気体
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任意の物理系の温度はその系(気体)を構成する粒子(原子、分子)の運動と関連している[11]統計力学では、温度とは粒子内に蓄えられた運動エネルギーの平均を示す測度である。このエネルギーを蓄える方法は、粒子自身の自由度エネルギーモード)で表される。気体粒子が運動エネルギーを蓄えるのは、衝突によって直線運動、回転運動、振動といった運動エネルギーを得たときである(吸熱過程)。対照的に固体内の分子に熱を加えても振動モードでしかエネルギーを蓄えられず、直線運動や回転運動は結晶構造によって妨げられる。熱せられた気体粒子は粒子同士が一定の割合で衝突することで速度が広範囲に変化しうる。速度の範囲はマクスウェル分布で表される。なお、この分布を想定するということは、その系が熱力学的平衡付近の理想気体だと仮定していることを暗に示している。
比体積膨張ガスは比体積の変化に関係する。詳細は「比体積」を参照

比体積を表す記号は "v " を使い、SI単位はm3/kg である。体積は記号 "V " で表され、SI単位はm3 である。

熱力学解析においては、示強属性と示量属性を扱うのが一般的である。気体の量に依存する属性(質量や体積)を示量属性、気体の量に依存しない属性を示強属性と呼ぶ。比体積は単位質量の気体が占める体積の比であり、あらゆる平衡系の気体にわたって同一であるため示強属性の例である[12]プロトアクチニウムの原子1000個がある温度と圧力で占める体積は、他の任意の原子1000個が同じ温度と圧力で占める体積と同じである。気体に比べて圧縮性のない固体のを思い浮かべればわかりやすい。右の写真にあるような射出座席はロケットで推進するが、ロケットは質量を保持しつつ膨張するガスを噴射しており、この際に比体積が増加する。気体はそれを取り囲むどのような容器であっても全体を満たす性質があり、体積は示量属性である。
密度詳細は「密度」を参照

密度は記号 "ρ"(ロー)で表され、SI単位はkg/m3 である。これは、比体積の逆数である。

気体粒子は容器内を自由に動けるため、その質量は一般に密度によって特徴付けられる。密度は質量を体積で割った値である。気体の圧力または体積の一方を一定としたとき、密度は広範囲にわたって変化する。この密度の変化の度合いを圧縮率と呼ぶ。圧力や温度と同様、密度は気体の状態変数の1つであり、任意の過程における密度の変化は熱力学の法則に従う。静止気体においては、密度は容器全体で均一である。つまり密度はスカラー量であり、大きさはあるが方向のない単純な物理量である。気体分子運動論によれば、気体の質量が一定のとき密度は容器の大きさすなわち体積に反比例する。すなわち、質量が一定であれば密度の減少とともに体積が増大する。
微視的性質

極めて高倍率の顕微鏡で気体を観察できるとすれば、様々な粒子(分子、原子、イオン、電子など)が決まった形や塊を形成せずに無作為に動いている様子が観察できるだろう。そういった中性の気体粒子が運動の向きを変えるのは、別の粒子と衝突したときか容器の壁と衝突したときだけである。そういった衝突が完全に弾性的だと仮定すると、その気体は理想気体だということになる。このような粒子レベルの微視的観点は気体分子運動論で扱われる。
気体分子運動論詳細は「気体分子運動論」を参照

気体分子運動論は、気体の巨視的性質を分子構成と分子運動によって説明する。運動量運動エネルギーの定義を出発点として[13]運動量保存の法則と立方体の幾何学的関係を使い、系の巨視的性質である温度と圧力を分子ごとの運動エネルギーという微視的属性に対応付ける。この理論によって温度と圧力という2つの属性の平均値が得られる。

この理論はまた、気体系が変化に対してどう反応するかを説明している。例えば、理論上完全に静止した気体が絶対零度から熱せられるとき、その内部エネルギー(温度)が増大する。気体を熱すると、その粒子が速度を増し、温度が上昇する。高温になると粒子速度が上がって単位時間あたりに容器内で発生する粒子の衝突が増える。単位時間あたりの容器表面での粒子衝突回数が増えると、それに比例して圧力も上昇する。
ブラウン運動詳細は「ブラウン運動」を参照

ブラウン運動は、流体内に浮遊する粒子の無作為運動を説明する数理モデルである。気体の拡散は気体分子運動論で説明することもできるし、素粒子物理学でも説明できる。

気体の個々の粒子(原子や分子)を観察するテクノロジーには今のところ限界があり、それらが実際にどのように動いているのかについて理論的計算でしか示せないが、その動きはブラウン運動とは異なる。ブラウン運動では気体分子が問題の粒子と何度も衝突することで頻繁に粒子の向きが変わる。この粒子は一般に原子数百万個から数十億個の大きさであるために衝突しやすく頻繁に向きを変えるのであって、気体分子そのものはそれほど頻繁に衝突しないと考えられる。
分子間力気体が圧縮されると、このような分子間力がより強く働くようになる。詳細は「ファンデルワールス力」および「分子間力」を参照

粒子間には引力と斥力が働いており、それが気体の力学に影響を及ぼす。物理化学ではこの力をファンデルワールス力と呼ぶ。この力は粘度流量といった気体の物性を決定する重要な因子となる。ある条件下ではそれらの力を無視することで、実在気体理想気体のように扱うことができる。そのような仮定の下では理想気体の状態方程式を使い、解に至る経路を大幅に単純化できる。

そういった気体の関係を正しく把握するには、気体分子運動論を再度考慮する必要がある。気体粒子が電荷や分子間力を持つとき、粒子同士の距離が近いほど互いに影響を及ぼしやすくなる(図のような水素結合もその一例である)。電荷がない場合、気体粒子間の距離が極めて近くなれば、粒子同士の衝突が避けられなくなる。気体粒子間の衝突が増大する別の場合として、体積が一定の気体を熱した場合があり、粒子の速度が高速になる。つまり理想気体の状態方程式は、圧縮によって極めて高圧になった状態や高温によってイオン化した状態では適切な結果を示せない。このとき除外された条件では、気体系内でのエネルギー伝達が発生することに注意が必要である。系内部におけるエネルギー伝達がないことは理想条件などと呼ばれ、その場合エネルギー伝達は系の境界でしか発生しない。実在気体は粒子間の衝突や分子間力を一部考慮する。粒子間の衝突が統計的に無視できる程度なら、理想気体の状態方程式の結果は妥当といえる。一方、気体を極限まで圧縮すると液体のように振る舞い、流体力学で扱うのが妥当となる。
単純化モデル詳細は「状態方程式 (熱力学)」および「理想気体」を参照

気体の状態方程式は、気体の状態特性を大まかに表し予測するための数理モデルである。あらゆる気体のあらゆる条件下の振る舞いを正確に予測できる単一の状態方程式は今のところ存在しない。従って、特定の温度や圧力の範囲での気体のために多数の状態方程式が生み出されてきた。最もよく論じられている気体のモデルは「完全気体」、「理想気体」、「実在気体」である。これらのモデルは、与えられた熱力学系の分析を容易にするために、それぞれ固有の仮定群を有している[14]。なお、完全気体よりも理想気体、理想気体よりも実在気体の方が対応可能な温度の範囲が広い。右の写真にあるライト兄弟の1903年の初飛行において、気体の状態方程式が設計に重要な役割を果たした。最近では、2009年に初飛行した太陽光発電飛行機ソーラー・インパルスや、商用機としては初めて複合材料を使ったボーイング787も設計に気体の状態方程式を活用している。ライト兄弟の初飛行
完全気体

完全気体は、分子同士の距離が十分大きいため分子間力が無視でき、かつ分子同士の衝突は弾性的だと仮定したものである。完全気体の状態方程式では、記号 n はモルあたりの物質を構成する粒子数、すなわち物理量である。それ以外の記号は全て上述してきたものが使われる。この関係式は絶対温度と絶対圧力を使ったときのみ成り立つ。

化学の場合: PV = nRT

気体力学の場合: P = ρRT

気体定数 R は、単位が両者で異なる。化学の場合は n に対応した単位になっており、気体力学では密度 ρ に対応した単位になっている。

完全気体はさらに2種類に分類されるが、両者を区別しない教科書も多い。以下、その2つを簡単に説明する。
熱量的完全

熱量的 (calorically) 完全気体は、温度の観点からは最も制限がきついモデルであり[15]比熱容量が一定という条件が加えられている(1000 K未満では多くの気体でほぼ成り立つ)。u = CvT, h = CpT

ここで u は内部エネルギー、h はエンタルピー である。C は比熱容量であり、Cv は定積比熱、Cp は定圧比熱である。

温度の観点からは最も制限がきついが、制限内では十分正確な予測が可能である。軸流式圧縮機の挙動を Cp を可変として計算した場合と Cp を一定として計算した場合では、その差は非常に小さい。実際、軸流式圧縮機の動作では他の要因が支配的に働き、Cp が可変かどうかよりも最終的な計算結果に与える影響が大きい。それは例えば、圧縮機の先端の隙間の大きさ、境界層、磨耗による損失などである。
熱的完全

熱的 (thermally) 完全気体は、熱力学的平衡状態にあり、化学反応を起こしておらず(化学平衡)、次の式が成り立つと仮定したモデルである。Cp ? Cv = R

この式は比熱容量が温度によって変化したとしても成り立ちうる。


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