株式会社
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累積投票には、少数株主の利益を反映できるというメリットがある反面、取締役が会社全体よりも党派的利益を優先してしまう、大規模公開会社では議決権の代理行使の方法が過度に複雑化するといった問題点もある[85]
議決権上限制
日本・ドイツ以外では、株主の議決権の個数に上限を設けて(例えば、持株数の多い株主も5%までしか議決権を行使できない)大株主の影響力を制限することを認める国が多く、オランダ、フランス、スイスでは現在も一般的に行われている。ただし、これは少数株主の保護というよりは買収防衛策としての面が強いとされている。一方、日本と現在のドイツは1株1議決権の原則(株主平等の原則)をとっており、株式数よりも議決権を多く、又は少なく与えることはできない[86]
特別多数決

その他の利害関係者の保護

会社と従業員(労働者)との関係は雇用契約に基づくものであり、労働者の保護は主に労働法によって図られるが、国によってコーポレート・ガバナンスに労働者の利益を取り入れた制度がある。
従業員代表者の取締役会への参加
ヨーロッパの多くの国では、取締役会に従業員(労働者)の代表が入るのが特徴であり、EU加盟国(2004年当時)の中で、何らかの形で従業員代表者が参加する制度がない国は、ポルトガルベルギーイタリア、イギリスだけである。アイルランドスペインギリシアでは国有企業にのみ従業員取締役が必要とされている。フランスでは、従業員が50人を超える会社では投票権のない従業員代表者が取締役会に出席することが必要とされるとともに、会社の選択により、取締役会の3分の1まで従業員が選出することが可能である。スウェーデンでは、取締役のうち3人までは労働組合から選任されなければならないとされている(ただし労働関係の問題を取り扱うときは取締役会に出席できない)。ドイツの従業員数500人?2000人の会社、及びオーストリアルクセンブルクでは、従業員取締役が取締役会の3分の1を占めることとされている。そして、ドイツの従業員数2000人超の会社では、1976年共同決定法により、株主から選任された取締役と従業員から選任された取締役が監督取締役会の半数ずつを占める上、従業員代表者は経営取締役会のメンバーの任命について拒否権を有している[87]

一方、会社と債権者との関係は、消費貸借契約などの契約に基づくものであり、債権者の保護は契約法や担保法によって図られるが、会社法上も会社債権者の保護のための制度が設けられている。
取締役・執行役員の義務
多くの国で、取締役や執行役員は株主以外の利害関係者に対し何らかの形で義務を負うこととされている。イギリスでは、取締役は、会社が支払不能に陥ったことを認識していたとき、又は認識すべきであったときは、第三者を害する取引を行ってはならないとされる。アメリカでも、取締役の信認義務は株主に対してだけではなく債権者に対しても及ぶというのが判例であり、また、多くの州の制定法で、取締役会が重要な判断に際して株主以外の利害関係者の利益を考慮することを明示的に認めている。日本では、取締役等が悪意又は重過失によって第三者に損害を与えたときは、第三者に対して損害賠償責任を負うとされる[88]

そのほか、債権者保護のための会社法上の制度としては、最低資本金制度、配当規制などがある。
資金調達

会社が事業を行うためには、資金が必要である。会社を設立する際には、前述のように、株式を発行して外部から資金を調達する必要があるが、設立後は、内部資金と外部資金という二つの資金源が考えられる[89]

内部資金とは、事業活動によって得られた利益の内部留保(株主に配当しないで会社内に留保する利益)、又は減価償却の累積による手持ちの資金をいう。内部資金は調達にかかる費用がほとんどかからないが、多くの場合、内部資金だけでは資金需要をまかなうことができない[90]

外部資本の調達方法には、(1)銀行等の金融機関からの借入れ、(2)新株発行、(3)社債発行などの方法がある。借入れ(間接金融)は、資金を機動的に調達できる方法であり、実際に広く用いられているが、返済の必要があり、また担保を要求される。これに対し、新株発行や社債による資金調達(直接金融)は、低コストで、広く多数の者から巨額の長期資金を集めることができる方法である[91]

銀行借入れや社債は、一定の弁済期(償還期)までに元本利息弁済(償還)しなければならない債務(デット)であり、貸借対照表上は負債の部に計上される。一方、株式は、会社にとっては償還や配当の義務を負わない自己資本(エクイティ)であり、貸借対照表上は純資産の部に計上される。債務と株式は、次のような点で異なる[92]

債務の場合、債権者(銀行、社債権者)が受け取るキャッシュフロー(利息)は契約で確定しているのに対し、株主の受け取るキャッシュフローは事前に確定しておらず、会社が債務を支払った後のすべての財産が株主に帰属する。そのため、投資者から見て、株式による投資はリスクが大きいと同時に事業が成功した場合は大きなリターンを期待できる。

債務の場合、弁済期に支払がされないと債務不履行(デフォルト)になるのに対し、株式の場合には、債務不履行が生じることはない。

株主は、会社の社員であり、株主総会における議決権など、各種の経営参加権・経営監督権を有する。

もっとも、社債であっても、償還期限を極めて長くとり、利息の支払を利益に依存することとし、他の債務に劣後することとすれば株式に近づくし、株式でも、非参加的・累積的配当優先株で、かつ償還株式・無議決権株とすれば普通社債に近づくなど、経済学的に見ると、株式と社債(債務)の境界はあいまいである[93]
コーポレート・ファイナンス

コーポレート・ファイナンス論(経営財務論)では、自己資本と負債の最適な比率(資本構成)について議論がされてきた。会社は、負債による資金調達(デット・ファイナンス)の場合には債権者から一定の利子率を要求される一方、自己資本による資金調達(エクイティ・ファイナンス)の場合にも株主から一定の利益率を要求されることから、適切な資本構成によってこれらの資本コストを最小化できるかが問題とされている[94]

株主として出資しようとする投資家の観点から見れば、利子率が一定の負債による資金調達が増えることによって、会社に利子率を上回る利益が出た場合に株主に残る利益率(リターン)は大きくなる。これをレバレッジという。しかし、同時に、会社の利益が少なかった場合にも一定の利子が差し引かれるため、株主には期待していた利益が残らない(場合によって大きな損失を生じる)というリスクも増幅される[95]。コーポレート・ファイナンスの伝統的理論では、資本コストを最小にするような最適の資本構成が存在すると考えられていたが、ミラー=モジリアーニ理論(MM理論)は、負債比率(レバレッジ)を高めることにより利益率の期待値が高まる効果はリスクの増大で相殺されてしまい、株主となろうとする者が要求する利益率(資本コスト)は変わらないことを明らかにした。これによれば、資本市場が完全競争市場であるなど一定の条件を前提とすると、資本コストを最小化するような最適な資本構成は存在しないこととなる[96]

以上のMM理論は課税を考慮しない場合の結論であるが、自己資本の場合、会社の利益に所得課税(日本では法人税)が行われた後、株主が受け取る配当にも所得課税(日本では個人株主であれば所得税)が行われるという二重課税が生じるのに対し、負債の場合、支払利息は会社の課税所得から控除され、債権者側で受け取る利息にのみ所得課税が行われるため、税制上は通常(税率等によるが)デット・ファイナンスの方が資本コストが低くなり、有利であるといえる[97]
新株発行(増資)ニューヨーク州1849年に設立されたパナマ鉄道会社の株券(100株)。

会社設立後、新たに株式を発行して資金を調達することを、新株発行という(実務では「増資」ともいう)。

新株発行の方法には、誰に株式を割り当てるかによって、(1)既存株主に、持株数に応じて募集株式の割当てを受ける権利を与える株主割当て、(2)既存株主を含め、一般に引受人を募集する公募、(3)特定の第三者に株式を割り当てる第三者割当ての3種類ある。第三者割当増資は、資金調達のためよりも、業務提携や企業買収、又は買収対抗策などの手段として用いられることが多い[98]

株主割当ての場合は、既存株主の持株比率も、株式の経済的価値も影響を受けないが、公募又は第三者割当ての場合には、次の2点で株式の希薄化 (dilution) が起こり、既存株主の不利益となる可能性がある[99]
持株比率の低下
株主割当て以外の新株発行では、既存株主は、自ら割当てを受けない限り持株比率が低下する。特に人的つながりの強い閉鎖会社では、持株比率が株主自身の役員としての地位と結び付いている場合が多く、不利益が大きい上、市場で株式を取得して持株比率を維持することもできないため、持株比率の保護は重要な意味を持つ[100]
有利発行による経済的価値の希釈
株主割当ての場合は、新株の発行価格がいくらであっても既存株主の経済的利益には影響がないが、株主割当て以外の場合は、株式の本来の価値よりも低い価額で新株が発行されると(有利発行)、1株当たりの経済的価値が下落し、既存株主の不利益となる[101]

そのため、各国で、以下のように既存株主の利益を守るための手続規制が設けられている[102]
株主総会の承認
上記のとおり新株発行は既存株主の利益に影響を及ぼすため、各国とも、新株発行には何らかの形で株主総会の承認を要することとしているが、他方で、市場の状況等に応じた機動的な資金調達を行う必要性もある[103]。日本の公開会社及びアメリカでは、定款で発行が認められた発行可能株式総数(授権株式数)の範囲内で、取締役会の判断で発行条件を定め、新株を発行することができる((授権資本制度)。授権株式数を増やすには株主総会の承認が必要であるが、多くの場合、現実に発行されているのは授権株式の一部なので、その都度株主総会の承認を受けることなく発行することができる。


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