殺虫剤
[Wikipedia|▼Menu]
中央致死薬量(median lethal dose, LD50):生物の半数が致死する有効成分の量。μgで表す場合が多い。

中央致死濃度(median lethal concentration, LC50):生物の半数が致死する有効成分の濃度。mg/lで表す場合が多い。

中央ノックダウン時間(median knock-down time, KT50):生物の半数が仰天するに要する時間。薬剤の即効性の指標。致死ではないので蘇生する場合もある。

歴史

人類は、農業を始めた時から害虫と闘っている。

江戸時代には、イネにつくウンカという害虫のせいで、100万人近くの死者がでる大飢饉があったことから、田圃鯨油を流してから、稲についているウンカをはらい落として窒息死させていた。しかし、鯨油が高価なことから、一般的には神仏に祈っていた[2]

キノコタバコニコチンの殺虫効果)やハエドクソウ(植物)の天然物は、古くからウジ殺しなどに用いられた。その中で除虫菊は、選択毒性により人畜に対する毒性が低いので、19世紀から盛んに製造され、日本にも明治時代に導入されて蚊取線香やノミ取り粉として用いられた。

1930年代になると、有機化学の発達により有機塩素系殺虫剤(DDTなど)や有機リン系殺虫剤が開発され、第二次世界大戦後本格的に使われるようになった。しかし有機塩素系は自然界で分解しにくく、動物やヒトの体内に蓄積するため、1960年代から有害性が問題にされ(「沈黙の春」)、その後多くの国家で製造販売が禁止され、あるいは生産が中止された。有機リン系の毒性についても、神経伝達のアセチルコリンエステラーゼを阻害する作用で、人畜に対する毒性の高いものが多かったため、なるべく毒性の低いものを求めて開発が進められた。

その後、カラバルマメの有毒なアルカロイド成分であるフィゾスチグミンを参考にして、有機リン系と同様の神経毒作用をもつカーバメート系殺虫剤が開発され、除虫菊成分(ピレトリン)を基本にした毒性の低いピレスロイド系殺虫剤(家庭用などに多く使われる)やニコチンを基本にしつつ、ニコチンの人間に対する毒性を低下させた、殺虫効力の高いネオニコチノイド系殺虫剤などが開発された。
有効成分による分類と作用機序
有機塩素剤(
DDTBHC等、1970年代までに日本ではほとんど禁止)
DDTは、神経軸索のNa+チャンネルに作用し、神経系の情報伝達を阻害する。毒性が強く、生物濃縮が起こる。
有機リン剤(パラチオンジクロルボスマラチオンフェニトロチオンアセフェート等)
有機リン剤は神経系の伝達物質アセチルコリンの分解酵素であるアセチルコリンエステラーゼ(AChE)と結合して、その働きを不可逆的に阻害する。このためアセチルコリンが異常に集積したままになり、情報伝達が阻害され死滅する(通常、アセチルコリンは情報伝達を行なった後、AChEにより分解される)。
カーバメート剤(カルバリル、プロポクサー、フェノブカーブ等)
有機リン剤と同様。ただし、アセチルコリンエステラーゼ阻害は可逆的である。残効性は高い。
昆虫成長制御剤(通称IGR剤、メトプレン・ピリプロキシフェン・ジフルベンズロン・ビストリフルロン)
昆虫変態を利用して、脱皮ホルモンと幼若ホルモンを過剰に投与することによって、成虫にさせず死滅に追い込む。即効性は無い。
ピレスロイド剤(ピレトリンペルメトリンイミプロスリン、エトフェンプロックス等)
ピレスロイド剤は、神経軸索のNa+チャネルに作用し、神経系の情報伝達を阻害する。隙間に入り込んだ害虫を開放空間に飛び出させる「追い出し効果」がある。即効性に優れるが残効性は無い。
ニコチン剤(硫酸ニコチン)
硫酸ニコチンの記事を参照。呼吸・接触・摂食により、虫体に取り込まれニコチン性アセチルコリン受容体に作用して、神経の異常な興奮を引き起こしたままになり、殺虫効果をあらわす。
ネオニコチノイド剤(クロロニコチニル剤)(イミダクロプリド、ジノテフラン、クロチアニジン等)
ネオニコチノイドは、神経系の伝達物質アセチルコリンの受容体に代わりに結合し、アセチルコリンによる情報伝達を阻害する。植物への浸透移行性が高く、食べた害虫が死滅する。残効性が高い。
IRACの作用機構分類

主要グループと
1次作用部位サブグループ
あるいは代表的有効成分有効成分
1 アセチルコリンエステラーゼ (AChE)
阻害剤1A カーバメート系アラニカルブ
アルジカルブ
ベンダイオカルブ
ベンフラカルブ
ブトカルボキシム
ブトキシカルボキシム
NAC (カルバリル)
カルボフラン
カルボスルファン
エチオフェンカルブ
BPMC (フェノブカルブ)
ホルメタネート
フラチオカルブ
MIPC (イソプロカルブ)
メチオカルブ
メソミル
MTMC(メトルカルブ)
オキサミル
ピリミカーブ
PHC (プロポキスル)
チオジカルブ
チオファノックス
トリアザメート
トリメタカルブ
XMC
MPMC (キシリルカルブ)
1B 有機リン系アセフェート
アザメチホス
アジンホスエチル
アジンホスメチル
カズサホス
クロレトキシホス
CVP (クロルフェンビンホス)
クロルメホス
クロルピリホス
クロルピリホスメチル
クマホス
CYAP (シアノホス)
ジメトン-S-メチル
ダイアジノン
DDVP (ジクロルボス)
ジクロトホス
ジメトエート
ジメチルビンホス
エチルチオメトン(ジスルホトン)
EPN
エチオン
エトプロホス
ファンフル
フェナミホス
MEP (フェニトロチオン)
MPP (フェンチオン)
ホスチアゼート
ヘプテノホス
イミシアホス
イソフェンホス
イソプロピル=O-(メトキシアミノ チオホスホリル)サリチラート
イソキサチオン
マラソン(マラチオン)
メカルバム
メタミドホス
DMTP (メチダチオン)
メビンホス
モノクロトホス
BRP (ナレッド)
オメトエート
オキシジメトンメチル
パラチオン
メチルパラチオン(パラチオンメチル)
PAP (フェントエート)
ホレート
ホサロン
PMP (ホスメット)
ホスファミドン
ホキシム
ピリミホスメチル
プロフェノホス
プロペタムホス
プロチオホス
ピラクロホス
ピリダフェンチオン
キナルホス
スルホテップ
テブピリムホス
テメホス
テルブホス
CVMP (テトラクロルビンホス)
チオメトン
トリアゾホス
DEP (トリクロルホン)
バミドチオン
2 GABA 作動性塩化物イオン(塩素イオン)
チャネルブロッカー2A 環状ジエン有機塩素系クロルデン
ベンゾエピン(エンドスルファン)
2B フェニルピラゾール系(フィプロール系)エチプロール
フィプロニル
3 ナトリウムチャネルモジュレーター3A ピレスロイド系
ピレトリン系アクリナトリン
アレスリン(アレスリン、d-シス-ト ランス-、d-トランス-異性体)
ビフェントリン
ビオアレスリン(ビオアレスリン、 S-シクロペンテニル-異性体)
ビオレスメトリン
シクロプロトリン
シフルトリン(シフルトリン、β-異性体)
シハロトリン(シハロトリン、λ-、 γ-異性体)
シペルメトリン(シペルメトリン、α -、β-、θ-、ζ-異性体)
シフェノトリン[(1R)-トランス異性体]
デルタメトリン
エンペントリン[(EZ)-(1R)-異性体]
エスフェンバレレート
エトフェンプロックス
フェンプロパトリン
フェンバレレート
フルシトリネート
フルメトリン
フルバリネート(τ-フルバリネート)
ハルフェンプロックス
イミプロトリン
カデスリン
ペルメトリン
フェノトリン[(1R)-トランス異性体]
プラレトリン
ピレトリン
レスメトリン
シラフルオフェン
テフルトリン
フタルスリン(テトラメスリン)
テトラメスリン[(1R)-異性体]
トラロメトリン
トランスフルトリン
3B DDT
メトキシクロルDDT
メトキシクロル
4 ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)
競合的モジュレーター4A ネオニコチノイド系アセタミプリド
クロチアニジン
ジノテフラン
イミダクロプリド
ニテンピラム
チアクロプリド
チアメトキサム
4B ニコチン硫酸ニコチン(ニコチン)
4C スルホキシミン系スルホキサフロル
4D ブテノライド系フルピラジフロン
4E メソイオン系トリフルメゾピリム
5 ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)
アロステリックモジュレータースピノシン系スピネトラム
スピノサド
6 グルタミン酸作動性塩化物イオン(塩素イオン)チャネル (GluCl)
アロステリックモジュレーターアベルメクチン系
ミルベマイシン系アバメクチン
エマメクチン安息香酸塩
レピメクチン
ミルベメクチン
7 幼若ホルモン類似剤7A 幼若ホルモン類縁体ヒドロプレン
キノプレン
メトプレン
7B フェノキシカルブフェノキシカルブ
7C ピリプロキシフェンピリプロキシフェン
8 その他の非特異的
(マルチサイハロゲン化アルキルト)
阻害剤8A ハロゲン化アルキル臭化メチル(メチルブロマイド)
その他のハロゲン化アルキル類
8B クロルピクリンクロルピクリン
8C フルオライド系弗化アルミニウムナトリウム
フッ化スルフリル
8D ホウ酸塩ホウ砂
ホウ酸
オクタホウ酸ニナトリウム塩
メタホウ酸ナトリウム塩
8E 吐酒石吐酒石
8F メチルイソチオシアネートジェネレーターダゾメット
カーバム
9 弦音器官TRPV
チャネルモジュレーター9B ピリジンアゾメチン誘導体ピメトロジン
ピリフルキナゾン
10 ダニ類成長阻害剤10A クロフェンテジン
ジフロビダジン
ヘキシチアゾクスクロフェンテジン
ジフロビダジン
ヘキシチアゾクス
10B エトキサゾールエトキサゾール
11 微生物由来昆虫中腸内膜破壊剤11A Bacillus thuringiensis と生産殺虫タンパク質B.t. subsp. israelensis


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:45 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef