年功序列から成果主義への処遇の変化が柱である。勤続年数よりも職務遂行能力がより重視されるようになり、仕事の成果を賃金や昇進・昇格に反映させるよう評価体制が変更されるようになった。総合職・一般職の区分を設けた企業では総合職でないと幹部級の役職には就けない。労働組合についても加入率が低下している。
もっとも、行き過ぎた既存の形態の変更については異論も存在し、終身雇用は長期雇用によって企業の技能・士気を高水準で維持できるという経済合理性の評価や(詳しくは終身雇用#企業内教育と経済合理性を参照)、一度導入した成果主義の見直し(例えば、1993年に初めて成果主義による賃金体系を導入した富士通は、2001年4月に制度を見直している)といった動きも出た。不況を脱しつつある2010年代以降においては、一部の専門職やベンチャー企業を除けば、完全な成果主義をとる企業はまれで、年功序列と成果主義の双方をどの割合で組み合わせるかが処遇の中心となっている。
しかし、こうした正社員像の変化はもっぱら大企業に特有のものである。中小企業の従業員は大企業の従業員よりも身分が不安定で給与が安い傾向がみられ、正社員でありながら福利厚生がほとんどない場合もある。昨今は成果主義の導入や、昇進につれて給与が上がらないのに仕事量が倍増する管理職など、正社員とはいえ収入が安定しないケースも出てきている。サービス残業が常態化したため、時給制の非正規社員より時間当たりの報酬が少ない正社員も珍しくはない。健康面でもサービス残業、名ばかり管理職、リストラによる仕事量の増加により体を壊して休職したり辞めたりする正社員が増えている。不況期の雇用調整についても、配転、出向の受け皿に乏しく、より直接的な希望退職の募集、整理解雇が行われ、また雇用調整をするまでもなく倒産、全員解雇に至るケースもある。 正社員と非正規雇用の労働者との働き方の二極化を緩和し、労働者一人ひとりのワーク・ライフ・バランスと、企業による優秀な人材の確保や定着を同時に可能とするような、労使双方にとって望ましい多元的な働き方の実現が求められている。そうした働き方や雇用の在り方の一つとして、職務、勤務地、労働時間を限定した「多様な正社員」の普及を図ることが重要となっている[4]。 平成中期以降、勤務地・労働時間・職務内容に制約がありながら正社員と待遇が同じである雇用形態の限定正社員という区分を設ける企業が増えている。育児、介護と仕事の両立が必要な者、家庭の事情等により単身赴任ができない者、特定の技能を有しその技能を生かす職務に専念する者などへの適用が想定される。 長期的な雇用を求めながらも正社員と同様の働き方が難しい労働者にとってはメリットのある制度である。また企業の側も、雇用管理は煩雑になるものの多様な人材を生かすことができる。 名ばかり正社員(なばかりせいしゃいん)とは、非正規雇用とあまり変わらない労働条件・環境で雇われたブラック企業の正社員の事[5]。周辺的正社員、なんちゃって正社員とも呼ばれる[6]。 一般的にイメージされる正社員とは異なり、賃金については低賃金であり[5]、定期昇給制度や賞与(ボーナス)の両方かいずれかがなく、退職金制度が無い場合もある。制度の適用基準を満たすにもかかわらず企業が届出を行わず雇用保険、健康保険、厚生年金といった法定福利にも加入していないケースもある。正社員は月給制(固定給)が一般的ではあるが、時給制(時給月給制)、日給制(日給月給制)、年俸制のいずれかの場合もある。雇用契約書を見る限りでの賃金は最低賃金水準以上であるが、サービス残業や奉仕活動などへの無償参加等を合わせると時給換算で最低賃金以下となるケースもある[注釈 2][6][注釈 3]。しかし、法的な正社員の最低基準の定めはなく、短時間労働者であろうとも短期間の労働者であろうとも、どのような低条件の労働者であっても正社員の呼称を用いることは違法とはならない。
多様な正社員
名ばかり正社員
脚注[脚注の使い方]
注釈^ もっとも、労働省「労働経済動向調査」等の統計によれば、配転、出向など解雇回避措置は積極的に行われたが、希望退職や解雇の手段は回避され、企業が正社員の削減には慎重な姿勢を示していたことがうかがえる。にもかかわらず「リストラ」がマスコミで大きく報道されたのは、企業において余剰人員とされた中高年ホワイトカラー層(いわば「終身雇用の申し子」)である彼らに対するこれらの措置に対して世間の非難が高まった結果である。
^ NPO「POSSE」の調べによると、60時間/週以上の労働時間の比率が「周辺的正社員」で38%、「中心的正社員」で26%なのに対し、月収20万円以下の比率では「周辺的正社員」で53%、「中心的正社員」で19%と、「周辺的正社員」の長時間労働、低賃金の傾向が表れている。
^ 調査では定期昇給やボーナスの少なくともいずれかがない正社員を「周辺的正社員」、双方がある正社員を「中心的正社員」としている。
出典^ コトバンクー正社員
^ a b 読売新聞2020年12月20日付朝刊言論面
^ 奥田栄二 (2011年11月4日). “ ⇒派遣という働き方から正社員を見る”. 労働政策研究・研修機構. 2012年7月10日閲覧。 “「正社員」どころか、「非正規社員」という用語も定義的に明確なものはなく、これらの用語は、統計調査上、就業形態の状況を把握するための「呼称」に過ぎない”
^ 「多様な正社員」について
^ a b 小林美希 (2008年9月3日). “派遣会社の「名ばかり正社員」 悪労働環境に苦しむ特定派遣が急増中”. ダイヤモンド・オンライン. ⇒オリジナルの2008年9月3日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20080903034306/http://diamond.jp/series/analysis/10030/
^ a b 「広がる「名ばかり正社員」――都内の若者 NPOが調査」『朝日新聞』2008年9月21日付朝刊、第31版、第13面。
関連項目
正規雇用
非正規雇用
労働
コース別管理制度
フリーター
正規社員の解雇規制緩和論
ホワイトカラーエグゼンプション
裁量労働制
ジョブ型雇用
日本型雇用システム
45歳定年制
外部リンク
雇用・労働 - 厚生労働省
季刊 政策・経営研究「特集:日本の働き方?『正社員』の行方?」(archive) 2010年 , vol.11 - 三菱UFJリサーチ&コンサルティング
統計局ホームページ/労働力調査特別調査
統計局ホームページ/労働力調査
⇒図8 雇用形態別雇用者数/早わかり グラフでみる長期労働統計|労働政策研究・研修機構(JILPT)
⇒図9 各年齢階級の正規、非正規別雇用者数/早わかり グラフでみる長期労働統計|労働政策研究・研修機構(JILPT)
基本概念
労働法
労働基本権
労働組合法
労働関係調整法
労働基準法
労働安全衛生法
最低賃金法
男女雇用機会均等法
パートタイム労働法
個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律