栽培植物
[Wikipedia|▼Menu]
栽培植物に現れる適応現象


ヒマワリと、その原種とされるHelianthus giganteus(英語版)。油料作物として栽培されるヒマワリは頭花が大きく側枝の無いものが選択されたと考えられる[7]
バナナの原種とされるリュウキュウバショウ。多数の種子がある。

栽培植物に現れる適応現象として以下のものが知られている。
非脱粒性の出現
イネ類の野生植物は種子が熟すと自然に脱粒して播種する仕組みを持つが、栽培化されたイネはこの特性が失われているため収穫性がよく、軸から種子を引き離すために脱穀が行われる[2][1][7]
発芽抑制の欠如
イネ類の野生植物では種子が地面に落下しても即座に発芽することなく一定期間休眠する。この特性を休眠性と呼ぶが、栽培化によってこれが失われ、人為的に播種された後に短期間で発芽するようになり栽培が管理しやすくなった。こうした変化は、発芽の悪い(休眠している)種子が間引かれたことで無意識に選抜が行われたとされる[2][7][7]
器官の大型化
根が大型化したダイコン類など、利用される器官が大型化・特殊化するもの。葉菜・根菜・イモ類・果実などに顕著である[2][1][7]
完熟期の同時性
野生植物ではバラつきがあった完熟期が、栽培化によって同時に完熟を迎えるようになり、収穫性がよくなった[2]
つる性から草性へ
ダイズのように栽培化によってつる性が失われて草性に変化したものや、トマトのようにツルの伸育性が有限になったものがある[2][7]
他殖性から自殖性へ
トウガラシやイネなどは限られた個体数でも確実に収穫が得られるよう、生殖様式が自殖性に変化した[1]
不稔性への変化
バナナウンシュウミカンのように果肉を最大限に得るために、受粉しても種子をつくらなくなったものがある[1]
日長性の変化
植物の生育が昼の長さ(日長条件)に支配される事があるが、生育環境に合わせてこれが変化し、耐寒性や耐干性が向上したもの。イネの高緯度での栽培はこの変化によるものとされる[1][7]
成分の変化
イネ科穀類のうちもち米は貯蔵デンプンアミロペクチンのみで粘り気(モチ性)を得た。こうした変化は突然変異種が人為的な選択によって維持されたと考えられるが、東アジアと島嶼部に限定してみられる特性で、食文化と強く結びついた栽培化と考えられる[1][7]
毒性の減少
インゲンマメジャガイモなど、有毒成分や苦味成分が少なくなったものがある[1][7]
研究史

ダーウィンの『種の起源』(1859年)以来、人為選択が動植物の進化に与える影響について遺伝学者の関心が集められてきた[10]。なかでも人間による栽培(農耕)により栽培植物が発生していたことは早くから知られていたが、それらの起源について最初に体系的な研究を行ったのはアルフォンス・ドゥ・カンドールである。カンドールは植物地理学や言語学などの知識を統合し『栽培植物の起源(原題: Origine des plantes cultivees)』(1883年)を著した。1920年以降は、ニコライ・ヴァヴィロフやジャック・ハーラン(英語版)が、栽培植物の起源地を探る研究を行った。ヴァヴィロフは、個々の栽培植物の起源地を探ると、いくつかの中心地に纏められると考えた。またハーランは、ヴァヴィロフの中心地よりも広い地域で複数の栽培植物が起源したと考えた。現在では、多くの栽培植物の起源地が特定できているが、おおよそ2人の説の間になっている[9]

また、長らく栽培植物の起源についての研究は観察による直感や類似性からの推察に終始していたが、20世紀末以降は栽培植物のゲノム解析が進み、栽培化の過程の解明や、栽培化遺伝子の特定が行われている[11]。近年は遺伝子組み換えによって特定成分を増減することも可能になっており、エルカ酸を含まない菜種油(キャノーラ油)がその代表である[7]

また、こうした研究は植物考古学(英語版)に応用されている。1990年代に圧痕レプリカ法が確立され、日本の考古学の分野では土器に残された植物の痕跡から先史時代の植生の研究が進み、ダイズ属(野生種のツルマメ)の種子が縄文時代中期以降に大型化することが確認された。ダイズの変化は栽培化によるものと推測され、また同様の傾向はアズキ属(現生のヤブツルアズキ)にも見られることから、この時期に初期段階の農耕が始まったとする説が有力になりつつある[12][13][14]
脚注[脚注の使い方]^ a b c d e f g h 阪本寧男 2009, p. 26-28.
^ a b c d e f 中山誠二 2019, p. 46-47.
^ a b コトバンク: 栽培植物.
^ a b 阪本寧男 2009, p. 17-18.
^ a b c 阪本寧男 2009, p. 18-23.
^ 河原太八 2021, p. 3-4.


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:40 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef