株式会社
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フランスでも、経営陣が銀行等の金融機関と協力して白紙委任状を集めることができ、経営陣の地位は比較的安定している[68]
重要な判断に対する株主の関与
アメリカでは、所有と経営を比較的厳格に分離しており、株主が経営について直接判断することに慎重である。アメリカの多くの州では、定款の変更、合併・統合、解散、重要資産の売却等には株主の承認が必要とされているが、株主からこれらの事項を提案することはできず、またその他の事項について株主が判断することも認められていない[69]。ドイツでは、株主には定款の変更や合併について承認権があるほか、取締役会に対しこれらの措置をとるよう要求することができる。また、制定法に明示的に定められたもの以外にも、重要な事項について判断する権限があるというのが判例である。日本、フランス、イギリスでは、取締役会が反対する場合でも、少数株主が定款変更などの株主総会決議を提案することができる[70]
取締役会の中立性の確保
エンロンの粉飾会計に関与した監査法人アーサー・アンダーセンに対し、アメリカ合衆国下院のエネルギー小委員会で行われた証人喚問(2002年1月24日)。 アメリカでは、2001年エンロン破綻を機に、主な証券取引所は、独立取締役が取締役会や委員会の多数を占めることなどを要求するようになり、また証券取引委員会 (SEC) も、公開会社について、監査委員会に独立の財務専門家を置いているか(置いていないとすればその理由)を開示することを求めるようになった[71]。また、イギリスやアメリカでは、経営の最高責任者であるCEOと取締役会の会長(議長)が分離され、取締役会会長は非従業員が務めるのが一般的である[72]
報酬によるインセンティブ
アメリカでは、ストック・オプションの付与など、経営者の報酬を株主価値の増大に連動させることで経営者に対するインセンティブを与えることがあり、その他の国でもこれにならう会社がある[73]
取締役の注意義務・忠実義務と損害賠償責任
取締役は、会社に対し、注意義務 (duty of care) と忠実義務 (duty of loyalty) を負っている[74][注釈 5]。注意義務は、取締役が故意又は過失によって会社に損害を与えることを禁じるものであり、これに違反したときは取締役は会社に対し損害賠償責任を負う。しかし、事後的に経営判断の是非を評価することは難しいこと、過度に厳格な責任を負わせると取締役に萎縮効果が生じることから、取締役の経営判断に対しては広い裁量を認めるのが各国の傾向である。裁判所は経営判断に事後的に介入しないという経営判断の原則がアメリカの判例上認められており、日本の裁判例でも同様の判示がされている[75]。忠実義務は、自己又は第三者の利益を会社の利益よりも上位に置いてはならないという義務である。特に、(1)会社と取締役の間の財産の譲渡、会社から取締役への金銭の貸付けなどの利益相反取引、(2)取締役による競業については、取締役が自己又は第三者の利益を図って会社の利益を犠牲にするおそれがあるため、規制が設けられている[76]。取締役がこれらの義務に違反した場合、会社が取締役に対し損害賠償請求を行わないときは、株主が会社に代わって取締役を訴えることができる制度が設けられている。これを株主代表訴訟という[77][注釈 6]
内部統制システムの整備
内部統制システムとは、財務報告の信頼性、業務執行の効率性、コンプライアンス(法令遵守)を確保するための体制をいう[78]。日本の新会社法では、大会社については取締役会で内部統制システム(リスク管理体制)[注釈 7] 構築の基本方針を決定しなければならないこととされた[79]
証券市場の役割と企業買収
上場会社の場合、株価は会社の経営成績を評価して絶えず変動する。株価の下落・低迷は、最終的には経営者(取締役、執行役員)の解任につながるため、経営者に、株主の利益に反する(株価の下落につながる)行動を控えさせる効果がある。また、証券取引法制や証券取引所の規則によって要求される情報開示 (disclosure) も、コーポレート・ガバナンスに寄与している[80]。同時に、証券市場株式市場)を通じて行われる企業買収 (M&A) は、コーポレート・ガバナンスの上で非常に重要な役割を果たしている。アメリカでは、1980年代に企業買収がさかんに行われた。このような企業買収(特に現経営陣の意思に反して行われる敵対的買収)には否定的評価もあるが、買収による企業の再構築によって不採算事業への過剰投資が削減され、株主だけでなく社会全体も産業の効率化による利益を得たとの指摘がされている[81]
少数株主の保護

少数株主の利益を保護するためのコーポレート・ガバナンスの仕組みには、次のようなものがある。
累積投票制
複数の取締役を選任する場合、通常は1人ずつ選任決議を行うため、全員が多数派株主から選ばれる。これに対し、
累積投票制で議決を行うと、少数派株主からも取締役選任の可能性が生まれる。これは、D人の取締役を選任する場合には1株につきD個の議決権を与え、その議決権を1人の候補者に集中して投票しても、数人の候補者に分散して投票してもよいとするものである。これにより、少数株主も、議決権を一部の候補者に集中することで、取締役への選任をさせることが可能となる[82][注釈 8]。アメリカでは、必ず累積投票を行わなければならない州もあるが、現在、多くの州では会社が設立文書によって選択できるようになっている[83]。日本では、株主から請求があった場合には累積投票を行わなければならないとされているが、定款の定めによって、累積投票を行わないこととすることができる[84]。累積投票には、少数株主の利益を反映できるというメリットがある反面、取締役が会社全体よりも党派的利益を優先してしまう、大規模公開会社では議決権の代理行使の方法が過度に複雑化するといった問題点もある[85]
議決権上限制
日本・ドイツ以外では、株主の議決権の個数に上限を設けて(例えば、持株数の多い株主も5%までしか議決権を行使できない)大株主の影響力を制限することを認める国が多く、オランダ、フランス、スイスでは現在も一般的に行われている。ただし、これは少数株主の保護というよりは買収防衛策としての面が強いとされている。一方、日本と現在のドイツは1株1議決権の原則(株主平等の原則)をとっており、株式数よりも議決権を多く、又は少なく与えることはできない[86]
特別多数決

その他の利害関係者の保護

会社と従業員(労働者)との関係は雇用契約に基づくものであり、労働者の保護は主に労働法によって図られるが、国によってコーポレート・ガバナンスに労働者の利益を取り入れた制度がある。
従業員代表者の取締役会への参加
ヨーロッパの多くの国では、取締役会に従業員(労働者)の代表が入るのが特徴であり、EU加盟国(2004年当時)の中で、何らかの形で従業員代表者が参加する制度がない国は、ポルトガルベルギーイタリア、イギリスだけである。アイルランドスペインギリシアでは国有企業にのみ従業員取締役が必要とされている。フランスでは、従業員が50人を超える会社では投票権のない従業員代表者が取締役会に出席することが必要とされるとともに、会社の選択により、取締役会の3分の1まで従業員が選出することが可能である。スウェーデンでは、取締役のうち3人までは労働組合から選任されなければならないとされている(ただし労働関係の問題を取り扱うときは取締役会に出席できない)。ドイツの従業員数500人?2000人の会社、及びオーストリアルクセンブルクでは、従業員取締役が取締役会の3分の1を占めることとされている。そして、ドイツの従業員数2000人超の会社では、1976年共同決定法により、株主から選任された取締役と従業員から選任された取締役が監督取締役会の半数ずつを占める上、従業員代表者は経営取締役会のメンバーの任命について拒否権を有している[87]

一方、会社と債権者との関係は、消費貸借契約などの契約に基づくものであり、債権者の保護は契約法や担保法によって図られるが、会社法上も会社債権者の保護のための制度が設けられている。
取締役・執行役員の義務
多くの国で、取締役や執行役員は株主以外の利害関係者に対し何らかの形で義務を負うこととされている。イギリスでは、取締役は、会社が支払不能に陥ったことを認識していたとき、又は認識すべきであったときは、第三者を害する取引を行ってはならないとされる。アメリカでも、取締役の信認義務は株主に対してだけではなく債権者に対しても及ぶというのが判例であり、また、多くの州の制定法で、取締役会が重要な判断に際して株主以外の利害関係者の利益を考慮することを明示的に認めている。日本では、取締役等が悪意又は重過失によって第三者に損害を与えたときは、第三者に対して損害賠償責任を負うとされる[88]

そのほか、債権者保護のための会社法上の制度としては、最低資本金制度、配当規制などがある。
資金調達

会社が事業を行うためには、資金が必要である。会社を設立する際には、前述のように、株式を発行して外部から資金を調達する必要があるが、設立後は、内部資金と外部資金という二つの資金源が考えられる[89]

内部資金とは、事業活動によって得られた利益の内部留保(株主に配当しないで会社内に留保する利益)、又は減価償却の累積による手持ちの資金をいう。


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