そこで主要なプログラムとして盛んに上映されていたのは、『捨て猫トラちゃん』や『ムクの木の話』といった短編アニメーションであった[9]。教育映画と映画会社の関係は、東映のみならず、1910年代後半の国産アニメーションの登場直後から密接に関わり[9]、日本製アニメーションも「教育映画のサブジャンル」という位置付けを強く担っていた[9]。東映でも社長の大川博が教育映画に強い関心を寄せ[8][9]、1954年に教育映画祭が開始されるなど、教育映画が社会的脚光を浴び始めたこともあり、同年9月、東映でも教育映画の自主製作を始めた[8][9][10]。「十六ミリ映写隊」は「営業部十六ミリ映画課」と名称を変えていたが、1954年9月に設置された教育映画自主製作配給委員会での検討を経て、「営業部十六ミリ映画課」は「十六ミリ映画部」として独立し、1955年6月に「教育映画部」と格上げされた[8][9]。教育映画製作は興行映画に比して事業規模も低く製作費も安く抑えられていた[8]。また劇映画が常設館での上映に対して、教育映画は学校や公民館などでの不定期な上映に依存していた[8]。しかし当時は映画自体を教育上好ましくないとみなし、学童、学生の映画館入場に厳しい視線を向ける地域も少なくなく、特に当時の東映が得意としていた剣戟主体の時代劇は俗悪と見られがちで、これと対照的な教育映画を製作・配給することは、東映にとって社会的地位や評価の向上をもたらすもので、こうした背景から教育映画が劇場の上映プログラムに組み込まれるようになった[8]。このような歴史を経て「教育映画部」の中でアニメーション映画が注目され、1955年3月31日に東映内で「漫画映画自主製作委員会」が開かれ[9]、「十六ミリ映画部」による教育用のアニメーション映画『うかれバイオリン』の制作が決まり[8][9]、日動映画へ製作が委託された[8][9]。

日本動画株式会社は、1948年1月、政岡憲三、山本善次郎らにより設立され[11]、設立当初は新宿の成城高校の空き教室約60坪[12]を根拠地に制作が行われた[12]。1952年8月、日動映画株式会社に商号変更していた[11]。

ディズニーのアニメーションが日本で公開されたのは1950年で、『白雪姫』が最初であった[13]。豊かな物語と縦横無尽に躍動するキャラクター、緻密な作画に極彩色に彩られた画面は、日本の観客に衝撃を与えた[13]。手塚治虫は毎日映画館に通いつめ、繰り返し観たといわれる[13]。ディズニーの長編は日本が戦時体制に入っていたため、日本では戦後に至るまで公開されず[13]、『白雪姫』を皮切りに次ぎ次ぎとディズニーアニメが日本で公開された[13]。ディズニー長編公開の意義は、アニメーションが商業的に成功し得ることを知らしめた点にあった[13]。それ以前の国産アニメーションは、ほとんどが短編で、映画館での添え物的な扱いか、学校での視聴覚教育用などの配給に過ぎず、マーケットは零細であった[13]。

1955年、日動映画の藪下泰司と山本善次郎が東映の今田智憲営業課長を訪ね[14]、「自分たちは日動というアニメの会社を24、5人でやっているんだが、どうも難しい。協力してもらえないか」と相談があり[14][15][16][17]、国際的な映像の仕事としての大きな可能性を感じた今田が大川博東映社長に「東洋のウォルト・ディズニーになりましょう」と進言し日動映画の買収を決めた[14][15][17]。今田は東映の新規事業拡大に多く関わった重役であった[8][18]。大川は映画はズブの素人で[19][20]、映画にはあまり関心がなかったとされるが[20]、教育事業には強い関心を寄せており[8]、1955年10月完成の『うかれバイオリン』を大川が気に入り[8]、日動映画の買収を決めたという[8]。大川がアニメーションの参入にどれほど真剣であったかは、本人の発言や回想からははっきりしない[13]。