民法
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ローマ法に淵源を持つ民法典として歴史的に最も重要なものは、19世紀の初頭にナポレオンが制定したフランス民法典ナポレオン法典)である。これは、近代的な所有権概念を確立し、協議離婚を認めるなど[21]、中世の余弊を打破し、権利義務の観念を中核に据えた民法典であった。フランス民法典は、18世紀末の自由思想の集大成とも呼ぶべきものであり[7]、ローマ法由来の三編分類法(インスチュート・システム)による立法形式を採りつつも[22]、慣習法に革命の精神を具体化した規定を加えたもので[23]ナポレオン戦争の影響と相まってヨーロッパ全体にその影響を及ぼした[24]。また、アメリカ大陸でも、フランス系の移民が多く移住したアメリカのルイジアナ州[25]やカナダのケベック州では、ナポレオン法典が原則的に採用されていた[注釈 8]。このために、ナポレオンは、戦後、自らの最大の功績は数多の戦勝ではなく民法典の制定であるとして、「は法典を手にして後世に臨むべし」との言を残したという[27]

なお、フランス民法典が立脚した自由・平等主義の精神は、主として財産法を中心とするものであり、むしろ家族法部分においては、他のヨーロッパ諸国に比べても異例といえるほどの夫権・父権優位の家父長制を採り、また非嫡出子の差別的扱いも徹底するなど、単純に近代的思想の表れとはいえない一面を持っていた(20世紀後半に改正)[28]
ドイツ民法

ドイツにおいては、神聖ローマ帝国が有名無実化した後も、各地のゲルマン法を尊重しつつ、ローマ法を普通法とする時代が長く続いたが[29]、ナポレオン戦争を契機とした国家統一の機運の高まりと共に、ティボーらにより統一民法典編纂の必要性が主張されるようになる。ここで、一国において妥当する原理は国境を問わず妥当すると考え、ナポレオン法典を模範にドイツ民法を早急に立法しようとする自然法学派と、サヴィニーらを中心とする、一国の法はその国の歴史に深く根ざしたものであるとして慎重論を唱える歴史学派との法典論争が起こり、後者が勝利する[30]

その後、ドイツの法曹界の総力を結集し、19世紀の法律思想の総決算として制定された民法典[31]、フランス民法や後述のスイス民法典が各国の慣習法の集大成であったのに対し、部分的にゲルマン法を加えつつも、ローマ法を再構成した学者の抽象的学理の体系を中心に据えたものであり[32]、個人意思自治を基調とするサヴィニー、ヴィントシャイトの提唱した法律行為: Rechtsgeschaft[注釈 9]理論を中核に据え[34][注釈 10]、全編に共通する法規を総則規定として前にくくり出し、総則・物権・債権・親族・相続の五編に大別したザクセン民法典[注釈 11]に由来するパンデクテン・システムを採用する[注釈 12]

これは日本[38]タイ[39]ギリシャ[40]台湾[41]等に継受されたほか、フランス・オーストリア・スイス・ブラジル北欧[注釈 13]等の民法にも立法又は学説上一定の影響をもたらした[43]。また、債務関係法を民法典中の一編として独立させた点にも大きな意義と特色がある[44]。近代社会における債権実現への信頼、及び経済生活の多様化を背景としている[45]。なお、ドイツ民法典はザクセン民法典と異なり債務法が物権法よりも先になる。「債権法は物権法の侍女である」(に過ぎない)、とするフランス民法典の主義に相対するものであるが、ドイツ民法典・ザクセン民法典共にフランス法と異なり身分法ではなく財産法を先に配置しており、身分関係ではなく、個人意思による権利義務の変動を中心とする法体系を組むことで、個人主義を徹底しようとするものであるという点で共通する[46]日本民法典は物権法が債権法よりも先に配置されるという点で形式上ザクセン民法典に近いが[47]、その方が自然だから、という程度の意味でしかなく、フランス法系の旧民法に相対する債権編独立の基本的発想はドイツ民法典と軌を一にする[48]
近代民法の社会化・国際化

フランス・ドイツ両民法の根本思想は、個人主義にある。殊にフランス民法(財産法)においては、個人主義的民法の大原則である、個人財産権尊重の原則(所有権絶対の原則)、契約自由の原則、自己責任の原則(過失責任原則)が確立され、徹底されている。しかし、18世紀末に個人的に自覚した人類は、19世紀末には社会的に自覚し始める。そこで19世紀初頭に成立したフランス民法が僅かに封建時代の残滓を示しつつも個人主義的法思想の結晶であったのに対し[注釈 14]、19世紀末に成立したドイツ民法は個人主義思想の爛熟を示しつつも資本主義社会の興隆を反映して、特にその第二草案を境に多少協同主義的な色彩が加わっており[50]、債権法における信義誠実の原則の明文化(ドイツ民法旧242条)[51]、及びその後の特別法の立法による無過失責任の展開等はその現れである[52]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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