原理的には吸入は可能であり、吸入をサポートするスペーサーも各種販売されている。

乳児喘息では中等度でも専門医の下で治療を行うこと、2歳から5歳では軽症持続型の段階ではICSは考慮に過ぎない、6歳以上では軽症持続型以上ならばICSが原則となるといった差がある。

日本で増加する小児喘息に関しても、安全かつ有効な標準化ダニアレルゲンを用いた減感作療法をすることで、小児喘息患者の肺機能の改善,成長,維持を助けて健康な成人を育てることが厚生医療行政の急務であると主張している医師もいる。
咳喘息 (cough variant asthma)

咳喘息は厳密には喘息とは異なる疾患として扱われる。喘息と同様気道に炎症が起こり、気道が狭くなることで咳が出る。主な特徴は[19][20]

喘息特有の喘鳴は無い

呼吸困難も無い

たんの無い乾いた咳が8週間以上続く(慢性咳嗽)

夜?明け方、季節の変わり目に悪化する

一般的な風邪薬や咳止めは効果が無く、気管支喘息で用いる気管支拡張薬、吸入ステロイド薬の吸入(後述)が有効とされる。症状は、慢性(8週間以上)に発作性の咳が持続することが特徴的である。交感神経β2受容体作動薬(β2刺激剤)の吸入により臨床症状が改善するため、治療的診断として有用である。典型的な喘息と異なり、通常、胸部聴診にて狭窄音は聴取されず、閉塞性換気障害や気道可逆性等、異常所見が認められないため、確定診断に難渋し、ドクターショッピングを引き起こすことも多い。喘息と同様の病態(慢性の気道炎症、気道過敏性の亢進等)が基盤にあることが判明しており、これらの評価が可能な専門医療機関等を受診することが望まれる。通常、咳喘息における気道炎症や気道過敏性亢進の程度は、喘息に比し軽微であることから、喘息の前段階として認識されることもあり、軽症喘息におけるコントローラーに準じた定期的薬物療法が導入されることが多いが、重症の咳喘息症例も存在し、重症喘息と同等の治療を要することもある。咳喘息を無治療で放置すると、約3割が典型的な喘息に移行するとされる。

気管支喘息治療薬は「長期管理薬」(コントローラー)と「発作治療薬」(リリーバー)に大別される。発作が起きないように予防的に長期管理薬を使用し、急性発作が起きた時に発作治療薬で発作を止める。発作治療薬を使う頻度が多いほど喘息の状態は悪いと考えられ、長期管理薬をいかに用いて発作治療薬の使用量を抑えるかということが治療の一つの目標となる。

長期管理薬では吸入ステロイド薬が最も重要な基本薬剤であり、これにより気管支喘息の本体である気道の炎症を抑えることが気管支喘息治療の根幹である。重症度に応じて吸入ステロイドの増量、経口ステロイド、長時間作動型β2刺激薬(吸入薬・貼り薬)、抗アレルギー薬、抗コリン剤などを併用する。長期管理薬を使用しても発作が起こった場合は、発作治療薬を使用する。発作治療薬には短時間作動型β2刺激薬、ステロイド剤の点滴などが使われる。

1997年、β2刺激薬であるベロテックエロゾル(臭化水素酸フェノテロール)の乱用による死亡者増加が日本において大きな問題となった。これはβ2刺激薬の副作用によるものとは言えず、β2刺激薬の吸入により一時的に症状が改善するために大発作に至る発作でも病院の受診が遅れたことが主因と考えられている。
アスピリン喘息

喘息患者の何割かが獲得するアセチルサリチル酸(アスピリン)などの非ステロイド系抗炎症薬 (NSAIDs)、特にシクロオキシゲナーゼ阻害薬(主にCOX1阻害薬)に対する過敏体質であり、アレルギーによるものではない。NSAIDsの服用から数分から1時間後に鼻汁過多、鼻閉、喘息発作が起こる。このように症状が、上気道、下気道に及ぶことから、近年、non-steroidal anti-inflammatory drugs exacerbated respiratory disease (NERD) と呼称されるようになった。成人女性に好発し、小児では稀である。

アトピー型、非アトピー型喘息患者のいずれにおいても認められ、中等症以上の症例が多く、急性増悪時には、しばしば、重度の呼吸器症状をきたす。病歴から診断可能な例もあるが、確定診断のためにアスピリン負荷試験を要することが少なくない。成人喘息患者の約21%は誘発試験でアスピリン喘息を起こしたとの報告がある[21]

COX1阻害によるプロスタグランジンの阻害とそれに伴うロイコトリエン (LT) 代謝経路に傾くことによる代謝異常が病態の基盤にあるため、COX2阻害薬投与においては発生率が低下する。しかし、COX2阻害薬も他のNSAIDsと同様、添付文書上、喘息患者には禁忌とされている。

病態の特徴の一つにロイコトリエンの過剰産生があり、そのためロイコトリエン拮抗薬が用いられることが多い。好酸球性副鼻腔炎の合併率が極めて高く、鼻茸や嗅覚低下を合併することが多い。他臓器の好酸球性疾患の合併もみられる。

アスピリン喘息の急性増悪ではコハク酸エステル型ステロイド(コハク酸ヒドロコルチゾン(ソル・コーテフTM)(英語版)、ソル・メドロール、水溶性プレドニンなど)の急速静注は喘息の増悪を誘発することがある(ステロイド自体やコハク酸残基が誘因になった報告があり、リン酸塩は安全とされる。溶解液中安定剤パラベンはしばしば誘因になる)。1時間以上かけて点滴を行えば比較的安全とされている。リン酸エステル型ステロイド薬(デカドロン、リンデロン、ハイドロコートンなど)を1時間以上かけて点滴投与する。

おおよそ気管支喘息の10%がアスピリン喘息(アスピリン不耐症)とも言われ、総ての酸性NSAIDsは原則禁である。アセトアミノフェンやCOX2阻害剤は比較的安心とも言うが原則禁で基本は冷罨法である。アセトアミノフェンは少量ならば使用可能とする意見もある。塩基性NSAIDs(ソランタールR等)葛根湯、地竜は使用可能とされる。症状発現の程度は様々で数分でショック状態に陥る強い発作もあれば風邪がダラダラ長引いて治らないと訴える場合もある。またその使用時に常に症状発現するとは限らないことが診断を難しくしている。NSAIDsやβブロッカーの点眼液でも発作が出現することもある。
運動誘発性喘息

健常者では運動によって気道の径が変化することはないが、喘息患者の場合は運動によって気管収縮が誘発される。特に、運動によって臨床的な症状が出現する場合を運動誘発性喘息という。運動が刺激因子となり、肥満細胞からのロイコトリエン産生が増加する病態が基盤にあるため、ロイコトリエン拮抗薬が効果的である。インタール吸入にもその誘発予防効果がある。
病態生理学

臨床医にとっては、いくつかの呼吸器症状が喘息と診断するための情報となるが、これらの臨床症状は必ずしも喘息のみに特異的ではない。発作性の喘鳴、、息切れ、胸部の圧迫感(時間により程度が変化し、気管支拡張薬にて改善する)などが喘息を疑う所見としている。

病理学者は組織学的に定義を行っており、好酸球の浸潤や気道壁の肥厚、リモデリングによって特徴づけられる持続性の炎症と喘鳴としている。

生理学者は機序によってその都度定義を行っており、多くの異なる刺激に反応して、過剰な気管支平滑筋収縮を引き起こす気道過敏性の状態を気管支喘息と定めている。生理学的な定義のうち特に重要なのが、運動誘発性喘息や吸入アレルゲンによる喘息、アスピリン喘息である。上記、歴史の項に述べられているようにいずれの定義でも再発性の気道過敏性と慢性炎症といった病態生理学に統合されると考えられている。慢性気道炎症によって気道過敏症となり、増悪因子により気道狭窄がおこり喘息症状が起こるとされている。

喘息患者にβ1受容体選択性の高くないβブロッカーを用いる場合、重篤な気管支収縮が起こる可能性がある。
疫学

2004年の試算で全世界に3億人の喘息患者がおり、年間255,000人が喘息で死亡している[22]。また喘息死の80%以上は低所得国から中低所得国で発生しており、今後10年間で喘息死はさらに20%増えるだろうと予測されている。喘息の有症率は1% - 18%程度と国によって報告にばらつきがあるが、多少強引にまとめると先進国で5% - 10%程度、発展途上国では1% - 4%程度である。

日本では1996年の統計で喘息の累積有症率(現症と既往の合計)は乳幼児5.1%、小児6.4%、成人3.0%(16歳から30歳では6.2%)である[23]。1960年代は小児、成人とも有症率は1%程度であったものが近年増加の傾向にあり、10年の経過で1.5倍から2倍程度増加している[24]。日本における喘息による死亡者数と人口10万人あたりの死亡率は1995年には7,253人 (5.8%)、2000年には4,473人 (3.6%)、2001年には4,014人 (3.2%)、2002年には3,771人 (3.0%)、2003年には3,701人 (2.9%)、2004年には3,283人 (2.6%) と、年々低下傾向にある(厚生労働省人口動態統計より)。死亡者の約半数は、重度の発作を軽発作だと思い適切な治療が遅れたあるいはされなかった事が原因であるといわれている。
検査
理学所見
特に、急性増悪時には、胸部聴診にて、呼気時優位に狭窄音が聴取される。狭窄音には、笛声音(wheeze「ウィーズ」, piping rale)、rhonchi等がある。急性増悪時には、呼気延長を認め、さらに、進行すると、陥没呼吸等、努力呼吸を呈するようになり、呼吸数増多(
: tachypnea)やチアノーゼを伴うこともある。最重症の急性増悪においては、意識障害や、呼吸音が減弱して喘鳴が聴取されなくなるsilent chestに至ることがあるが、極めて危険で緊急の処置を要する状態である。理学所見は気候や時間帯による影響も受ける。
気道可逆性試験
ピークフローメーターと交換用のアダプター気道閉塞の可逆性は喘息に特異性が高いが、気道閉塞の可逆性はないと考えられていた慢性閉塞性肺疾患(COPD)でも気道閉塞の可逆性が存在する症例があることが示されている。 ⇒米国胸部疾患学会の基準では、β2刺激薬吸入前後、1秒量が200ml以上かつ12%以上改善した場合、気道可逆性ありと診断する。あるいは2週間から3週間のステロイド内服・吸入前後で評価することも可能である。


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