架空電車線方式
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日本では、弥彦線越後線和歌山線境線のそれぞれ一部区間、土讃線の電化区間など、日本国有鉄道末期に電化されたローカル線や、銚子電気鉄道線にその例がある。
カテナリー吊架式

カテナリー = Catenary とは懸垂線の意味。
シンプルカテナリー式シンプルカテナリー式の架線のモデル図。A吊架線の支持点の碍子等、B吊架線、Cハンガー、Dトロリ線。シンプルカテナリー
東急大井町線直流1,500 V
駅構内のため絶縁ハンガーを使用

最も多く用いられる代表的な架線である。パンタグラフが接触する部分であるトロリ線と、トロリ線をハンガーと呼ばれる金属線または金属板(5 m 間隔で設置)を吊架線で吊して支持する構造となっており、列車速度は100 km/h 程度までに制限される。なお、この方式にて地方の幹線などでメンテナンス頻度の低減を狙ってトロリ線・吊架線を特に太くし、張力を高めたものを「ヘビーシンプルカテナリー式」と呼び、列車速度は130 km/h 程度までに引き上げられる。なお材質は吊架線は亜鉛メッキ鋼線を、トロリ線は溝付硬銅線を使用している。

改良が進められ、最近では新幹線でも、銅に心を入れた複合構造とすることで機械的強度を高め波動伝播速度を向上させた[注 3]CSトロリ線を使用したCSシンプルカテナリー式(300km/h走行まで対応可能)や無酸素銅にクロムとジルコニウムなどを添加することでCSトロリ線と同等の強度と高リサイクル性を持ち、さらに高導電率、高硬度を達成したことでトロリ線の張替周期延長という経済性を併せ持つ析出強化型銅合金トロリ線(Precipitation-Hardened Copper Alloy Trolley Wire. 略称PHC)を使用したPHCシンプルカテナリー式[1] (350km/h域まで走行対応)が採用されている。PHCシンプルカテナリー式では、吊架線とトロリ線の間に、高速性の確保とトロリ線の局部摩耗の低減のため、ダンパハンガー線とコネクティングハンガー線を取付けている。

CSシンプルカテナリー式は、1997年以降に開業した北陸新幹線高崎駅 - 長野駅間、九州新幹線新八代駅 - 鹿児島中央駅間、東北新幹線盛岡駅 - 八戸駅間で使用されており、PHCシンプルカテナリー式は2010年以降に開業した東北新幹線の八戸駅 - 新青森駅間、九州新幹線の新八代駅 - 博多駅間、北陸新幹線の長野駅 - 金沢駅間、北海道新幹線で使用されている[2]
ツインシンプルカテナリー式ツインシンプルカテナリー式の架線のモデル図。A吊架線の支持点の碍子等、B吊架線、Cハンガー、Dトロリ線。ツインシンプルカテナリー
京葉線・直流1,500 V

シンプルカテナリー方式の架線を2組並べたもの。デュアル、あるいはダブルシンプルカテナリー式とも呼ばれる。100 mm 間隔で架線に並列して架設しており、シンプルカテナリー式とほぼ同じ設備で負荷電流を増大できる。なお、運転密度の高い大都市圏の路線や幹線、連続急勾配区間(瀬野八上り線)で使用されている。
ダブルメッセンジャーシンプルカテナリー式ダブルメッセンジャーシンプルカテナリー
写真の例では饋電吊架式となっている
名鉄空港線・直流1,500 V

吊架線を横に2本並べたもの。風による影響が小さくなるため支持間隔を長くすることができる。
コンパウンドカテナリー式コンパウンドカテナリー式の架線のモデル図。A吊架線の支持点の碍子等、B吊架線、Cドロッパー、D補助吊架線、Eハンガー、Fトロリ線。コンパウンドカテナリー
JR神戸線・直流1,500 V

パンタグラフによるトロリ線の押し上げ量を平均化する目的で、吊架線とトロリ線の間に補助用吊架線を追加し、それを吊架線がドロッパー(10m間隔で設置)で支持して、補助用吊架線がハンガー(5 m 間隔で設置)でトロリ線を支持する方式。列車速度は160 km/h 程度までに制限される。高速走行時の離線が少なく集電容量も増加するため、運転密度が高く高速走行する路線(JR神戸線関西空港線近鉄大阪線阪急京都本線宝塚本線の東側複線を含む)・神戸本線阪神本線南海本線空港線など)で使用されている。新幹線(九州・北陸・北海道新幹線と東北新幹線の一部を除く)では、線を特に太くし、張力を高めた「ヘビーコンパウンドカテナリー式」が採用されており、列車速度は200 km/h 以上まで引き上げられる。
合成コンパウンドカテナリー式合成素子
京急本線・直流1,500V

東海道新幹線では開業当初、高速で通過する集電装置による架線の振動を減衰させるために、コンパウンドカテナリー方式の吊架線と補助吊架線の間のドロッパー(10 m間隔で設置)に合成素子(ばねとダンパーの機能を兼ね備えたハンガー)を挿入した合成コンパウンドカテナリー式が採用されていた。しかし、合成素子の重量による強風の際の架線系全体の揺れが大きく、事故の多発により後にヘビーコンパウンドカテナリー式に改修された。

現在では京浜急行電鉄本線において見られる。
饋電吊架式

カテナリー式の吊架線を、太く電流が流れやすい線条として「饋電線」と兼用させたものを饋電吊架式(フィーダーメッセンジャー)と呼んでいる。そのため、吊架線は饋電線と同じ硬銅より線を使用している。たとえば中央本線などの狭小トンネルで使用される π 架線方式がある。饋電吊架式の大きな利点として、線条数や部品点数を削減できることから、地下区間のほか、地下区間外(トンネル外)でも適用が進んでおり、東日本旅客鉄道(JR東日本)の「インテグレート架線」、西日本旅客鉄道(JR西日本)の「ハイパー架線」などの開発名称がつけられている例がある。また、成田スカイアクセス線の新規建設区間である印旛日本医大駅 - 根古屋信号場間では、饋電吊架式としては初の160 km/h走行に対応が可能な饋電吊架コンパウンドカテナリー式が採用されている[2]
剛体架線式剛体架線
Osaka Metro長堀鶴見緑地線・直流1,500 V

鋼材を直接トロリ線とするものや、鋼材に直接トロリ線をつけたものを「剛体架線式」と呼び、断線しにくいという特徴を持つ。カテナリー吊りのスペースを取れない地下鉄などの地下路線での採用例が多い。架線の柔軟性が無いためにパンタグラフの離線が多く、列車速度は90 km/h 以下に制限されるが[3] [4]、高速走行に対応できる電車線及びパンタグラフを使用する場合には130 km/h 以下となる。そのためJR大手私鉄では、当該区間を走行する際に車両のパンタグラフを2基とも使用することなどで対処している。近畿日本鉄道ではこの弱点を克服するため、「剛体架線を吊架線で吊る」独自の方式を採用し、新青山トンネル近鉄難波線などのトンネルや地下区間で採用している。
自動張力調整装置

トロリ線は気温日照の変動、流れる負荷電流による発熱により伸縮するため、たるみが発生すると集電装置の集電状況が悪化して、トロリ線の磨耗を異常に促進したり、逆に高い張力になると断線する恐れがある。そのため、架線の張力を常に一定の値に調整することが必要となる。そこで、自動張力調整装置、テンションバランサなどとも呼ばれる装置を架線に取付けて、架線の張力を自動的に一定の値に調整している。一般的な架線の張力の値としては、在来線が9.8 kN(1トン重)、新幹線は19.6 kNとしている。一定間隔毎に設置されており、架空電車線の長さが800 m未満の場合は片側、800 m 以上1,600 m 未満の場合は両側に設置する。そのため、架空電車線同士の境目ができてしまうので、そこを電気的に接続しておく必要がある。接続の方法としては、架空電車線同士を少しの間平行に設置して、架空電車線同士をコネクタ(金具)で接続する方法で電気的に接続することによってエアジョイントを設置するため、車両側から見れば架空電車線が入れ替わるように見える。

電気的区分箇所ではコネクタによる接続は行わずエアセクションとする
重錘式(WTB)


重錘式
名鉄名古屋本線・直流1500Vドイツの吊架線とトロリ線を個別の錘で引く例


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