歌舞伎俳優
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歌舞伎(伝統的な演技演出様式によって上演される歌舞伎)は、ユネスコ無形文化遺産保護条約の発効以前[注釈 12]2005年(平成17年)に「傑作の宣言」がなされ、「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」に掲載され、無形文化遺産に登録されることが事実上確定していたが、2009年(平成21年)9月の第1回登録で正式に登録された。
演目東京歌舞伎座上演の『』(中央で見得を切るのは九代目市川團十郎の鎌倉権五郎)。1895年(明治28年)11月、鹿島清兵衛撮影
分類

現代の歌舞伎の演目は普通の芝居である歌舞伎狂言と歌舞伎舞踊に分けられる[51]

歌舞伎狂言は、さらにその内容により時代物と世話物に大別される。時代物とは、江戸時代より前の時代に起きた史実を下敷きとした実録風の作品[52]や、江戸時代に公家・武家・僧侶階級に起きた事件を中世以前に仮託した作品をいう[53]。一方、世話物とは、江戸時代の市井の世相を描写した作品をいう[54]

時代物のうち、お家騒動を書いたものは御家物(おいえもの)、飛鳥時代から平安時代を描いたものは王朝物(おうちょうもの)と呼ばれる。また世話物のうち、特に写実的要素の濃いもの[55]を生世話物(きぜわもの)という。明治になると当時の世相を描いた散切物という世話物のサブジャンルも生まれた。

また歌舞伎狂言はその起源によって分類することもでき、人形浄瑠璃の演目を書き換えたものを丸本物[56]といい、能・狂言の曲目を原作としてそれらに近い様式で上演する所作事を松羽目物[注釈 13]という。丸本物は義太夫物・義太夫狂言・でんでん物[57]などとも呼ばれる。なお丸本物の対義語は純歌舞伎[58]である。

活歴物(かつれきもの)は明治期に歌舞伎を近代社会にふさわしい内容のものに改めようとして生まれた演目の総称であり、新歌舞伎(しんかぶき)は、明治後期から昭和初期にかけて、劇場との関係を持たない独立した作者によって書かれた歌舞伎の演目の総称である。なお、第二次世界大戦中から戦後以降に書かれた新しい演目は、新作歌舞伎(しんさくかぶき)または単に新作(しんさく)と呼んで、新歌舞伎とは区別している。

歌舞伎狂言の分類方法は人によって揺れがあり、時代物と世話物で2分する代わりにこれにお家物を加えて3分する用例[59]もある。
特徴西光亭芝國・春好齋北洲画『故人市川團藏十七囘忌追善狂言 平家女護嶋』四枚續物、文政7年9月大阪角座上演『平家女護嶋』(1824年)

歌舞伎の演目には他の演劇の演目にはない特徴がいくつかある。まず歌舞伎狂言は世界という類型に基づいて構成されている。「世界」とは物語が展開するうえでの時代・場所・背景・人物などの設定を、観客の誰もが知っているような伝説や物語あるいは歴史上の事件などの大枠に求めたもの[60]で、たとえば「曾我物」「景清物」「隅田川物」「義経物(判官物)」「太平記物」「忠臣蔵物」などがあり、それぞれ特有の約束ごとが設定されている。当時の観客はこれらの約束事に精通していたため、世界が設定されていることにより芝居の内容が理解しやすいものになっていた。ただし世界はあくまで狂言を作る題材もしくは前提にすぎず、基本的な約束事を除けば原作の物語から大きく逸脱して自由に作られたものであることも多く、登場人物の基本設定すらも原作とかけ離れていることも珍しくない。

複数の世界を組み合わせて一つの演目を作ることもあり、これを綯交ぜ(ないまぜ)とよぶ。世界ごとに描いている場所や時代が異なるはずであるが、前述のように世界はあくまで題材にすぎないので、無理やり複数の世界を結びつけてひとつの演目を作りだす。

江戸時代に作られた演目のその他の特徴として、その長さが長大なこと、本筋の話の展開の合間に数多くのサイドストーリーを挟んだり、場面ごとに違った種類の演出(時代物と世話物(後述))が行われたりすることなどがあげられる。前者はこれは当時の歌舞伎が日の出から日没まで上演した[注釈 14][注釈 15]ことによる。一方、後者は興行の中にさまざまな場面を取り込むことで多種多様な観客を満足させることを狙ったものである。

現在[注釈 16]ではこのような長大な演目の全場面を上演すること(通し狂言)はまれになり、複数の演目の人気場面のみを順に演じること(ミドリ/見取り[注釈 17])が多い。昭和のはじめごろまでは、演目を並べるときに「一番目」(時代物)、「中幕」[56](所作事または一幕物の時代物)、「二番目」(世話物)と呼ぶ習慣があったが、現在では行われていない。

また江戸時代には(当時における)現代の人物や事件やをそのまま演劇で用いることが幕府により禁止されていたため、規制逃れのため登場人名を仮名にしたうえで無理やり過去の出来事として物語が描かれるという特徴もある。しかし仮名といっても羽柴秀吉のことを「真柴久吉」と呼ぶ程度のもので、このように歪曲された演目の内容から真に描きたい事件を読み解くのは容易であった[注釈 18]
演目名と通称

江戸時代の歌舞伎狂言の演目名(外題(げだい)という)は縁起を担いで「割りきれない」奇数個の漢字で書けるものが選ばれることが多く、その読み方はを競って当て字や当て読みを駆使したものであるため、一見しただけではその読み方が分からないものも少なくない。こうした事情により、外題のほかにより親しみやすい通称がついていることが多く、この場合もともとの外題を通称と区別するために本外題と呼ぶ。また各演目の人気のある場面(段・場・幕など)には演目それ自身の通称とは別にその場面の通称がついている場合もある。

具体例は下記のとおりである。

演目そのものに通称がついている例:

都鳥廓白波』(みやこどり ながれの しらなみ) →『忍の惣太』(しのぶの そうた)

大塔宮曦鎧』(おおとうのみや あさひの よろい) →『身替り音頭』(みがわり おんど)

慙紅葉汗顔見勢』(はじ もみじ あせの かおみせ) →『伊達の十役』(だての じゅうやく)

『刈萱桑門筑紫?』(かるかや どうしん つくしの いえづと) →『刈萱道心』(かるかや どうしん)

青砥稿花紅彩画』(あおとぞうし はなの にしきえ) →『白浪五人男』(しらなみ ごにんおとこ)

与話情浮名横櫛』(よはなさけ うきなの よこぐし) →『切られ与三』(きられ よさ)

蘆屋道満大内鑑』(あしやどうまん おおうち かがみ) →『葛の葉』(くずのは)


特定の段に通称がついている例:

絵本太功記』(えほん たいこうき)十段目「尼ヶ崎閑居の場」 →『太十』(たいじゅう)

心中天網島』(しんじゅう てんの あみじま)二段目「天満紙屋内の場」→『時雨の炬燵』(しぐれの こたつ)

国性爺合戦』(こくせんや かっせん)二段目「獅子ヶ城楼門の場」→『楼門』(ろうもん)

楼門五三桐』(さんもん ごさんの きり)二幕目返し「南禅寺山門の場」→『山門』(さんもん)

平家女護島』(へいけ にょごがしま)二段目切「鬼界が島の場」→『俊寛』(しゅんかん)

恋飛脚大和往来』(こいびきゃく やまと おうらい)二段目「新町井筒屋の場」→『封印切』(ふういんぎり)

義経千本桜』(よしつね せんぼん ざくら)四段目「道行初音旅の場」→『吉野山』(よしのやま)、四段目切「河連法眼館の場」→『四ノ切』(しのきり)

なお、返し(返し幕)とはいったん幕を引くが幕間を設けず、鳴り物などで間をつなぎ用意ができ次第すぐに次の幕を開けること[63]、切とは義太夫狂言のその段の最後の場面のことで[64]、すなわち『四ノ切』とは四段目の最後の場のことをいう。『義経千本桜』の四段目の切はケレンを使った派手な演出が有名な人気の場面で、これが上演されることが特に多かったことから、ただ「四ノ切」と言えばこの場面を指すようになった。

「外題」という語は「芸題(げいだい)」が詰まって「げだい」になったとする説もあるが、古代から中世にかけては絵巻物の外側に書かれた短い本題を「外題」、内側に書かれた詳題を「内題」と言っており、これが起源だとする説もある。外題はもともと上方歌舞伎の表現で、江戸歌舞伎では名題(なだい)といっていた[65]。こちらにも「内題(ないだい)」が詰まって「なだい」になったとする説があり、上方の「外題」と江戸の「名題」で対になることが、絵巻物起源説の根拠となっている。
演出舞台上の黒衣

歌舞伎の舞台には役者に小道具を手渡すなど演技の手助けをする役割の人物がいることがあり、この人を後見(こうけん)という。特に全身黒装束に身を包んだ後見を黒衣後見(くろごこうけん)、あるいは略して黒衣(くろご)という。役者以外の人物が舞台に登場しないことが原則の通常の演劇と違い、黒衣をはじめとした後見は観客の目から見える位置に現れる。しかし後見たちが舞台にいないものとして扱うのが歌舞伎の暗黙の了解である。

黒衣以外にも、紋付の後見(着付後見(きつけごうけん)もしくは袴後見という)やの後見(裃後見(かみしもごうけん)という)もいる[66]。さらに海や水辺の場面に登場する青装束の波後見(なみごうけん)、雪の場面に登場する白装束の雪後見(ゆきごうけん、白衣(しろご)とも)などの後見がいるが、波後見は幕末、白衣はおそらく明治以降に考案されたものである[67]


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