染料昇華印刷
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2013年にエプソンがピエゾ方式インクジェット昇華転写型テキスタイルプリンターで参入、2019年にHPがサーマル方式インクジェット昇華転写型テキスタイルプリンターで参入するなど、インクジェットプリンター大手が昇華インクジェットプリンターによってテキスタイル印刷業界に参入する事例が相次いている。

「昇華ジェルジェット印刷」と混同しないように注意が必要である。昇華ジェルジェット印刷とは、リコーがビジネス向けプリンター「IPSiO」向けに開発した特殊な「GELJETビスカスインク」を使用した方式で、インクが実際に昇華する。「ジェルジェット」はリコーの登録商標であり、リコーは新カテゴリー「ジェルジェットプリンター」と主張しているが、一般的にはインクジェットプリンターの一種とされる。ジェルジェットを用いた印刷は染料昇華印刷における再転写方式とやり方は同じだが、より低い温度で、より高い圧力で行われれる。ジェルジェットは粘度の高い顔料インクを使用しており、通常の顔料よりも乾きが早く、また染料のように滲むこともない。なので、IPSiOは競合他社のビジネス向けインクジェットプリンターより印刷が早く、レーザープリンターと比べてインクが安い利点がある。一方、競合他社のインクジェットプリンターと比べて写真の印刷が汚いので、家庭用向けには展開されておらず、文書の印刷が主なビジネス向けのみとなっているが、ジェルジェットは滲みが少ないので、ノベルティマグカップの印刷などにおいてよく利用される(特にキャラ物の同人ノベルティマグカップに強く、コミックとらのあなのグッズ制作部門「とらのあなクラフト」が採用している)。

2018年現在、主にフォトプリンタとして使われる民生用昇華型熱転写カラープリンターのシェアはキヤノンの「SELPHY」シリーズが1位。また、民生用昇華再転写型インクジェット式カラープリンターとしては、エプソンが一応「SureColor」シリーズで展開しているが、装置がとても大掛かりになるので、家庭内で一定数のグッズを製造するSOHO業者でもない限りは一般人には厳しい。主に業務用のフォトプリンターとして使われる昇華型熱転写プリンターの記録材料(インクリボン)はDNPが世界シェア1位で、5割を超える。2018年現在、業務用のテキスタイルプリンターのシェアはドーバーコーポレーション(MS Printing)が1位だが、コニカミノルタや武藤工業もトップクラスのシェアを持つ[3]。2013年に業務用プリンタ「SureColor SC-F7100」で昇華転写方式のテキスタイルプリンターを初めて投入して捺染市場に本格参入した業務用プリンター大手のエプソンの2016年現在の動向を例に挙げると、業務用フォトプリンターの市場が縮小しつつある一方で、テキスタイル市場の拡大が著しいので、エプソンも自社の得意のインクジェット技術を用いてそちらに注力している[4]
昇華型熱転写プリンターの歴史プリントシール機でよく使われる印刷方式である昇華型熱転写方式

1980年代前半、VTR機の普及により、写真に匹敵する画質の印刷を行えるビデオプリンターの需要が高まっていた。そのため1982年、ソニーがカラービデオプリンター「マビグラフ」を発表。これが世界初の昇華型熱転写プリンターである。ソニーの成功を受け、エプソンやキヤノンを含む日本メーカー各社が昇華型ビデオプリンターの開発に参入した。

1985年には日立製作所も昇華型熱転写プリンターの実用化に成功し、1986年5月、感熱昇華方式を採用した世界初の家庭用カラービデオプリンター「VY-50」が250,000円(標準価格)で発売された[5]。昇華型インクシートは大日本印刷と、感熱ヘッドは京セラと共同開発を行った。発熱素子1ドット当たり64階調の、当時としてはリアルな階調表現が可能であった。

1995年にはゲームセンターでプリントシール機のプリント倶楽部が稼働し、1990年代後半にはプリントシール機が大ブームになるとともに、プリントシール機の一部として昇華型熱転写プリンターも普及した。三菱電機京都製作所が製造した昇華型プリンターは、1997年にプリント倶楽部のフォトプリンターとして採用され、三菱の昇華型プリンターは一気に世界シェアを伸ばした[6]。神鋼電機(現・シンフォニアテクノロジー)の製品も1998年より競合のプリント機に採用され[7]、こちらも一気に世界シェアを伸ばした。

2000年頃にはデジカメブームによって家庭用フォトプリンターの市場が増大し、多くのメーカーが昇華型プリンターで家庭用フォトプリンター市場に参入。HP(Photosmart)とエプソン(カラリオ)の2社だけはフォトプリンターでもインクジェットを採用し続けたが、他のメーカーは昇華型を採用し、2004年当時のフォトプリンターは昇華型が主流であった[8]。大手メーカーの昇華型フォトプリンターとしては、オリンパスの「CAMEDIA」、ソニーの「ピクチャーステーション」などが存在した。2002年には業務用昇華型フォトプリンター大手の神鋼電機も1万9800円の低価格な家庭用昇華型フォトプリンター「COLOR PET SP-100」で50年ぶりにコンシューマに参入したが[9]、家庭用においてはキヤノンの昇華型プリンターである「SELPHY」が強く、ほとんどのメーカーが2010年までに撤退した。

昇華型熱転写プリンター草創期からの大手メーカーであったソニーの動きを挙げると、1990年代後半にデジカメ「デジタルマビカ」と連動したビデオプリンター「マビカプリンター FVP-1」(1998年)などを販売していたソニーは、プリンターは昇華型熱転写方式のビデオプリンターしか展開していなかったが、1998年に小型メモリーカード「メモリースティック」を発売したことを契機として、メモリースティックを基軸としてパソコン (VAIO) やデジカメ(サイバーショット)と連動するAV製品の展開に力を入れ始めた。1999年、ソニーは昇華型熱転写方式を採用したメモリースティック対応家庭用デジタルフォトプリンター「DPP-MS300」を発売し、家庭用フォトプリンター市場に参入。2000年にPlayStation 2対応インクジェット式ビデオプリンタ「popegg」(キヤノンのOEM)を発売して流れに乗るソニーは、2001年に自社開発によるインクジェットプリンター事業に参入し、ソニー初のインクジェットプリンター「MPR-501」を発表。インクジェットプリンタヘッドは「サーマルヘッド方式」を採用することで、昇華型熱転写プリンタで培ったノウハウが生かせるという目論みがあったが[10]、インクジェット方式では家庭用プリンタ大手であるキヤノンやエプソンにはかなわず、シェアが取れなかった。そのため、ソニーは従来の「シリアルヘッド方式」よりも高速・高画質な次世代インクジェットプリンターとして「ラインヘッド方式」を採用した「LD Shot」と称するインク吐出技術の開発を進め、2003年にはラインヘッド方式によるインクの吐出技術の開発に成功したことを発表したが、これを搭載したプリンターは予価が50万円まで跳ね上がったうえに、専用紙やインクの開発などまだまだ難題が多く、ソニーは2004年にラインヘッド方式のインクジェットプリンター「LPR-5000」(350,000円)の受注販売までこぎつけた物の、商業的には失敗に終わった。そのため、「LPR-5000」の受注は2005年をもって終了し、インクジェットプリンター事業自体も2005年に終了した。ソニーのプリンター事業は再び昇華型熱転写プリンター事業のみとなったが、家庭用プリンター事業は2009年発売の「DPP-F700」をもって終了。ソニーは業務用フォトプリンターでも世界的大手だったが、ソニーに昇華型プリントメディアを提供していた大日本印刷に業務用フォトプリンター事業を譲渡し、2010年に業務用昇華型フォトプリンター事業から撤退[11]。以後は医療用フォトプリンター事業に資源を集中している。

プロフェッショナル向け写真印刷の分野においては、2000年代に入るとデジカメの普及と銀塩写真の衰退に伴い、プロフェッショナル向け写真プリント市場において銀塩写真用の「銀塩ミニラボ」がデジタル写真用の「ドライミニラボ」に置き換えられ、富士フイルムやDNPなどの昇華型プリンターが普及した。しかし2010年代に入るとメーカー各社がラインヘッドの実用化に成功するなどインクジェットプリンターの高性能化に伴い、従来は昇華型熱転写プリンターが得意とした写真印刷の分野に各社が続々とインクジェットプリンターを投入し、昇華型熱転写プリンターからインクジェットプリンターへの置き換えが始まった。

インクジェットプリンター「PIXUS」を展開する家庭用プリンター大手のキヤノンは、2011年当時は家庭用フォトプリンターとしては昇華型熱転写プリンター「SELPHY」を展開する、家庭用昇華型熱転写プリンターの最大手であったが、「SELPHY」のプリントユニット自体は自社開発ではなく、初代の「CP-10」(2001年発売)よりアルプス電気のOEMであった[12]


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