比例代表制
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投票の移譲(Ubertragung)1人の候補者を当選させるために有効に役立てられなかった投票は、一定の条件に従い、他の候補者に移譲されて、この候補者のために役立てることになる[8]。そのため、死票や過剰投票として無意味となる多くの投票が、直ちに不用となることなく、投票を平等かつ有意義に役立てることができる[9]。また、投票の移譲を行うことによって、不用となる投票がなくなる結果、初めて、第1の原理(投票を通算してQuotaを基礎として当選者を決定すること)によって比例的に当選者を決定することが可能となるから、投票の移譲は、第1の原理が働くための不可欠の条件である[10]。第2の原理(投票の移譲)をいかなる原則に従って行うかについて、比例代表法は、単記移譲式比例代表法と、名簿式比例代表法の2種類に大別される[11]。単記移譲式比例代表法においては、各有権者が個々の候補者に対して投票するため、その投票は、1名を選出するために役立つにすぎない[12]。しかしながら、投票した候補者がすでに必要な投票を得ている場合や、その候補者が全く当選の見込みがない場合には、その投票を他の候補者に対して移譲することができる[12]。この場合、投票を誰に対して移譲するかについては、もっぱら有権者自身が決定することとなる[12]。名簿式比例代表法においては、選挙管理委員会が選挙前の一定の期間に各政党に候補者名簿を提出させて、選挙の際には、各有権者が候補者名簿を基礎として投票させる[13]。名簿式比例代表法は、厳正強制名簿主義(各有権者は、あらかじめ作成された各政党の候補者名簿に対してでなければ投票することができず、ある候補者を選択して投票したり、名簿上の候補者やその順位を変更することは許されない)、単純強制名簿主義(候補者名簿上の特定の一候補者を選択して投票することができる)、自由名簿主義(候補者名簿に拘束されることなく、名簿上の候補者やその順位を変更することができる)などの方式に分かれる[14]。いずれにしても、投票の移譲は、各政党が作成した名簿についてなされるものであるから、多少の変更が可能であるとしても、単記移譲式のようにいかなる候補者に対して移譲すべきかをもっぱら有権者の自由な選択に委ねているのとは全く性質を異にしている[15]

長所及び短所

比例代表制の長所には次のような点がある。
社会の各集団の意思を得票数を通じて、ほぼ正確に
議会の獲得議席(議席配分)に反映できる[16]

死票を最小限に抑制することができる[16]

新たな政党の出現が比較的容易である[16]

比例代表制の短所には次のような点がある。
単独過半数を取ることが事実上不可能で、小党分立(群小政党)を生じやすい[17][18][19]

政権の構成が単独政権や似た主張の政党の連立政権ではなくなる可能性が非常に高い[17]

大連立など主張が大きく異なる政党同士で組閣や議会を動かすために議会の意思決定に時間がかかる傾向が強まる[17][19]

政党の幹部に権力が集中しやすくなる[17]

特に名簿式では議員と選挙人との間に政党が介在することから、議員と選挙民の関係が希薄になり親密さを欠く(選挙の直接性の問題)[17][18]

選挙手続や当選決定手続など技術的に他の制度に比べ複雑である[17][18]

種類

比例代表の方式には単記移譲式と名簿式がある[1]
単記移譲式詳細は「単記移譲式投票」を参照
概要

単記移譲式とは、投票用紙にあらかじめ候補者名が記載されており、選挙人は自分の選好順に番号を付す方式[1]。開票の結果、第一順位の候補者の得票数が予め設定された基数以上に達していれば当選とし、基数以上の票(剰余票と当選の見込みのない候補者の票)を次位の候補者に順次移譲してゆき当選者を決定する[1]
選挙区

単記移譲法の考案者のひとりであるトーマス・ヘア(英語版)によれば、単記移譲法を実施する際の選挙区は、全国を単一の選挙区とすることが構想されていた[20]。しかしながら、その後、ジョン・ラボックは、3名から5名の選挙区とすべき旨を主張し、ラボックとともに比例代表協会(後の選挙改革協会(英語版))の設立者となり、イギリス議会で単記移譲法の採用を主張したレオナルド・コートニー(英語版)も、10名前後を定数とする県又は市を基礎とすべき旨を主張した[21]。実際に単記移譲法が実施された例を見ても、3名から10名前後を基礎として選挙区が設けられている[21]
Quota

単記移譲法を実施する際のQuotaについては、さまざまな算出方法が知られている。ヘア式算出法は、投票総数を議員定数で除した数(ヘア基数(英語版))をQuotaとしていたが、投票総数8,000、議員定数8名の選挙区においては、1,000票を得なければ当選しないことから、投票者数1,000名ずつの8個の小選挙区においてそれぞれ全員一致で議員を選出するのと同様の結果をもたらすなどの批判がなされた[22]。そのため、より少ないQuotaを用いる必要があることから考案されたのが、1881年にヘンリー・リッチモンド・ドループ(英語版)によって考案されたドループ式算出法である[23]。当選するために必要な票数は、他の候補者の得票数よりも1票だけ多ければよいことから、ドループ式算出法は、投票総数を「議員定数に1を加えた数」で除した上で、これに1を加えた数(ドループ基数(英語版))をQuotaとした[24]。単記移譲法を実施する際には、ドループ基数を用いることが一般的であり、ヘア基数を用いる場合の不都合をおおむね回避することができるとされている[25]
投票の移譲

単記移譲法を実施する際の投票の移譲に関する方法についても、さまざまな方法が知られている。ヘア式移譲法は、各投票用紙の第一順位の候補者の票数を計算し、これによってある候補者の票数がQuotaに達したときに、その候補者を当選とする[25]。そして、当選した候補者に対する投票は、第二順位の候補者のために計算される[26]。しかしながら、ヘア式移譲法による場合、どの投票用紙から計算するかという偶然の事情によって、移譲の順番が異なるという不都合を生じることとなる[27]

このようなヘア式移譲法の理論上の欠点を改善したのが、アンドルー・イングリス・クラーク(英語版)が考案したヘア=クラーク式移譲法(en:Hare?Clark electoral system)である[28]。ヘア=クラーク式移譲法は、当選者の過剰投票の部分のみについて第二順位の候補者を点検するのではなく、過剰投票を有する当選者の得票の全体について第二順位の候補者を点検し、各第二順位の候補者に対して按分比例して過剰投票を移譲する方法である[28]

しかしながら、第二順位の候補者に移譲された投票と、第二順位の候補者が当初から有する投票との合計がQuotaを超えた場合、さらにこの過剰投票を第三順位の候補者に分配することとなるが、当初、第一順位の当選者のために用いられた投票用紙の中には、第三順位の候補者の氏名を第二順位の候補者として記載していた投票用紙が存在するはずであるから、どの票を移転するかという偶然の事情によって、選挙の結果が変わりうる[29]

そこで、1880年にJ. B. Gregoryが考案したのが、グレゴリー式移譲法である[30]。グレゴリー式移譲法は、候補者が有する投票の全体について第二順位の候補者を検査するものであるが、さらに、抽象的な一票の移譲価値(transfer value)を算定して取り扱うことによって、偶然の支配から免れることを可能としている[31]。すなわち、Aを第一順位の候補者、Zを第二順位の候補者とする場合、Aが得た過剰投票数(Quotaを超過する投票数)をAへの投票総数で除した割合(移譲価値)を求める[31]。その上で、Aを第一順位、Zを第二順位とする投票用紙の数を、移譲価値と乗じて、これによって得られた数をZに移譲すべき票数とする[31]。第二順位の候補者から第三順位の候補者に対する投票の移譲についても、同様に移譲価値を利用して算定する[32]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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