標本_(分類学)
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微生物の場合、顕微鏡下で試料を拾って、集めてプレパラートに置くなどの作業を行うものもある。パスツールピペットや極細の柄付き針などを用いて作業するが、これは一種の名人芸に類する面がある。その技術を生かして珪藻で図案を作る人などが実在する。他方、下手な場合はその作業中に標本を壊したり、紛失させたりという話もまた聞くところである。
保存法

標本を保存可能にする方法はさまざまであるが、おおよそは乾燥標本液浸標本の二つである。
乾燥標本
乾燥状態で保存する。全身又は部分。管理が簡単で見栄えがよいが、保存される内容は少ない。
液浸(えきしん)標本
薬液に浸して保存する。原則的に全身に適用。管理がやや繁雑で見栄えはよくないが、保存される内容は多い。

固体化する溶剤に封じ込める、という方法もあるが、特殊な展示に使われることがある程度で、一般的ではない。何より、後に標本に直接に触れられないのでは研究の妨げになる。ただし、微生物やごく小さな部分などの顕微鏡観察の対象はプレパラートの形でこれが行われることもある。

標本の保存、保管は個人の所蔵でなければ博物館大学などの研究機関にゆだねられる。十分に充実した標本コレクションは、そのような機関にとっては重要な財産である。高等植物の標本コレクション、あるいはその保存機関はハーバリウムと呼ばれる。しかし、博物学の歴史が存在しない日本では、このような観点が乏しい面があり、粗末に扱われている例も聞かれるところである。
乾燥標本植物標本用の乾燥機。ファンと木製のダクトを組み合わせた手製のもの。

生物体を乾燥させることで保存する方法である。もともと構造がしっかりした生物に使われる。あるいは丈夫な構造のみをこれで保存する。一般的には柔らかいものには適用できない。

できあがった標本は乾燥室に入れて防腐剤を効かせて置けば保存できる。部屋に飾ったり箱に並べることもできるから見栄えもよい。ただし、保存されるのは原則的には外部形態のみである。植物系では細胞壁が残るから細部の構造まで残るが、動物では肉質部分の構造は期待できない。
全身を保存

最も簡単な場合は、単に陰干しで標本を作る。コケ類地衣類、比較的丈夫なキノコ類などに適用される。これらはしっかりとした細胞壁があるので、形を崩さずに標本になるし、細部は縮んでしまうが水に戻すと形態がほぼ復活する。

高等植物は形を残すために紙の間に挟んで伸ばして乾燥させる。いわゆる押し花(押し葉)であるが、専門的には押し葉標本と呼ばれる。海藻などの大型藻類も、ほぼ同様に標本にするが、縮みやすいために特に吸い取り紙を置き、強く圧力をかける。

昆虫外骨格が発達しているから乾燥標本が作れる。殺虫剤で殺し、足を広げて乾燥させる。詳しくは昆虫採集の項を参照。ただし、昆虫以外の節足動物は、ほとんどが液浸標本を標準としている。

特殊な例では、カビ類にこれを用いる例がある。ペトリ皿寒天培地を入れて培養したものを、そのまま乾燥させて保存するものである。
部分のみを保存

動物などで保存しやすい所のみを選んで乾燥標本とする場合も多々ある。その場合、標本作製の手順はいかに肉質部分を片付けるかにある。たとえば類の殻、サンゴ類や脊椎動物骨格標本などがこれである。

貝類の標本は伝統的には殻のみで行われた。生きた貝が採集された場合には、茹でて身を抜いたり、腐敗させてから洗浄したりといった方法で、肉体部を取り除き、殻のみにして乾燥保存する。脊椎動物の骨格も、同様に茹でてから肉をはぎとり、あるいは漂白剤のように有機物を分解する薬剤で処理する。自然の分解力を用いる方法もある。大柄な動物はそのまま地面に埋めて、一定時間の後に掘り出して洗うという方法も使われる。より積極的に、たとえばカツオブシムシのように死体の肉質や筋を食べる昆虫を使って、それらに食べさせることできれいにする方法もある。

毛皮を標本として残すこともある。保存法は毛皮加工の方法そのものである。さらに、毛皮を組み立てて元の動物の姿を復元するものを剥製という。これらの技術は実用面で発達した部分があり、本来は標本作製を目的にしたものではない。しかし、そのため、実用目的で作られたものにも標本としての価値が認められる場合もある。ジャイアントパンダがヨーロッパに知られた最初の標本は、敷物に加工された毛皮であった。

いずれにせよ、部分のみの標本は、限定的な役割をもつものである。場合によってはとんでもない誤解を引き起こす場合もある。貝殻など、それで全身であると錯覚を起しやすいが、そうでないことはよく把握しなければならない。日本の例であるが、洞窟内で発見された特殊な巻き貝と思われたものが、実はコウモリ蝸牛殻であった、という話がある。
液浸標本環形動物の液浸標本

生物体を薬液に浸して保存する方法である。比較的体の柔らかい動物に対しても用いられる。キノコもこれが適用される。昆虫など、外骨格があるものも、幼虫は体が柔らかいので、この方法を用いる場合が多い。

うまくできた液浸標本は、内部まで保存されているため、内臓などの特徴も保存できるのも大きな利点である。寄生虫の研究家は、大型動物の標本から自分用の標本にする材料を探す場合もある。

薬液としては、代表的なものにホルマリンアルコールがある。また、これらに様々な工夫を加えた薬液がそれぞれの分類群で提示されている。往々にして、固定液と保存液は別である。つまり、まず標本を固定液を用いて固定し、その後は保存液中に置く訳である。例えばホルマリンで固定し、アルコールで保存する、といったやり方をする。また、柔らかい動物の場合、刺激によって収縮してしまう場合もある。それを避けるため、その前に麻酔をかける方法もある。

液浸標本は、多くの生物に適用できる標本保存法である。しかし、管理する立場からは、薬液がなくなれば瓶毎に補充しなければならないし、重量も馬鹿にはできない。また、色素を溶解する薬液も多く、大抵の標本は色あせる。また、瓶詰の標本は客間に並べるには無理がある。つまり、鑑賞やコレクションには向かない。そういった点で、この方法は扱いづらいうえに魅力がないが、肉体の保存にはこの方法しかない、という部分がある。

クモなどの小型動物の標本では、薬液の蒸発を防ぐために、標本の入った小型の瓶を大きな瓶に収め、大きい瓶内にも薬液を満たす方法もある。これを二重液浸という。
プレパラート保存されたプレパラート


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