『マキシム』誌によると、ギリアムはこの映画の撮影中あまりにストレスを感じたため、両脚の感覚が1週間、完全に麻痺したという。 ギリアムはこの映画を、『バンデットQ』(1981年)に始まり『バロン』(1989年)で終わる「3部作」の2作目と称している。これらの映画の共通テーマは、「ぶざまなほど統制された(awkwardly ordered)人間社会の狂気と、手段を選ばずそこから逃げ出したいという欲求」である。 映画に描かれた政府の全体主義的な官僚政治は、ジョージ・オーウェルの小説『1984年』に似ている。ギリアムはこの映画について「『1984年』にインスパイアされているが、オーウェルの小説を再現するのではなく今日的な視点から未来を描いたものである」と語っており、また「ウォルター・ミティ(ジェームズ・サーバー著の短篇小説の登場人物)とフランツ・カフカの出会い」とも述べている。ギリアムの言葉によれば、『未来世紀ブラジル』は「1984年版『1984年』」である。実際に、この映画の制作中のタイトルは『1984 1/2』だった。またギリアムは1984だけでなく、ヴィジュアル・スタイルに関しては、フェデリコ・フェリーニの『8 1/2』にも影響を受けていると語っている[2]。『ブラザーズ・グリム』プロモーションで来日した際、ギリアムは「企業と政府の体制を維持するため如何にテロリストが必要とされるか、という『ブラジル』のテーマが現代アメリカの問題に重なる。戦争を正当化するためテロが用いられているところなどそっくりだ」と発言している。 ロバート・デニーロは当初ジャック役を希望していたが、ギリアムはすでにその役をマイケル・ペイリンに約束していた。デニーロがそれでも出演を希望したため、タトル役に決まった。 ギリアム監督の次女が、マイケル・ペイリン演じるジャックの娘役でワンシーンに登場している。 この映画では全編に渡ってブラジルの作曲家・アリ・バホーゾ
テーマ
キャスト
音楽
サムの職場の従業員が見る映画には、『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』の、王子救出のためにランスロットが城を襲撃するシーンの音楽が使われている。この音楽は、ユニバーサル社シドニー・シャインバーグ編集の版では削除されている。 階段を床磨きマシンが落ちていくシーンは映画『戦艦ポチョムキン』の、「オデッサの階段」の乳母車が階段を落ちていくシーンのオマージュである。 ストーリー中盤、主人公サムの前に、甲冑を着けた巨大な「サムライ」が立ちはだかる。サムがサムライを倒して、甲冑を外すとその顔はサム自身の顔だった。これは、「Sam, You Are I(サム、お前は俺だ)」を短く発音すると「サムライ」になることからきているジョークである。 サムが劇中移動手段として使うひとり乗りの小型公用車はメッサーシュミットKR175をベースにしている。 『未来世紀ブラジル』で特徴的なことは、その視覚イメージである。重要な役割を占める視覚的要素のひとつとしてダクトがある。サムのアパートには修理不能な空調設備を隠す金属パネルの壁がそびえ立っており、彼のヒーローは、この怪物のごとき空調を手なずけることのできる唯一の人物・修理工タトルである。ラウリーが母親、母親の友人、その友人の社交下手な娘とランチを食べるシーンでは、レストランの中央にフレックス・ダクト製の巨大なオブジェが飾られている。サムが珍しく(治安妨害のおそれもありながら)夜間にオフィスを訪れたときには、床磨きマシンがだだっ広い無人のロビーで爆発し、フレックス・ダクトをずるずると引きずることになる。 さらに、ダクトは社会階級の構造のモチーフにもなっている。労働者階級のバトルの家庭では、家族は日々の活動を邪魔するダクトをよけながら暮らさなければならない。サムの家ではダクトは見えないが、その存在は常に(故障時などは特に)意識せざるを得ない。記録省ではダクトは環境の一部として目に見えるが、従業員の頭上にある。情報省ではダクトはまったく存在しない(このことが最も顕著な特徴である。貧困と無力さはダクトの侵襲性と反比例する)。そして、すべてのダクトの末端は、独裁的な情報省に繋がっている。 主人公は情報省に対し奇跡的な勝利を収め、恋人と田舎へ逃亡する。しかし現実は、主人公サム・ラウリーは大臣の拷問により発狂しており、彼の逃亡の夢は、傷つけられた心が見た幻想でしかなかったことが突如明らかにされる。テリー・ギリアム監督のオリジナル版は、絶望的な最期を迎える。 ユニバーサル・ピクチャーズの上層部はエンディングが不適切だと考え、ギリアムに最後の部分をカットするよう要求した。映画スタジオにより作成されたバージョンはこの映画の3年前に公開された『ブレードランナー』と同様に、消費者ウケのするハッピーエンドバージョンで、サムとジルが逃亡先で田園生活をはじめるという、いわば愛は全てに打ち勝つといったものだった。 このバージョンは、アメリカでテレビ放送され、ギリアム監督を悩ませることになる。一時94分まで短縮された「ハッピーエンド版」に対し監督自身が再編集を施し、131分の版がアメリカ国内で公開された。これは、宣伝や公開の方法に問題がなかったわけではないものの、「興業的には惨敗」とみなす意見が多い。 今日DVD等で観られるヴァージョンは、ヨーロッパで20世紀フォックスの配給で公開された143分のオリジナル版で、ギリアム監督自身「ハッピーエンド版」の雲の上を飛行するオープニングは改善されたと認めている。NHK-BS2の『衛星映画劇場』では、基本的にオリジナル版だが雲の映像など「ハッピーエンド版」を一部取り入れた折衷版が放映され、現在発売されているブルーレイにも「スペシャル・カット版」と題してこのバージョンが収録されている。
オマージュ
その他
エンディング
脚注^ “Brazil
^ “ ⇒Terry Gilliam”. 2020年4月6日閲覧。
^ “Michael Kamen
参考文献
バトル・オブ・ブラジル 『未来世紀ブラジル』ハリウッドに戦いを挑む(ジャック・マシューズ著、柴田元幸訳。ダゲレオ出版)
関連項目
ディストピア
日経スペシャル 未来世紀ジパング?沸騰現場の経済学?
未来は今 - コーエン兄弟は『未来世紀?』にインスパイアされてこの映画を作った。
未来検索ブラジル - 社名の由来が『未来世紀?』。
外部リンク
Brazil 。Watch Page 。DVD, Blu-ray, Digital HD, On Demand, Trailers, Downloads 。Universal Pictures Home Entertainment(英語)
未来世紀ブラジル|映画/ブルーレイ・DVD・デジタル配信|20世紀スタジオ公式
未来世紀ブラジル 。Disney+(日本語)
未来世紀ブラジル - allcinema
⇒未来世紀ブラジル - KINENOTE
Brazil - オールムービー(英語)
Brazil - IMDb(英語)
表
話
編
歴
テリー・ギリアム監督作品
1970年代
モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル(1975)