歴史哲学
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前者は過去自身を研究し、後者は自然哲学が自然にとって位置しているのと同様の位置を歴史に対してもっている[3][4]

二つの分野の間ではいくらか重複しているところがあるものの、通常は区別することができる。現代の職業的歴史家達は思弁的歴史哲学には懐疑的である。しばしば思弁的歴史哲学は史学史に含まれる。歴史の哲学は哲学史と混同されるべきではない。哲学史は、哲学の歴史的文脈上の哲学思考の発展を研究するものである[5]

通常の歴史哲学のイメージは、ここでは思弁的歴史哲学に分類される種類のものである(本項目の「代表的な歴史観」がこれに相当する)。これに対して批判的歴史哲学は、本項目では「歴史と物語り論」に相当している。
歴史

「歴史哲学(Philosophie de l'histoire)」という用語を最初に著作で用いたのは、18世紀のフランス啓蒙主義思想家ヴォルテールの1765年の著作『諸国民の風俗と精神について』の序章「歴史哲学」だとされる。彼は、歴史は理性と反理性の抗争であり、最後には理性が勝利に終わる啓蒙主義進歩史観を唱えた。歴史を哲学の重大な主題であるとして取り上げ歴史哲学を確立したのは、ヘーゲルである。しかし、ヘーゲルの歴史哲学は、近代歴史学の父であるランケによって批判され、19世紀においては自然科学が隆盛を極める中次第に歴史学は事実のみに基づいて構築されるべきものとされた。この結果、「実証主義歴史学」と「歴史哲学」は、学問上では別の分野とされるようになった。近代的な実証主義歴史学を確立したとされるランケ自身も国民国家を正当化する思想性を有しており、彼の確立した史学方法論・研究体制とともに、19世紀に世界各地で成立した各国民国家の近代歴史学に大きく影響を及ぼした[6]。20世紀に入ると歴史学は社会科学の方法を取り入れて科学への接近を図り、歴史哲学とは益々乖離を見せるようになった。20世紀後半に盛んになった物語り論(後述)からは、歴史哲学だけではなく、実証主義歴史学そのものが批判された。フランスの哲学者リオタールは、1979年「大きな物語」の終焉を説き、歴史学界では大きな歴史像を描く歴史著作そのものがあまり見られなくなった。こうした中、大きな歴史像の提出は、歴史学や歴史哲学以外の分野で著されることが多くなった[注釈 1]。21世紀に入り、グローバリゼーションの深化とともに、グローバル・ヒストリーやビッグ・ヒストリーが隆盛し、歴史学や歴史哲学に影響を与えつつある。
歴史と物語り論

20世紀になって、客観性が構築されたものであることを言語学や哲学が示してからは、歴史 (history[注釈 2]) は、現在の人間が後から過去の出来事を物語ること (narrative[注釈 3]) と共に存立するものであり、物語り[注釈 4]から離れた中立な歴史・客観的な歴史は存在しないという物語り論 (narratology)[注釈 5] が主張されるようになった[7]

しかしながら、そのような考えを誤って徹底させていくと、最終的には現在の個人個人が勝手に自分の歴史「物語」を紡いでしまい、コミュニケーションが成り立たない状態に陥ってしまう。また合理的に考えると実際に起きた出来事まで「所詮は主観だから」と勝手に修正してしまえば、極端な相対主義や歴史修正主義に陥ってしまう。レイモン・ピカール(英語版)は、この極端な立場をハイ・ナラティヴィスト(ロラン・バルトヘイドン・ホワイトら)と定義し、他方の、「物語り」は世界との関係を維持すると主張する立場をロウ・ナラティヴィスト(ポール・リクールやデイヴィッド・カー)と定義している[8]

そのため、現在の歴史学では、限定的な客観性(間主観性(ドイツ語版))が保たれるものとして研究を進めることが一般的である。その客観性とは合理性に基づくものである[注釈 6]。例えば、徳川家康が存在したと我々が決めることができるのは、様々な文献遺物遺跡から、家康という人物が存在したと仮定するほうが、しないよりも合理的にこれらの証拠を関連付けられるからである。
代表的な歴史観
循環論

古典古代以来提唱されてきた伝統的史観のひとつ。循環論はしばしば文明興亡論(後述)とも結びついてきた。

政体循環史観

古代ギリシャ歴史家ポリュビオスが唱えたもので、共同体統治する政治体制には『王政貴族政民主政』の3つがあると述べ、それぞれは長期に渡ると必ず堕落し、次の政体へ変化するという史観。王政は、を僭称する“僭主政”へ、貴族政は少数の貴族が独裁する“寡頭政”へ、民主政は市民が詭弁家に扇動される“衆愚政”へと堕落して崩壊する。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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