横溝正史
[Wikipedia|▼Menu]
□記事を途中から表示しています
[最初から表示]

以降、乱歩から弟のように可愛がられ、就職を斡旋される[注 17]など、生涯に渡り交流が続いた。

1927年、継母・浅恵の遠縁にあたる女性と結婚し、その後1男2女をもうけた[8]。4歳年下の妻とは、“文壇のおしどり夫婦”として有名だった[8]。妻は結核の持病のある横溝を献身的に支え続け、その後105歳の天寿を全うした[8]

1927年から1928年9月頃まで月刊誌『新青年』の2代目編集長であった。初代編集長森下雨村より「相棒を探しておくように」と言われ、渡辺温を編集の相棒に指名する。『新青年』は当時の探偵小説文壇のみならず、文化人とクロス・オーバーする存在であり、横溝・渡辺コンビは誌面をモダニズム色強く刷新して行き、この後の『新青年』の方向性に深い影響を与えている。『新青年』が縁で知り合った乾信一郎とは、1945年から1979年まで三十数年間で272通もの書簡を送るほど親交が深かった[注 18]

1934年から5年間に渡る長野での療養生活を終えた後も肺結核の症状は完全には収まらず、仕事が重なった時など時々喀血した。しばらく安静にすると良くなって原稿を書くという生活を送り、74歳頃までこの症状が続いた[8]

1945年、義理の姉からの勧めに応じて吉祥寺の家を引き払い、両親の出身地に近い岡山県吉備郡岡田村字桜(現・倉敷市真備町岡田)に疎開[40]、そこで村の親しかった人達から農村の因習や農漁民の生活などの話を聞いて作品の構想をあたため、終戦後、『本陣殺人事件』『獄門島』など岡山を舞台とする作品を執筆した[41]

横溝の次女である児童文学作家の野本瑠美(wikidata)[42]によると、「父は日常生活を送りながら頭の中では常に作品のことを考えているような人でした」と回想している[8]。書斎の膨大な資料と共に創作活動を行い、物語の構想や犯罪のトリックなどは頭の中で組み立てた[8]。このため普段は書斎か寝室で独りで食事をとり、家族と一緒に食事をするのは正月ぐらいだった[8]。野本が10代の頃、帰宅後に横溝と散歩に出かけるのが日課だったが、散歩中も脳裏で構想を練っていたため、横溝はいつも無言で歩いたという[8]。執筆に行き詰まった際には編み物をして気分転換をしていた[8]

温厚で誰に対しても偉ぶることのない人柄はブームの中でも好感を持って迎えられ、また膨大な再刊、映画化が(角川春樹事務所が管理していたとはいえ)ほとんどスルーで実現する現象につながった。多忙期に乱作したような作品も含め片っ端から文庫に収録されるので、心配した友人の西田政治らから忠告を受け、また自身もおいおい気恥ずかしくなって、「ええ加減にしてくださいよ。これ以上出すとおたく(角川文庫)のコケンにかかわりますよ」と尻込みしたが、角川春樹に押し切られ、その結果、自身が最低と決めつけている作品でも出ると売れたことから、最高と最低を自身で決めることは僭上の沙汰ではないか、読者諸賢の審判を待つべきであると割り切ることにした[43]

横溝研究の第一人者とされる二松学舎大学の山口直孝(ただよし)教授は、「よく練られた話は、予想できない展開の連続で伏線の張り方も見事。横溝は物語作りの天才でした」と評している[8][44]

「探偵作家」を自負し、中島河太郎が横溝のことを「最後の探偵作家」と折り紙をつけたことに気を良くしており、「推理作家」と呼ばれることに抵抗を感じていた[1][注 19]。同様に、自身の小説が「推理小説」と呼ばれることを嫌い[1]、自身の小説を最後まで「探偵小説」と言い続けた[45][注 20]

横溝の長男である音楽評論家[9]横溝亮一によると、横溝が一番親しみを感じていた作家はアガサ・クリスティ[46]、酔っぱらうと「コナン・ドイルに及びもないが、せめてなりたやクリスティー」という戯れ歌をよく口にしたという[30]

戦前派探偵小説における唯一の現役作家であった(しかも晩年に突如空前のブームを迎えた)こともあり、困窮し病に伏した往年の作家仲間に援助したり、再刊の口利きをしつこく頼んでくる遺族に辛抱強く応対したりする様子も、公刊日記に控えめに記されている。

横溝は閉所恐怖症で、大の電車・飛行機嫌いであった[8][47]。電車に乗る際は必ず酒の入った水筒を首からさげ[注 21]、それを飲みながら電車を乗り継いだ。時には妻とともに乗ることもあったが、その際には妻が横溝の手をずっと握っていないとダメだったという。電車・飛行機嫌いの理由の一つに、“閉鎖空間でいつ喀血するか分からない怖さ”もあった。また、喀血だけでなく、血を見ること自体苦手だった[注 22]

酒は主に自宅での晩酌を好み、若い頃は毎晩月桂冠を1升飲み、後にウイスキーの水割りを愛飲するようになった[8][47]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:181 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef