検索の抗弁権
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2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)により、事業のために負担する債務について個人が保証する場合、保証を求められた個人が自らが債務を履行する可能性を判断できるよう、主たる債務者に対して契約締結時の保証人への情報提供義務が課せられた[2]#事業に係る債務についての保証契約の特則を参照。
保証債務の効力
保証債務の範囲

保証債務は、主たる債務に関する利息違約金損害賠償のほか、債務に従たるすべてのものを包含する(447条1項)。保証人は、その保証債務についてのみ、違約金・損害賠償額を約定することができる(447条2項)。
内容における付従性

保証債務が主たる債務よりも過大になることはない。これを内容における付従性という。

保証人の負担が債務の目的又は態様において主たる債務より重いときは、これを主たる債務の限度に減縮する(448条
1項)。

主たる債務の目的又は態様が保証契約の締結後に加重されたときであっても、保証人の負担は加重されない(448条2項)。

448条2項は保証契約の締結後に主たる債務が加重されても保証人の負担は加重されないとの従来からの一般的な理解を明文化するもので、2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)で新設された[1][3]
催告の抗弁権・検索の抗弁権

保証債務には補充性から催告の抗弁権と検索の抗弁権が認められる(446条)。
催告の抗弁権
保証人は、債権者から履行の請求をされた場合に、まず主たる債務者に催告をするよう請求でき、主たる債務について一時的責任を負わされることを回避することができる。ただし、主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき、又はその行方が知れないときは、この限りでない(452条)。
検索の抗弁権
保証人は主たる債務者が債務を履行できるだけの資力を有しており、かつ執行が容易であることを証明すれば、債権者からの請求を拒むことができる。この場合、債権者はまず主たる債務者の財産について執行しなければならなくなる(453条)。

検索の抗弁を行使するためには、主たる債務者が容易に執行できる若干の財産を有していることの証明があれば足り、これによって得られる弁済が債権全額に及ぶことを証明する必要はない(大判昭8.6.13)。

債権者が催告や執行を行っても主たる債務者から全額について弁済を受けられなかった場合、再び保証人に債務の残部の履行を請求することになる。しかし、これらの抗弁権が行使された場合、債権者が直ちに催告や執行をしなかったがために弁済額が減少したのであれば、その分までを保証人に負担させることはできない(455条)。例えば、主たる債務が100万円だったとして、検索の抗弁を受けた後すぐに執行をしたなら70万円は回収できたところ、それを怠ったがために50万円しか弁済を受けられなかったとする。通常なら残る50万円は保証人の負担となるが、抗弁の後すぐに執行すれば70万円を回収できたのであるから、債権者は保証人に対して30万円しか請求することはできないのである。

これらの抗弁権は債権者にとって厄介な負担であることから、特約によって排除されることが多い。このように、債権者が、主たる債務者に催告・執行をしなくても、いきなり保証人に債務の履行を請求することができる保証のことを連帯保証という。#連帯保証を参照。
保証債務の対内的効力
主たる債務者に生じた事由の効力

付従性により、主たる債務について生じた事由は原則として保証債務にも効力が及ぶ。

主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の完成猶予及び更新は、保証人に対しても、その効力を生ずる(457条
1項)。

保証人は、主たる債務者が主張することができる抗弁をもって債権者に対抗することができる(457条2項)。

2017年の改正前の旧457条2項は「保証人は、主たる債務者の債権による相殺をもって債権者に対抗することができる。」と規定していたが、2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)で相殺の抗弁に限らず主債務者の有する抗弁事由一般について保証人も主張することができるとする従来からの法理が明文化された[1]


主たる債務者が債権者に対して相殺権取消権又は解除権を有するときは、これらの権利の行使によって主たる債務者がその債務を免れるべき限度において、保証人は、債権者に対して債務の履行を拒むことができる(457条3項)。

2017年の改正前の旧457条2項は「保証人は、主たる債務者の債権による相殺をもって債権者に対抗することができる。」と規定していたが、旧457条2項の「対抗することができる」は、保証人に主債務者の相殺権の行使(主債務者の権利を処分すること)まで認める趣旨の規定ではなく、主債務の相殺によって債務が消滅する限度で保証人も履行を拒絶することができるにとどまると解されていた[1][2]

2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)では保証人は主たる債務者が相殺等でその債務を免れるべき限度において債権者に対して債務の履行を拒むことができるという履行拒絶権であることが明文化され取消権や解除権と併せて規定された(457条3項)[1][2]

ただし、以下の事由は保証債務に影響しない。

主たる債務が加重されても保証債務は加重されない(448条)。

主たる債務の消滅時効が完成している場合、主たる債務者が時効利益を放棄しても時効利益の放棄は相対効であるから、保証人は債務の消滅を主張できる(保証人との間の保証債務は消滅)[4]

保証人に生じた事由の効力

保証人について生じた事由のうち、主たる債務を消滅させる弁済(代物弁済供託を含む)は、主たる債務者に対しても効力が及ぶ。このほか連帯保証の場合には連帯債務の規定が準用される(458条)。#連帯保証を参照。
情報提供義務
主たる債務の履行状況に関する情報提供義務

保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、保証人の請求があったときは、債権者は、保証人に対し、遅滞なく、主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない(458条の2)。

保証人が知らないうちに主たる債務者が債務不履行となり遅延損害金が増大してから保証人が履行請求を受けるのは酷であるが、金融機関等の債権者には守秘義務があり、保証人から主たる債務の履行状況等の照会に回答してよいか問題があった[2]。2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)では委託を受けた保証人の請求による主たる債務の履行状況に関する情報提供義務を定めた(458条の2)[1][2]

主たる債務の履行状況に関する情報提供は、貸金等債務に係る保証に限らず全ての保証契約が対象となる[1]。ただし、債務の履行状況等が主たる債務者の信用情報にかかわるため、請求権者は受託保証人に限られる[2](主たる債務の履行状況に関する情報提供義務は保証人が個人・法人いずれかを問わない[1])。
主たる債務者が期限の利益を喪失した場合における情報提供義務

主たる債務者が期限の利益を有する場合において、その利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その利益の喪失を知った時から二箇月以内に、その旨を通知しなければならない(458条の3第1項)。

保証人の知らないうちに主たる債務者が期限の利益を喪失した場合、保証人が突然に残債務の一括返済や増大した遅延損害金の支払いを求められるのは酷である[2]。2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)では主たる債務者が期限の利益を喪失した場合における情報の提供義務を定めた(458条の3)[1][2]。期間内の通知を怠った場合、債権者は、保証人に対し、主たる債務者が期限の利益を喪失した時から同項の通知を現にするまでに生じた遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く。)に係る保証債務の履行を請求することができない(458条の3第2項)。

主たる債務者が期限の利益を喪失した場合における情報の提供義務は、個人保証のみを適用対象としており、保証人が法人である場合には適用されない(458条の3第3項)[1][2]
保証債務の消滅
消滅における付従性

弁済や相殺によって主たる債務が消滅すれば保証債務も消滅する(消滅における付従性)。

ただし、主たる債務が債務不履行に陥って契約を解除された場合、主たる債務は損害賠償債務や原状回復義務による債務へと変化するが、保証債務はその債務をも担保する。

また、契約がいったんは有効に成立しながらも後に合意によって解除された場合、ここで生じる損害賠償や原状回復義務は合意解除の際の債権者と主たる債務者による新たな取り決めによって発生したものである。原則からいえば元の主たる債務は消滅しているのだから保証債務も消滅するのだが、この合意によって生じた債務についても保証の効果が及ぶとされる。ただし、保証人の関知しないところでなされた合意によって債務が生じるのだから、保証人に過大な責任を押し付けることも考えられる。そこで保証人を保護するため、保証債務が存続するのはその内容が従前よりも重いものではないときに限られるとされる。
求償権の問題

保証人が債権者に対して債務を弁済した場合(つまり肩代わりをした場合)、保証人は債務について最終的な責任を負うものではないから、主たる債務者に対して求償できる。しかし、保証人となった経緯に応じて求償できる範囲や方法が異なる。
委託を受けた保証人の求償権


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