民法_(日本)
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このドイツ民法第一草案は、19世紀ヨーロッパの法律思想である個人主義自由主義の集大成であり[50]自然法論にも歴史法学にも偏することなく、民族を問わず適用されるローマ法の万民法を抽象化したもので、世界各国の立法・判例・学説に多大な影響を与えた完成度の高いものであった。

しかし、その自由主義と政治的中立性の故に、社会的弱者への積極的救済が社会政策に丸投げといううらみがあり、またそのローマ法的・個人主義的性格は、農村由来の団体主義を基本とするゲルマン法との抵触が問題となり、更に、学問的抽象性の高さは実務的な運用性に長ける分、法律の素人には難解であった。ギールケらによる批判を受けて第二・第三草案で修正されたものの、根本的修正は至らずドイツ民法典として成立している[51]

民法典論争を経て成立した明治民法(特に財産法)もそれらの性質を継承しているため、批判の対象になっている[52]

なおドイツ固有のゲルマン法の影響が拡大した第二草案は起草の途中から参照している[53]。特に即時取得の制度にゲルマン法の影響が見られる[54]

日本民法起草にあたって参照された他のドイツ法系の法典・草案としては、ザクセンプロイセンスイス(連邦法・州法)[55]オーストリアモンテネグロなどがあり、他方、フランス法系ではフランスイタリアスペインベルギーオランダポルトガルなど、英米法系ではインドイギリスアメリカ法など[56]、そのほかにもロシア民法などが挙げられており、この内特に有益であったものとして、ドイツ・スイス・モンテネグロ・スペインが梅によって挙げられている[57][58]

それらの影響の比率については、明治時代の民法学者岡松参太郎は、当時の立法過程を分析した結果、独6、仏3、英0.2、日本慣習0.8であると指摘していた[59]

なお英米法に由来するものとしては、ウルトラ・ヴィーレスの法理を規定した民法34条(法人の能力)や、Hadley v. Baxendale事件の判決で表明されたルールを継受した民法416条(損害賠償の範囲)等がある。起草者の穂積が当初イギリスに留学したことの影響と推測されている[60]が、梅の担当部分にも僅かに英法の影響が見られるほか[61]、大陸法系の民法中特に条文数が少なく、必要最低限しか書かずに多くを判例に委ねる規定の仕方自体、判例法国である英米法の考え方を一部採りいれたと理解されている[62]

この法典継受を受けて、実務・学説は外国法学、特にドイツ法学から多くを学んで解釈運用に生かすことに努め(学説継受[63])、特に明治・大正時代にはその傾向が顕著であった[64][65]。代表的論者として川名兼四郎石坂音四郎鳩山秀夫らがいる[66]

大正時代から昭和にかけては、末弘厳太郎によるドイツ法学文献偏重への批判を考慮し、社会学的手法を導入して従前の学説を集大成し、日本民法学における第一人者と目される我妻栄[67]も、ドイツ民法学の大きな影響を受けていた[注釈 1]

これに対し、明治民法の制定が旧民法の「修正」という形式をとったことと、起草者の一人である梅謙次郎が「独逸法と少なくも同じ位の程度に於ては仏蘭西民法又は其仏蘭西民法から出でたる所の他の法典及び之に関する学説、裁判例といふものが参考になって出来たものであります」(梅謙次郎「開会の辞及ひ仏国民法編纂の沿革」仏蘭西民法百年紀念論集3頁)と述べているのを直接の根拠として[注釈 2][70]、日本民法典は、構成についてはドイツ民法典の構成に準じた構成がされているが、内容についてはむしろフランス民法典を少なくとも半分以上ベースとして構築されていると星野英一によって主張され[71]、ドイツ法学の影響を受けた判例・通説を批判的に再検討しようとする動きが学会の有力な潮流となり、内田貴により立法論としても展開されるに至った[72]後述)。

これに対しては、上記梅発言をもってフランス民法典が最も主要な母法とするのは論理の飛躍である、現に、最もフランス民法寄りと評される梅[73]自身すらも、民法典起草に当たってはフランス民法典ではなくドイツ民法草案を最も重要な範に採ったことを公式に明言し[74]、ドイツ法学から学んで日本民法解釈論に生かすべきことを強調しており[75][76]、他の起草当事者も同旨を延べている[77]ことが無視されており(仁井田益太郎の項参照)、フランス法の過度の強調ではないか[78]、そもそも独・仏・英米法学はたがいに隔絶したものではなく、いずれもローマ法に淵源を持ち、相互に影響を与えながら発展してきたものであるから、ドイツ法学を排撃してフランス法学に傾倒する根拠を欠いている等の批判がされている[79]


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