根毛
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シロイヌナズナでは、根毛形成細胞の根端側の端付近から根毛が形成される[7]。根毛が生じる部分にROP (RhoタイプGTPase) が蓄積し、これがグアニンヌクレオチド交換因子 (GEF) によって活性化されてNADPHオキシダーゼを活性化、これによって活性酸素種が生成され、これがカルシウムイオンの流入を促進して根毛の伸長を促進すると考えられている[7][9][10]。根毛形成部の細胞壁pHが4?4.5に低下し、細胞壁酵素のエクスパンシンが活性化、細胞壁がゆるみ、バルジとよばれる膨らみが形成される[5]。バルジの部分にはアクチン繊維が蓄積し、多数の小胞が送り込まれる[5]。小胞には細胞壁成分が含まれており、これがエクソサイトーシスすることで先端部に膜と細胞壁成分が供給されて根毛が伸長(先端成長)する[5]。また先端部における低pHと高カルシウムイオン濃度が、根毛の極性維持と先端成長に関連していると考えられている[5][9]。根毛の成長速度は秒速10?40ナノメートルに達する[7][9][5]

根毛形成に見られるCPCを用いた制御系は、表皮に形成される突起毛や腺毛などにも見られ、根毛も含めてこれらの構造は毛状突起(トライコーム)と総称される[8][11]

根毛は維管束植物胞子体染色体を2セットもつ体)のにできる構造であるが、コケ植物の配偶体(染色体を1セットもつ体)にできる構造である仮根と類似した遺伝子系によって制御されていることが知られている[12]
機能4. ジャコウアザミ (キク科) の芽生え: 根に根毛が密生している。

根毛は非常に細く大量に生じているため、根に大きな表面積を提供している(図4)。ふつう根毛は、根の表面積の 70?90% を占めている[13]。発芽後4ヶ月目のライムギ (イネ科) の個体では、根毛の数は140億本、これをつなぐと長さ1万キロメートルに達するとされる[13]

一般的に、根毛の主な機能は表面積の拡大により、土壌から水や無機栄養分を効率的に吸収することにあるとされる[7][13]。無機栄養分が過剰に存在する条件では、根毛の形成が著しく抑制される[14]。ただし根はふつう菌根菌と共生しており、植物の成長に必要な窒素の80%、リンの100%を菌根菌が供給していることもある[15]

カヤツリグサ科イグサ科の一部に見られるダウシフォーム根(dauciform root)やサンアソウ科に見られるキャピラロイド根では根毛が特に発達して房状になっており、リン吸収に特に適応したものであると考えられている[16]

根毛によって吸収された水 (無機養分を含む) は、原形質 (シンプラスト経路) または細胞壁など原形質外 (アポプラスト経路) を通して中心柱へ輸送される[17]。中心柱はカスパリー線をもつ内皮によって囲まれているため、中心柱に入る物質は必ず内皮細胞の原形質を通り、その際に選択・調整される[17]

また根毛は、根を土壌粒子に密着させて固定する役割も担っている[7][18]

マメ科植物は、窒素固定を行う細菌と共生して根粒を形成する。根粒形成においては、根粒菌が侵入する通路である感染糸 (infection thread) が根毛内に形成される[7][19]

このように根毛はさまざまな機能をもつが、生存に不可欠な構造ではない。そのため不完全な根毛をもつものやこれを欠失するものなどの突然変異体も生存可能であり、これを用いた研究が広く行われている[5]
根毛を欠く植物5. コウキクサ (サトイモ科) の水中根は根毛を欠く。

水生植物寄生植物菌根菌に大きく依存している植物 (菌従属栄養植物など) ではしばしば根が退化的であり、根毛を欠く種もいる。例えば水生植物であるウキクサ属 (サトイモ科) やヒシ属 (ヒシ科) などは根毛をもたない[4](図5)。また通常の植物でも、水耕栽培すると根毛の発達が悪かったり、根毛が生じないこともある[3]寄生植物であるヤドリギ属 (ビャクダン科) やネナシカズラ属 (ヒルガオ科)、菌根菌に大きく依存しているハナヤスリ類 (マツバラン綱) やイチヤクソウ属 (ツツジ科) なども根毛を欠く[4][20]
ギャラリー

レタス (キク科) の芽生え: 根に根毛が密生している。

ジャコウアザミ (キク科) の芽生え

トウモロコシ (イネ科) の根の横断面: 周縁に多数の根毛が見える。

根毛が生えた根

脚注[脚注の使い方]
出典^ Esau's Plant Anatomy: Meristems, Cells, and Tissues of the Plant Body: Their Structure, Function, and Development. Wiley-Liss. (2006-09-12). p. 236 
^ a b c d e f 巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編) (2013). “根毛”. 岩波 生物学辞典 第5版. 岩波書店. p. 506. .mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}ISBN 978-4000803144 


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