検疫
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同時に、野生植物のグンバイヒルガオもアリモドキゾウムシの寄主になるため同様である。また、柑橘類などは検査を受けなければ持ち込みが出来ない。

1862年にはアメリカ合衆国ブドウからフランスブドウネアブラムシ(フィロキセラ)が広がって、周辺国を含めて枯死被害をもたらした(19世紀フランスのフィロキセラ禍)。その蔓延を防ぐための「フィロキセラ条約」が1879年に成立し、1952年に発効した国際植物防疫条約(英語版)(IPPC)の原型となった。1992年には国際連合食糧農業機関(FAO)内にIPPC事務局が置かれ、2019年5月時点で183カ国・地域が加盟するまで拡大した。海外旅行者の増加、インターネット販売など経済のグローバル化により検疫の重要性が高まっているため、国連は2020年を「国際植物防疫年」とした[5]
動物

家畜伝染病予防法狂犬病予防法及び感染症法に基づき動物、動物加工品などの検疫を行っている。

家畜伝染病の多くは、少しの肉であっても感染の可能性があるため、加工肉であっても持ち込ませない対応がとられている。もし肉の輸出入を行う場合は、監視伝染病の病原体を拡散するおそれがないことを家畜防疫官に証明する書類を提示しなければならない[6]
競走馬
競馬においては、馬が国外のレースに出走する場合も多く(国際競走)、その際は検疫厩舎で出国時と帰国時に定められた検疫を受けなければならない。日本(=日本国外のレースに出走する日本の馬、あるいは日本のレースに出走する日本国外の馬)においては、検疫期間は通常7日間で、成田国際空港などを利用する際は、千葉県にある日本中央競馬会(JRA)の競馬学校で、関西国際空港などを利用する際は、兵庫県にある三木ホースランドパークで検疫が行われることが多い。稀に競馬場で行われる場合もある。
宇宙船と宇宙飛行士

人類初の人工衛星スプートニク1号打上げの翌年である1958年に「地球外探査による天体汚染に関する特別委員会」が組織され(翌1959年に国際宇宙空間研究委員会へ改名)、惑星保護の方針が策定された。この方針では、「地球由来の生命および生命由来物質を他天体に持ち込まない」「生命の存在が予想される天体から地球に帰還する際には滅菌、もしくは完全な封じ込めを行う」などの検疫の方針が決定された[7]

アポロ計画では月の伝染病を警戒して月面着陸した宇宙飛行士を一定期間検疫するために移動式検疫施設(英語版)が4台開発された。宇宙船本体には殺菌薬ポビドンヨードを、宇宙飛行士たちは生物学的隔離服(Biological Isolation Garment)を着用し、体に次亜塩素酸ナトリウム製剤を塗布して、月からの伝染病を持ち込まないようにした。月が無菌状態であり、そういった警戒が必要ないと分かったアポロ14号以降は検疫が廃止された。

火星探査プログラムなどの地球の生物が繁殖しうるハビタブルゾーンに宇宙機を輸送するミッションでは、国際宇宙空間研究委員会(COSPAR)の定めた惑星防疫手順にしたがって防疫が行われる[8]
その他
紙幣
2020年、
新型コロナウイルス感染症の流行の際には、紙幣新型ウイルスの感染源になるとして複数の国で消毒や検疫が試みられた。アメリカでは、連邦準備制度理事会 (FRB) が、アジア地域から国内へ戻ってきたドル紙幣を7-10日間隔離する検疫を行った[9]
生物多様性に関連して

検疫とは、元来は上記のように病原体や害虫などの有害生物の侵入を防ぐ意味を持つものであった。しかし、近年では、生物多様性の観点からの検疫も行われる。典型的な例はオーストラリアで、雑草種子が含まれている可能性のある品目など、国外から生きた動植物や食料品が入ることを厳しく制限している。これは、オーストラリアの生物相が、世界の他の地域に比べて特異であり、これまでに国内に持ち込まれた他地域の生物が、オーストラリア大陸で大被害を与えた例が多々あることと共に、国内の特異な生物相を保護することを目ざしての措置である。

なお、ガラパゴス諸島では更に厳格な措置が設けられ、島に立ち入る際には足を洗わなければならない。
日本における検疫

この節は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。ご自身が現実に遭遇した事件については法律関連の専門家にご相談ください。免責事項もお読みください。

日本における検疫の手続は検疫法(昭和26年6月6日法律第201号)などの法令による。検疫法は国内に常在しない感染症の病原体が国内に侵入することを防止することなどを目的として制定されているものである(検疫法第1条)。なお、日本国内での感染症予防や感染症患者に対する一般的な措置については「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症予防法)の項目を参照。
検疫感染症

検疫の対象になる、検疫感染症については、検疫法第2条の各号で次のようなものが指定されている(検疫法第2条の1号から3号までの区分により隔離や停留などの内容が異なる)。

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症予防法) に規定する
一類感染症(検疫法第2条1号)一類感染症については感染症予防法第6条2項に規定があり、具体的には、エボラ出血熱クリミア・コンゴ出血熱痘そう(天然痘)南米出血熱ペストマールブルグ病ラッサ熱が指定されている。

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症予防法)に規定する新型インフルエンザ等感染症(検疫法第2条2号)新型インフルエンザ等感染症については感染症予防法第6条7項に規定がある。

国内に常在しない感染症のうちその病原体が国内に侵入することを防止するためその病原体の有無に関する検査が必要なものとして政令で定めるもの(検疫法第2条3号)政令として検疫法施行令第1条に規定があり、具体的には、ジカウイルス感染症新型コロナウイルス感染症(病原体がベータコロナウイルス属のコロナウイルス(令和二年一月に、中華人民共和国から世界保健機関に対して、人に伝染する能力を有することが新たに報告されたものに限る。)であるものに限る。)、チクングニア熱中東呼吸器症候群(病原体がベータコロナウイルス属MERSコロナウイルスであるものに限る。)、デング熱鳥インフルエンザ(病原体がインフルエンザウイルスA属インフルエンザAウイルスであってその血清亜型がH5N1またはH7N9であるものに限る。)、マラリアが指定されている。

検疫法の適用

検疫感染症の疑似症及び無症状病原体保有者に対する検疫法の適用基準については検疫法第2条の2に定めがある。

検疫法第2条1号に掲げる感染症の疑似症を呈している者については、同号に掲げる感染症の患者とみなして検疫法が適用される(検疫法第2条の2第1号)。

検疫法第2条2号に掲げる感染症の疑似症を呈している者であって当該感染症の病原体に感染したおそれのあるものについては、同号に掲げる感染症の患者とみなして検疫法が適用される(検疫法第2条の2第2号)。

検疫法第2条1号に掲げる感染症の病原体を保有している者であって当該感染症の症状を呈していないものについては、同号に掲げる感染症の患者とみなして検疫法が適用される(検疫法第2条の2第3号)。

隔離の措置

検疫所長は検疫法第2条1号・2号に掲げる感染症患者を隔離し、また、検疫官に感染症患者を隔離させることができる(検疫法第14条1項1号)。日本の検疫法上の隔離の措置は、既に検疫感染症にかかっていることが明らかとなった患者を対象とする措置である。

隔離される医療機関(検疫法第15条1項)

検疫法第2条第1号に掲げる感染症の場合 - 特定感染症指定医療機関、第一種感染症指定医療機関

検疫法第2条第2号に掲げる感染症の場合 - 特定感染症指定医療機関、第一種感染症指定医療機関、第二種感染症指定医療機関ただし、緊急その他やむを得ない理由があるときは、これら以外の病院・診療所で検疫所長が適当と認めるものにその入院を委託することができる。


病原体保有の確認隔離されている者やその保護者(親権を行う者又は後見人)が、検疫所長に対して隔離されている者の隔離を解くことを請求した場合(検疫法第15条4項)には、検疫所長は隔離されている感染症の患者が感染症の病原体を保有しているかどうかの確認をしなければならない(検疫法第15条5項)。

隔離措置の解除検疫所長は隔離の措置がとられている感染症の患者について感染症の病原体を保有していないことが確認されたときには、直ちに隔離の措置を解かなければならない(検疫法第15条2項)。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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