個人情報保護法は、民生委員の活動に大きな影響を与えている[4]。例えば、お年寄りの安否確認も満足に行えないなど職務へ弊害が発生している[5]。また、民生委員は業務の性質上、個人や世帯の情報が必要となる。しかし、個人情報保護法の施行により地方自治体が民生委員への個人情報提供に慎重になり、個人が個人情報保護法を盾に名簿作成のための情報提供を拒否したり、マンション等の管理人が居住者の情報の提供を拒む事例が増えたという[4][6]。
なお、民生委員は民生委員法第15条で守秘義務が課せられており、民生委員法第14条に定められた範囲での個人情報の取扱いを行うことになっている。しかし、一般職の地方公務員とは異なり、刑事罰の規定は無い。その為、地域の民生委員と付き合いのある各種販売業者への情報漏洩が行われるという懸念が付きまとうことになる。ただし、守秘義務が守られなかった場合、民生委員や元民生委員は、民生委員法ではなく、憲法上の基本的人権侵害(プライバシーの侵害)、民法上の不法行為、刑法上の名誉毀損罪等の個別法により裁かれるが、その際、民生委員法の守秘義務が課せられていることが考慮される。また、近所づきあいなどコミュニティーの中で社会的制裁を受けることとなる。 多方面にわたる仕事ぶりはあまり知られていないのが実情である。全国民生委員児童委員連合会が2022年3月に全国1万人を対象に行った調査では、64.0%が名称や存在を知っていたが、役割や活動内容まで知っている人は5.4%にとどまった[3]。 各都道府県や政令指定都市、中核市それぞれの世帯数等に応じて民生委員の定数を定めている。しかし、なり手不足、職務の多様化から、民生委員は不足が常態化している[7]。特に都市部でその傾向がみられ、川崎市では定員に対する充足率が2019年は81.6%、2022年は80.9%まで下がっていて、2019年の全国平均95.2%を大きく下回っている[3]。読売新聞の調査では、2022年12月の一斉改選において、全国で約14,800人の欠員が生じていることが分かり、従足率は全国平均で93.83%、「改選時点での欠員としては戦後最多とみられる」としている[8]。 幼児虐待から高齢者の安否確認まで、自治体から期待される職務範囲は広がっているが、職務範囲が広がるほど求められる能力も高くなり、民生委員推薦のハードルを上げるかたちとなっている[7][3]。加えて、そもそもなり手が不足している。住民の意識の変化により地域活動への参加が消極的となり、その影響で民生委員を推薦する自治会自体も減少している[7]。民生委員は「定年後のボランティア」とも言われ、65歳以上が7割を占めるが、働く高齢者が増え、打診しても断られることが多いという[3]。 こうした状況に対応するため、参加要件の緩和や、個人情報の取り扱いガイドラインの検討などが行われている[7]。民生委員と同様に奉仕者として無報酬で活動している人権擁護委員や保護司などを含め、社会として必要なを活動を行う者に対しは、非常勤特別職の公務員として最低限の身分保障は行われているものの、制度そのものの在り方の再検討を求める意見も多くなっている。 慣れないうちに辞めてしまう「1期目の壁」の克服も課題である。全国民生委員児童委員連合会の調査では、2016年の改選の際、2万3千人が1期目で退任し、全退任者の約3割を占めた。連合会会長の得能金市 2010年7月29日、東京都足立区に住民登録をしていた都内男性最高齢(111歳)の白骨化遺体が発見され、刑事事件(死亡後約32年経過とされる、年金給付の不正受給容疑)となった。その後東京都は、100歳以上を対象にした調査を開始。その結果、都内最高齢の113歳の女性が所在不明であった。これらがきっかけで、全国各地で100歳以上を対象にした調査を開始した結果、多くの所在不明の高齢者が発覚した。これも民生委員の人手不足が原因の一つである。
制度の周知
民生委員の不足問題
民生委員の不足によって生じたと懸念された問題
高齢者所在不明問題
詳細は「高齢者所在不明問題」を参照
脚注[脚注の使い方]
注釈^ 2015年の公職選挙法改正で2016年6月19日より18歳選挙権が規定されたが、2022年3月31日まで附則により当分の間「有する者であつて成年に達したもの」と適用されていた。
^ 年齢の上限は規定されていないが、原則として新任者は65歳未満、再任者は75歳未満の者を選出するよう努めるものとされている(平成4年7月14日社援企第4号)。
^ 都道府県知事又は指定都市若しくは中核市の市長は、民生委員推薦会が推薦した者の中に民生委員・児童委員として適当でないと認められる者があるときはもとより、被推薦者よりなお適当な者があると認められる場合においても、再推薦を命ずることができること。再推薦を命じても、適当でないと認める者を推薦してきた場合には反覆して再推薦を命ずることができること(昭和37年8月23日発社第285号)。
^ 第11条及び第12条の規定は、任期中、本人の意思にかかわらず民生委員・児童委員を解嘱する場合の規定であって、本人から解嘱の願い出があった場合には、都道府県知事又は指定都市若しくは中核市の市長は、この規定にかかわらず解嘱の具申をすることができること(昭和37年8月23日発社第285号)。
出典^ a b ○民生委員法の疑義について(昭和三〇年六月八日)(社発第四三七号の二各都道府県知事あて厚生省社会局長通知)
《解説》民生委員は、指揮監督権を有する地方公共団体の特別職の公務員である。
cf. 民生委員法 第17条第1項・第29条、民生委員法施行令 第12条、地方自治法施行令 第174条の27・174条の49の3
^ a b 国政モニターの声に対する回答